オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』では毎日いろんな記事(僕が日々の仕事の中で学んだこと)を書いているのですが、時々、まだ僕の頭の中で上手くまとまっていないことなども備忘録的に書いたりします。
今回は、そんな備忘録の中から『もう一つの未来を迎えに行く』という記事を選んで、加筆修正しました。
加筆修正したところで、まだ上手くまとまっていませんが、そんなことも踏まえながら読んでいただけると嬉しいです。
【連載「革命のファンファーレ~現代の労働と報酬」】
第14回 作為的に「不便」を作ることで「創造」へとつながる
白熱する稽古現場
『映画 えんとつ町のプペル』の再上映がスタートしました。
泣いても笑っても、ハロウィン当日(10月31日)に上映は終了します。
「なんで、もっと長い期間やらないの?」とか、「なんで、もっと観やすい時間にやらないの?」という声をたくさんいただくのですが……上映期間や上映館数をグッと絞ることで1館あたり(1上映あたり)の来場者数を増やしたり、平日の朝に「舞台挨拶」を入れたりして(※タレントさんなら絶対にやらない!)、全国の劇場さんの信用(映画の再上映ってアリなんじゃね?)を獲得する年だと思っています。
さて。
そんな映画の再上映の裏では、ファミリーミュージカル『えんとつ町のプペル』の制作がグイグイと進んでいます。
昨日は悪者役の岡幸二郎さんが、「こんな登場の仕方はどうだろう?怖くない?」と素敵なアイデアを出してくださって、稽古場にいる全員が「怖ぇぇーー!」と沸きに沸きました。
踏み込んだ話をすると、今回の公演の会場(東京キネマ倶楽部)は、もともとはグランドキャバレーだったので、あるハズの装置が無く、無いハズの装置があったりするので、演劇やミュージカルをやるとなると、難易度が上がります。
#そんなことを差っ引いても素敵すぎる劇場なのです
美術セットを吊るす(天井の)バトンが十分にあるわけではないので、「美術セットを大々的に入れ換えて場面転換」みたいなこともできません。
ワンシチュエーションの物語であれば、それでもなんとかなりますが、『えんとつ町のプペル』は、「町」に「地下空間」に「煙突の上」に「煙の中」に「星空」に、大忙し。
「セットを転換せずに、どうやって場面を転換するんだよ」という問題が常につきまといます。
さらには、劇場の構造上、「完全暗転(真っ暗のやつ!)」ができません。
台本に「※ルビッチ、暗転中に舞台袖にハケ」と書いたところで、完全暗転ができないので、舞台袖にハケていく姿がお客さんに見られてしまうんですね。
そうすると、「台詞を言うためにステージに出てきて、台詞を言い終わったらステージからハケていった」みたいになっちゃうので、なんか恥ずかしい感じです。
通常は、暗転中にセットを転換したり、役者が出たりハケたりするのですが、「完全暗転ができない」となると、「暗転が無い芝居」を作るしかありません。
もちろん、これは劇場装置の話なので、「稽古をスタートしてから分かったこと」ではありません。
ファミリーミュージカル『えんとつ町のプペル』は、「先々、世界中のいろんなところで公演する」という計画案があったので、「それならば、最初から、演劇には不向きな場所で公演をおこなって、そこで作品の『雛型』を作りましょう」となり、今回の会場に白羽の矢が立ったわけです。
「ここでやれたら、次からは、どこでもやれるだろう」と。
(※僕が好きで好きでたまらない劇場なので、名誉の為に、くれぐれも言っておきますが「ミュージカル向きではない」というだけで、「ライブ」をやるには最高の劇場です)
さて。
今回の劇場でミュージカル公演をするにあたって問題を抱えていることは把握していましたが、問題の解き方を持ち合わせていたわけではありません。
それもあって、ファミリーミュージカル『えんとつ町のプペル』の稽古場は、「こうすれば、突破できるのでは?」というアイデアがたくさん飛び交っています。
実にクリエイティブな現場です。
違う未来
チーム一丸となって、大量のナゾナゾを解き続ける毎日で、その中からは「セットを吊るすバトンがあったら思いついてなかったアイデア」や「完全暗転できていたら生まれていなかったアイデア」が時々混じっています。
それらのアイデアは、「バトン」や「完全暗転」を利用した演出よりもずっと魅力的で、その時、僕らは「不便」に感謝します。
ここからが今日の本題になってくるのですが……。
僕らは今、「誰かが解決してくれた不便」の延長に生きています。
『砂利道』だと走りにくいから『アスファルト』が生まれて、
セットや役者を入れ換える為に『暗転』が生まれて、
僕らはそれを利用して生きています。
当然、『アスファルト』や『暗転』に不便を感じることはありませんから、僕らは「走る道」や「セットや役者の入れ換え」に【創造】を持ち込みません。
基本的には、【創造】をもたらしているのは、不便であって、便利と創造は反比例関係にあります。
ただ、忘れてはいけません。
『「走る道」や「セットや役者の入れ換え」がまだ不便だった頃には、「アスファルト」や「暗転」以外の、別の解決策があった』ということを。
あの時、違った解決策を選んでいれば、違う未来があったのです。
淘汰された結果が今なので、ほとんどの場合においては最適解が残っています。
なので、これらの最適解を無視してゼロから作るとやはり不発に終わるケースが多いのですが……しかしながら、時代は流れます。
少なくとも今回の作品においては「最適解であるハズの『暗転』を失ったことによって生まれた演出」が功を奏しています。
僕はよく、「その地点から思考をスタートさせるからキミは創造ができないんだ」と言います。なんて生意気なヤツなのでしょう。
あらゆる『創造』は枝分かれした先にあります。
なので、かなり根元に立ち戻って、右の枝に進まずに、左の枝に進んでいたら、また全然違った展開が待っています。
そして、時々、その先に、とても魅力的な『実』がなっている場合がある。
なので、以上のことを踏まえて、一度、作為的に『不便』を作って(アイデアの根本に立ち戻って)、そこから「今の知識と今のテクノロジーで何ができるか?」を考えると、人が『創造』と呼ぶ答えに辿り着くかもしれません。
今回の舞台で、そのことを何度も経験しているので、考えが固まってしまう前に皆さまに共有させていただきました。
ホラ。
「ソロバン」はある時代では最適解だったハズですが、「ソロバン」をどれだけアップデートしたところで、「スマホの計算機」には辿り着かないでしょう?
そういう話です。
ザックリした話でごめんなさい。
西野亮廣/Akihiro Nishino
1980年生まれ。芸人・絵本作家。モノクロのペン1 本で描いた絵本に『Dr.インクの星空キネマ』『ジップ&キャンディ ロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』。完全分業制によるオールカラーの絵本に『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』『チックタック~約束の時計台~』。小説に『グッド・コマーシャル』。ビジネス書に『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『新世界』。共著として『バカとつき合うな』。製作総指揮を務めた「映画 えんとつ町のプペル」は、映画デビュー作にして動員170 万人、興行収入24億円突破、第44回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞という異例の快挙を果たす。そのほか「アヌシー国際アニメーション映画祭2021」の長編映画コンペティション部門にノミネート、ロッテルダム国際映画祭クロージング作品として上映決定、第24回上海国際映画祭インターナショナル・パノラマ部門へ正式招待されるなど、海外でも注目を集めている。
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