PERSON

2021.04.16

『約束の宇宙(そら)』公開記念! 宇宙飛行士・山崎直子特別インタビュー【前編】

本日公開の映画『約束の宇宙(そら)』。今作のスペシャルアンバサダーであり、2010年にスペースシャトル(STS-131/19Aミッション)に搭乗し、15日間のミッションをやり遂げた宇宙飛行士・山崎直子さんに特別取材。作品で描かれている宇宙飛行士の夢と葛藤について聞いた。インタビュー後編はこちら

宇宙飛行士・山崎直子さん

©NASA

「サラとは境遇が似ていて、共感もあり、場面によっては胸が締め付けられた」

誰しも幼い時に、「将来はこうなりたい」と憧れの職業を夢見たことがあるだろう。映画『約束の宇宙(そら)』の主人公・サラは子供時代から宇宙への思いを募らせ、宇宙飛行士として厳しい訓練を重ねてきた。そして夢の実現は、前任者との交代という形で突然やってくる。

宇宙に旅立つまで、わずか2ヵ月。参加出来なくなったメンバーの代わりとして急遽選ばれ、中途からプロジェクトに加わる事への重圧、ひとり親として抱える幼い娘への心配と、地球を離れるまでにやっておかねばならない親としての課題。映画は限られた時間のなかで仕事に家庭にと、最大限に努力するサラの姿にフォーカスを当てている。

――映画を見て、多くの観客がサラのモデルのひとりとして山崎さんを思い浮かべると思います。山崎さんもサラも宇宙へ飛び立つ時、子育て中の母親でした。

境遇が似ていて、共感するところが多々ありました。その分、シーンによっては、自分が責められている気も(笑)。私の時は、2003年にコロンビア号が事故に遭い、スペースシャトルの宇宙飛行の再開の目途が立たないなか、それでもできるところから訓練を開始したんですね。訓練先としてロシアやアメリカに行ったのですが、子供が保育園に行きたくないと泣いた時もあって。引っかかる気持ちを持ったまま訓練し、それがうまくいかないとなると、状況が重なって落ち込んでしまうこともありました。

――サラはいきなり宇宙への赴任を言い渡されるわけですが、「なぜ、このタイミングで」という説明はいっさいありません。

断片的にストーリーが展開するので推測ですが、最初に決まっていたクルーに何かしらの理由があり、途中からサラがプロジェクトに入ることになったのでしょう。実際でも、そんなにしょっちゅうではないですが、交代はあり得ること。途中から加わったクルーは大変です。訓練も短い期間で凝縮してやらなくてはいけない。他のクルーとの信頼関係もわずかな期間で築かなくてはならない。映画でも最初はぎくしゃくしていましたよね。

約束の宇宙

――チームのリーダーであるアメリカ人宇宙飛行士のマイクの言葉は、サラの「女性性」への牽制が入っていて、ジェンダー・ギャップを意識づけるものです。実際にそのようなことを発言する宇宙飛行士はいるのでしょうか。

流石に、この映画で出てくるような言葉を言う人はいないですね。NASAを舞台にした映画『ドリーム』の時代からは改善していると思います。とはいえ、現在、職員のうち、3割は女性。これが宇宙飛行士となると1割くらい。男女比はまだまだアンバランスで、改善してほしいところです。女性宇宙飛行士は人数が少ないうえ、子育てをしているとハンディもあり、女性ならではの苦労が多い。そこに男性が気づいていないという面はありますね。

――サラがマイクの挑発に負けじと、男性並みに遠心加速度をかける訓練に挑む場面がありました。山崎さんはどのようにご覧になりましたか。

遠心加速度を上げていく際に『肋骨が折れないか、気をつけなさい』とも言われていましたよね。やはり身体に負荷がかかる訓練です。ソユーズでは通常で4G弱、宇宙船に不具合が起きると、瞬間、ストンと重力が8Gくらい肉体にかかることがあるんです。そのため、私も本訓練は行いました。人間というのは想像だけでは対処が難しい。事前に体感しておくと、万が一の時に対処がしやすいんです。

――サラは毎日15kmほど走りこんでいました。山崎さんも同じようなトレーニングをされていましたか。

筋肉トレーニングは、訓練で負荷をかけた筋肉の回復期間が設けられていたので、毎日はできず週2〜3回でした。ランニングは人によりますが、私はサラのように15kmは走っていないです(笑)。ただ、毎年体力測定もあるので、皆、時間を見つけて体力づくりをしていましたよ。

約束の宇宙

――今作におけるドラマの負荷は、サラの娘のステラが学習障害を持っているということです。環境が変わるとパニックを起こす可能性がある。宇宙での勤務で1年間も離れるのは親として心配ですが、あの親子の抱える葛藤は、いろいろな宇宙飛行士を見てきた山崎さんにはどのように映りましたか。

自分だけで、子供のケアをできないというもどかしさは皆同じですね。宇宙にいる間はもちろん、訓練の過程でも離れないといけないので、誰かに子供を託さざるを得ない。自分でできない分、やはり心配です。ただ映画では、サラと離れたことによって、娘のステラが成長したという描写がありました。苦手だった算数で『優』をとったよ、と報告する場面のように、離れることで逆に成長したところもある。ステラとサラは飼っている猫がいて「猫は環境が変わると心配」とステラは言いますが、それは自分と重ねていたのかもしれない。そういうエピソードには共感しました。宇宙飛行士というのは訓練に応じて、場所を転々としなくていけない職業です。本人は望んで就いた仕事ですが、それに付き合わされている家族の方は大変だと思います。

Naoko Yamazaki
1970年千葉県生まれ。'96年に東京大学大学院航空宇宙工学専攻修士課程修了。'99年にJAXA宇宙飛行士候補者に選ばれ、2010年にスペースシャトル搭乗。国際宇宙ステーション(ISS)組立補給ミッションに従事した。現在は内閣府の宇宙政策委員会委員、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事、女子美術大学客員教授などを務める。

『約束の宇宙(そら)』公開記念! 宇宙飛行士・山崎直子特別インタビュー【後編】はこちら

約束の宇宙
『約束の宇宙(そら)』
幼少期からの夢である宇宙に行くため、ひとり親として娘を育てながら日々訓練に励んでいたフランス人宇宙飛行士のサラ。そんなある日、サラは“Proxima(プロキシマ)”と名付けられたミッションのクルーに選ばれる。宇宙に旅立つまでわずか2ヵ月。過酷な訓練に挑むサラに、娘から「打ち上げ前に、2人でロケットを見たい」とお願いされ――。
2019/フランス
監督:アリス・ウィンクール
出演:エヴァ・グリーン、マット・ディロン、ザンドラ・ヒュラー
配給:ツイン
4月16日(金)よりTOHO シネマズ シャンテほか全国公開

TEXT=金原由佳

PHOTOGRAPH=©︎Carole BETHUEL ©︎DHARAMSALA & DARIUS FILMS

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