YOSHIKI氏がワインをプロデュースし始めて12年。年々反響は高まり、ビジネス的には大成功。だがそこには、曲作りと同様、後世に残るワイン造りを目指すアーティストとしての葛藤があった。
後世に軌跡を残すYOSHIKIのワイン造り
エンタメ界きってのワイン通といって間違いないであろうX JAPANのリーダー、YOSHIKI氏。単なるワイン好きにとどまらず、銘醸ワイン産地のカリフォルニアで、自らワインをプロデュースする唯一の日本人アーティストである。
映画監督のフランシス・フォード・コッポラや俳優のブラッド・ピットのように、ワイナリーを経営し、ビジネスとして成功している例もあるが、YOSHIKI氏の場合、初めからビジネスありきでワインのプロデュースに乗りだしたわけではなかった。
「利益だけを追求してワイン造りを始めたら、芸術作品を生みだすことなどできないと思います。それは僕が曲を作る時も同じ。このアレンジを変えれば万人に受けて利益につながる、なんて考えたら、それはもはや芸術ではないのでは」
偉大なワイン造りの血統と音楽で磨いた感性の融合
きっかけは、ロブ・モンダヴィJr.との出会いだったという。ロブは、あのオーパス・ワンを生みだした近代カリフォルニアワインの父、ロバート・モンダヴィの孫である。ワイン造りのパートナーとして、これ以上心強い人物がいるだろうか。
YOSHIKI氏はナパ・ヴァレーに足繁く通い、ロブもYOSHIKI氏のライブを訪れるなど、両者は公私ともに交流を深めていった。
テレビ番組のブラインドチェック企画でもワインを外したことのないYOSHIKI氏。自分の味覚、臭覚、聴覚を含めた、感性の鋭さには自信がある。
ブドウのチェックやブレンディングをともに行い、徐々に理想の味へと近づけていく。そうしたやりとりを繰り返しながら造られる「Y by YOSHIKI」のプロジェクトは、2009年にスタートした。
「自信はありましたが、最初は手探り状態。周りには失敗する理由を数多く並べ立てる人もいました。ご存知のようにオーパス・ワンはロバート・モンダヴィと、ボルドーに一級シャトーのムートンを持つロスチャイルド家とのコラボレーションですが、彼ら自身も当時はうまくいくかどうかわからなかったと思うんです。『オーパス・ワンに匹敵するクラスのワインを造ろう』というロブからの提案に、僕たちは意気投合したんです」
祖父ロバートからワイン造りの精神を受け継ぎ、毎日、ワインのことだけを考えている男、ロブ・モンダヴィJr.。一方、日々音楽家としての感性を磨き、研ぎ澄まされた五感を持つ男、YOSHIKI。ふたりの才能が融合し、ワインというひとつのアートを紡いでいく。
「まずは最高の作品を生みだすこと。音楽もワインも、素晴らしいものを作ればビジネスは後からついてくる。そういったビジョンの元、皆さんのサポートのおかげもあり、5年目からは予想以上の売り上げを達成し続けています。多くの反響があり、生産が追いつかないほどです」
しかし、それでも無闇やたらとビジネスを拡大しないのがYOSHIKI氏である。これまでもリリースは不定期で、ヴィンテージの欠番も少なくない。
「ほぼ毎年試してはいるんです。しかし最終的に僕が納得できなければ、『Y by YOSHIKI』は出しません。僕は、ビジネスより先に“最高のものを生みだしたい”という気持ちがある。妥協はしません。自分が考える芸術に、妥協という文字はないんです」
オークヴィルの最新作はナパのカルトワインも凌ぐ
オーパス・ワンも生みだされるナパ・ヴァレーの銘醸地、オークヴィルのブドウのみから造られた「カベルネ・ソーヴィニヨン オークヴィル ナパ・ヴァレー 2016」が、ブランドのフラッグシップとして’18年暮れにリリースされ、瞬く間に完売。心待ちにしていた次のヴィンテージが昨年12月に登場した。YOSHIKI氏にとってもこれは自信作。スクリーミング・イーグルなど、ナパ・ヴァレー最高レベルのカベルネ・ソーヴィニヨンと飲み比べても引けをとらない仕あがりで、多くのソムリエやワイン愛好家から高評価を受けている。
「試作段階で何人かのソムリエさんとも試飲しました。比較のためにオーパス・ワンなども一緒に開けたところ、『最初の15分は、香りの立ちあがりが早いオーパス・ワンのほうがインパクトは強いが、Y by YOSHIKIは時間が経つにつれてクオリティが増していく』といった意見を多くいただきました」
ワインには、しばしば造り手のパーソナリティが反映されるといわれるが、このワインにもYOSHIKI氏の性格や人間性が映しだされているのだろうか。
「繊細なのに深みがあり、口当たりがスムースなのに余韻が長い。ふたつの相反する要素が1本の中に共存しているという点で、僕に似ていると言われたこともあります(笑)」
繊細なピアノを弾き、激しくドラムを叩くYOSHIKI氏ならではの返答かもしれない。
「新しいワインを出すたびに手応えを感じています。音楽もいろいろな楽曲を聴くことでスキルが上がる。経験値が作品の完成度を高めるのは、作曲の世界もワイン造りの世界も近い存在かもしれないですね」
また慈善活動にも積極的なYOSHIKI氏。昨年は新型コロナと戦う医療従事者のため、国立国際医療研究センターに多額を寄付。そうした活動が認められ、この春に紺綬褒章(こんじゅほうしょう)を受章した。
「今はパンデミックで多くの人が苦しんでいます。ただ、悲観的になってばかりではいけない。光を見ようとすれば見えてくる。今をしっかりと生きることが大切だと思うんです。間接的ではありますが、そんななかで、自分の作った曲やワインが少しでも心の支えや癒やしになるのなら、これほど嬉しいことはありません」
インタビュー当日は、’19年ヴィンテージのワインを試飲していたというYOSHIKI氏。これは’17年よりもさらに進化しているらしい。すでに完成しているといわれる’18年同様、そのリリースが今から待ち遠しい。
Y by YOSHIKI Collection
昨年末に発売されたワインはこの5種類。超人気で初回出荷分は瞬殺完売!
※ワインの価格はすべて輸入元の希望小売価格