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2021.08.09

外食産業のレジェンドが地方創生に挑む【バルニバービ佐藤裕久 後編】

30年前に起業し、大阪・南船場にカフェレストラン1号店を開業。東京を中心に92店舗の飲食店や宿泊施設を展開するバルニバービ。佐藤裕久社長の次代を見据えた展望は「地方創生」だという。淡路島西海岸で繰り広げる地元も巻きこんだ新事業について、その意義と今後について聞いた。後編。前編はこちら

新商品はすべて必ず試食

町の信頼を得ることも大切

地方再生のもうひとつの壁は、地元に受け入れてもらえるかどうかだ。だが、バルニバービのように10年以上も前から淡路島の食材を使ってきた飲食店は、地元とのつながりが既にできている。もっと言うならば、より現地の食材を消費することになる。玉ねぎなどの野菜も、卵も、肉や魚も、できる限り地のものを使うから、島の生産者たちも潤っていく。

自社のスタッフだけでなく、島の人も、ずっとここに住みたいと思ってもらえるよう、地元を巻きこんだイベントの開催も計画している。例えば「アワフェス(シャンパン、ビール、サイダーなど泡ものをみんなで愉しむお祭り)」や「オニパー(玉ねぎスープを大鍋でつくって無料配布する)」だ。

「人を呼びこむことと、住む人を増やすことは同じ。その地の魅力を体感してもらえば、そこへ結びつく」と言う佐藤社長。

今後、淡路島に移住したい人を受け入れる施設も建設中だという。数年前に廃校になった旧尾崎小学校の校舎を買い取り、そこにコワーキングスペースとオープンカフェ、子供たちがゆっくり過ごせる図書室をつくる。

また、使われていなかった公民館は、サウナやテラスもある宿舎に改装し、社員だけでなく、リモートワークで島を訪れる人に1ヵ月単位で貸しだすそうだ。次から次へとアイデアが湧きでるだけでなく、実際にそれを形にする。その原動力はどんなところにあるのか。

沈みゆく夕陽

2019年に開業した300席のレストラン「GARB COSTA ORANGE」から見えるサンセットは、まさに非日常の瞬間。慌ただしい生活では見ることのない自然風景とその偉大さをひしひしと感じる時間になる。

「僕は好きなことしかしないし、昔から好きなことが変わらない。たおやかにカッコよくみんなが笑える社会をつくれたらいいと思っているだけ。ただ、その答えが見つかっていないからこそ、楽しいことを仕かけていく。

あと先考える前に、一歩踏みだす僕のバカさ加減は、他の人にはないかもしれません(笑)。誰か初めに覚悟をして進む人が必要だから、僕はこれからもそれを担っていきたい」

2015年に東証マザーズに上場したことで、優秀な人材がさらに集まり後継者が育っている。今後は、自身も東京や三浦の自宅のほか、1年の3分の1を淡路島で暮らしたいという。

南淡路の広大な土地に寄宿舎つきの学校をつくり、一般の学校では生きづらい子供たちを受け入れるのが夢だと語る。

「それを実現するには、資本効率を問われないお金も必要なんですよね」だから今欲しいものは「リターンからリリースされたお金」だと笑う。

この人なら、それも必ず実現するのだろうと思わせられる、自信に満ちた笑顔だった。
 

佐藤の仕事は決断、決断、決断の連続

国内外に92店舗の飲食店などサービス施設を展開し、さらに新たな店舗を増やすバルニバービグループ。その頂点に居る佐藤社長には、瞬時の判断が求められる。タイミングや時流、情勢などすべてを鑑みて、決断していく。経験値や直観力があってこそのそんな日々も、もう慣れっこだという。

仕事の流儀1:新商品はすべて必ず試食する
2021年6 月にオープンの「中華そば いのうえ」の準備期間中には、何度もラーメンを試食した。味だけでなく、食材の質、価格決めなどすべてについて意見を言う。だが、最終判断は現場のスタッフに任せるのが佐藤流。

仕事の流儀2:打ち合わせは大事な交流の機会
600名近い社員とは、できる限り対面してコミュニケーションを図る。仕事ぶりだけでなく、家族やバックグラウンドなども知ることで、それぞれの働き方を提案できる。現地視察などのちょっとした合間も、打ち合わせの場をもうける。

打ち合わせは大事な交流の機会

仕事の流儀3:その場に行って何を感じるかが要
宿泊施設に改装する公民館の跡。建設地やリニューアルする場所には必ず自分で足を運ぶ。建物だけでなく、その地が持つポテンシャル、周辺環境なども微細に調査するとともに、自身で雰囲気を感じたいからだ。そこに立てば見えてくるものが必ずある。

仕事の流儀4:開かれた遊び場をコンセプトに再生
旧尾崎小学校にも赴き、設計図を確認しながら現地で確認をする佐藤社長。蔵書数千冊の図書室で子供たちが過ごす間、親同士が食事やお茶を楽しむレストランやテラスカフェなどもオープン。コワーキングスペースも含め2021年に開業予定。

開かれた遊び場をコンセプトに再生
 

多彩な業態を創造し続けたバルニバービ30年のあゆみ

南船場で第1号店を開業してから26年。その事業はカフェレストランなど飲食店の開業・運営にとどまらず、ホテル経営、スイーツブランドの立ち上げ、飲食店プロデュースなど多岐にわたる。根底にあるのは、佐藤社長の熱い想いと動物的ともいえる直観力。トレンドを見いだし、人を喜ばせる力が潜む。

印刷工場をリノベ新発想で人を呼ぶ

あゆみ1:印刷工場をリノベ新発想で人を呼ぶ
バルニバービ初のピッツエリアとして東京・文京区小石川に開業した「青いナポリ」。使われなくなった印刷工場をリノベーションする発想で話題に。50坪のガーデンテラスにはガゼボやパラソルが並び、まるでヨーロッパのリゾートのようだ。

1号店は伝説のカフェレストラン

あゆみ2:1号店は伝説のカフェレストラン
26年前、大阪・南船場に開いたバルニバービ第1号のカフェレストラン「Hamac de Paradis」。当時、人の流れがなかった南船場に突如現れたお洒落なレストランは話題になり人を集めた。この店の成功が、「CAFE GARB」出店につながった。

南船場ブームの火つけ役的存在

あゆみ3:南船場ブームの火つけ役的存在
バルニバービのシグネチャー店ともいえる「CAFE GARB」の1号店。天井高5m、開放感のある1階から個室もある4階まで、それぞれ趣を変え300席の店舗を開業。大阪最大のカフェといわれ、開店するやいなや多くの人で賑わった。

東京エリアの旗艦店イースト東京を活性化

あゆみ4:東京エリアの旗艦店イースト東京を活性化
イースト東京が注目されるきっかけとなったのが、「Riverside Cafe Cieloy Rio」の開業。隅田川沿い、スカイツリーを望む場所に300席のカフェレストランをオープンさせた。淡路島ブランドの野菜や和牛を用いた本格ビストロ料理が評判。
 

佐藤裕久の3つの信条

1. 計算(打算)より本能と感覚

「事業展開する際、利便性や人流などのデータ、つまりマーケティングが重要視される。だが僕にはデータは不要。そこに行きたいと思う感覚や未来の発展を感じる本能を大切にする」

2. 失敗こそ成功への道

「若い頃の失敗があったからこそ今がある。27歳の時にアパレル会社を手放す経験をした。それがなかったら、その後起こした今の事業でもっと大きな失敗をしていただろう」

3. 心は時に自然と一体化する

「淡路島の食材を10年前から使っているが、当初は出店には思いいたらなかった。通うたびに美しい自然の力やご縁に導かれ、ここで事業を起こしたいと心から思うようになった」

 

Hirohisa Sato

Hirohisa Sato
1961年京都市生まれ。実家は西陣の和菓子店。神戸市外国語大学を中退後アパレル会社を起業。’91年にバルニバービを創業。国内外に飲食店など商業施設を展開する。施設プロデュースや起業、経営のコンサルティングも手がける。著書に『一杯のカフェの力を信じますか』(河出書房新社)などがある。

TEXT=中井シノブ

PHOTOGRAPH=鞍留清隆

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