2019年1月の対面から早2年半。その間、津田さん率いる「はやぶさ2」プロジェクトチームはリュウグウの地下物質サンプルを地球に届け、ホリエモンはMOMOの打ち上げを連続で成功させるまでになった。ビジネス面でも躍進を遂げ、絶好調に思える宇宙業界のリアルとは? 国と民間、それぞれの立場から思いの丈をぶつける! 宇宙の最前線で活躍する仕事人の徹底取材を始め、生活に密着した宇宙への疑問や展望など、最新事情がよくわかる総力特集はゲーテ11月号にて!
堀江貴文「小惑星でウランを採掘して恒星間飛行をやりたいんです」
堀江貴文(以下堀江) 小惑星探査機「はやぶさ2」の小惑星リュウグウからのサンプルリターン成功。おめでとうございます。
津田雄一(以下津田) ありがとうございます。実際のところ内情はスムーズでもなかったんですけどね。小惑星リュウグウへの着陸は地形が凸凹すぎて大変でした。運用チームのチームワークの力で成功したと思っています。サンプルを地球に戻した後も、はやぶさ2はとても健全なので次の目的地に向かっています。「2001_CC21」と「1998KY26」という、まだ記号でしか呼ばれていない小惑星をそれぞれ2026年と’31年に観測します。
堀江 太陽系のどこら辺にある星なんですか。
津田 はやぶさ2の行ける範囲内です。地球と火星の間で、太陽を回っている星ですね。
堀江 それぞれ面白い星なんでしょうか。
津田 2001_CC21は岩石でできているんですが、どんな岩かわからない星です。1998KY26は差し渡し40mほどの小さな星ですが、10分に1回という高速の自転をしています。表面に降りたくても、遠心力で振り切られちゃうので降りられないんです。表面の砂や石が全部吹き飛ばされた、岩の塊じゃないかと推測されていますが、本当のところは行ってみないとわかりません。こういう高速回転している小惑星は、わりと数が多くて、地球に落ちてくる隕石も高速回転天体が多いんです。つまり白亜紀末期に地球に落ちて、恐竜絶滅の原因になったとされている隕石の仲間みたいな星なんですよ。探査には科学的意義に加えて、プラネタリー・ディフェンスといいますが、破滅的被害をもたらす巨大隕石の落下から地球を守るにはどうしたらいいかの基礎的な調査、という意義もあります。
堀江 もうサンプルリターンはしないんですよね。
津田 地球帰還カプセルは使っちゃいましたからね。2001_CC21は横をさっと通り過ぎるだけですが、1998KY26は近くでじっくり時間をかけて観測する計画です。もう主目的は達成したので、これからはリスクもとって、僕らの持っている技術の限界を試す挑戦になります。楽しみですよ。
堀江 投資は回収したから冒険できるってことですね。
津田 減価償却が終わったって感じでしょうか。
堀江 地球に持って帰ってきたサンプルの分析で、もうわかったことってありますか。
津田 今は各地の研究者にサンプルの配布が始まったところです。サンプルに有機物がそれなりの量含まれていて、水に関しては、水素原子が見つかったので、間接証拠は掴んだというところですね。
スペースXはすごいが日本にも基礎技術あり
堀江 有機物で、どんなことがわかりそうですか。生物の痕跡とか。
津田 有機物は炭素原子がずらっと連なって、そこに水素とか酸素とか窒素がくっついていますが、注目点は、その炭素の鎖が、どれくらいの長さの分子が存在しているかです。生命はかなり鎖の長い複雑な分子をつくりますから、うんと鎖の長い分子が見つかったら、それは生命の痕跡かもしれません。とはいえ、炭素の鎖が長い分子って、熱と水があると自然に生成するんですよ。科学としては、その昔、大きい惑星の中心にマグマだまりとか温泉があって、そこで鎖の長い分子ができた後に星が砕けて、小惑星になったというシナリオも描けます。だから、すぐに生命の起源とはいえないでしょうね。
堀江 やっぱり小惑星は面白いなあ。JAXAは小惑星探査では世界をリードしていると思うんですが、小惑星って月とか火星とかと同じく、人類の宇宙進出の拠点として、なかなかいい場所じゃないですか。資源があって扱いやすくて、行きやすいと思うんですけれど。
津田 そのとおりです。表面重力が小さく、往復飛行しやすいのは小惑星ですし。資源という意味では、科学者の間では意見が分かれています。とはいえリュウグウには結構な量の炭素があるので、うまく使えばロケットの燃料が現地でつくれるかも。
堀江 もうつぶれちゃったんですが、以前プラネタリー・リソーシズという、小惑星の資源を利用しようとした宇宙ベンチャーがあって、そこは「小惑星を宇宙のガソリンスタンドにする」と言っていました。もっと重い元素ってないですかね。ウランとか。
津田 小惑星のなかには金属でできたものもありまして……。
堀江 M型小惑星ですね。
津田 さすが。ご存知でしたか。M型小惑星は火星と木星の間の小惑星帯というところに、それなりの数があります。少し遠くて、はやぶさ2の能力じゃ行けないのですが、NASAはもうすぐ「サイキ」という探査機をM型小惑星に向けて打ち上げようとしています。そこならウランもあるかもしれません。
堀江 希望はあるんですね。僕ら、もっと遠くに、太陽系を出て恒星間飛行とかしたいんですよ。そうすると原子力推進が必要になるんですが、地球から核燃料のウランを打ち上げるのは、やっかいな問題がいっぱいあって。それなら、空っぽの原子炉を打ち上げて、小惑星に行って、現地でウランを掘って精製して恒星間飛行したらどうだ、とか考えているんです。適当な小惑星をくりぬいて、恒星間宇宙船に仕立てるとかですね。
津田 工業的に採算の合う濃度で、まとまった量のウラン鉱石が存在するかどうかがカギになりますね。アメリカでは一時期小惑星に行くという話も出ていましたが、今は有人月探査と、その先に火星という流れになっています。
堀江 思うに、やっぱり狙うべきは小惑星ですよ。今、アメリカではイーロン・マスクのスペースXが「スターシップ」という直径9m、全長112mもの巨大なロケットをつくっています。そのために「ラプター」という超高性能ロケットエンジンまで開発しました。スターシップは完全に火星への着陸を前提にした設計です。重力のある火星に行くには、あれだけの大仕かけが必要になるんです。
津田 すごい技術ですよね。それでも、火星に降りて往復飛行で戻ってくるのは大変なはず。
堀江 でも僕らインターステラテクノロジズは今、「ZERO」という超小型人工衛星打ち上げロケットを開発していますが、「ZEROの次は?」って考えた時に「ラプターみたいな超高性能エンジンって、実は僕らでもつくれるんじゃないか」と話し合っています。スペースXはすごいけれど、日本だって基礎になる技術の下地はあるんですよ。1回ロケットエンジンができてしまえば、国より民間のほうが物事の進む速度が速くなると思っています。民間は失敗したらお金がなくなって株主が怒るだけなんで。スペースXはスターシップでは何回もチャレンジングな試験をやって、爆発してもそこから教訓を得て高速開発を回しています。しかも爆発映像はYouTubeで世界中の誰でも見ることができますよ。
津田 あの、どんどん爆発させて前に進む姿勢はものすごくうらやましいです。技術開発では失敗から得られる知識がいっぱいありますから。民間はリスクの取り方も自分で決めることができますね。国の予算で開発をやると、どうしても「失敗は許されない」となってしまう。「技術開発の正しいやり方はそれだ」ということが民間から広がっていくと、JAXAのやり方も変わってくると思うんです。
対談後編はこちら!
※宇宙の最前線で活躍する仕事人の徹底取材を始め、生活に密着した宇宙への疑問や展望など、最新事情がよくわかる総力特集はゲーテ11月号にて!
Yuichi Tsuda
1975年広島県生まれ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究所教授。小惑星探査機「はやぶさ2」のプロジェクトマネージャーとして、2020年に小惑星リュウグウからのサンプル採取、地球への持ち帰りを成功させた。
Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。2006年から有志の集まり「なつのロケット団」でロケットの開発を開始。’13年にロケット・ベンチャーのインターステラテクノロジズを立ちあげるなど、さまざまな分野で活動する。