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2021.04.17

『約束の宇宙(そら)』公開記念! 宇宙飛行士・山崎直子特別インタビュー【後編】

現在公開中の映画『約束の宇宙(そら)』。今作のスペシャルアンバサダーであり、2010年にスペースシャトル(STS-131/19Aミッション)に搭乗し、15日間のミッションをやり遂げた宇宙飛行士・山崎直子さんに特別取材。映画で描かれている宇宙飛行士の夢と葛藤について聞いた。インタビュー後編。前編はこちら

山崎直子さん ポートレイト

優先させるのは規則か、感情か。宇宙飛行士の葛藤とは。

――宇宙飛行士には厳しい規則が設けられています。しかし、それを守るか、守らないかは宇宙飛行士の裁量にゆだねられているという描写がありました。

ええ、明らかに規則違反と思われる場面もありました。

――宇宙飛行士が、理性より感情を優先させる描写をどうご覧になりましたか。

規律との板挟み、葛藤をこう表現するんだなと思って見ていました。サラは娘との大切な約束を守ることを重要視しますよね。その行動には賛否があり、一概に良い悪いは言えません。私はあの行動が間違っているとも断じきれないんです。常にバックアップの交代要員がいると描かれていたように、宇宙飛行士は何かあったら交代させられるという緊張感をもって過ごしています。フライトサージャンという宇宙飛行士の健康管理をする医師たちは、ケアをしながらも、いざとなったら、その宇宙飛行士の宇宙へ行く資格を剥奪するポジションにいます。なので、そこはもろ刃の剣。どこまで相談して話していいのか、常に悩むところなんです。だからこそ、日頃からお互いに信頼を培う努力をしています。

――山崎さんはどの段階で、その緊張から解放されましたか。

スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、エンジンを着火して、地面から離れるまでは何があってもおかしくないし、発火しても事故があるかもしれない。地上を離れても何があるかわからないので、宇宙に着いて少し安心しましたが、一番ほっとしたのは地球に戻ってから。それまでは息がつけないです。

――宇宙から戻られて、地球特有の重力というものは感じましたか。

宇宙から地球に戻った時に重力の大きさを感じました。紙一枚でも、持つと重い。特に自分の頭が重く感じて、まるで漬物石が乗っているようでした。普段は意識していませんでしたが、これだけの重力が毎日かかっているんだなと驚きました。15日間の宇宙滞在だったので、地球に戻って3日目には普段の生活に戻れたのですが、半年間も宇宙にいた人は、地球に戻ってから45日間をかけて復帰に向かいます。実は、宇宙の無重力より地球の重力に再適応する方が時間がかかるのです。

約束の宇宙

――映画のエンドロールにこれまで宇宙に行った女性宇宙飛行士の名前が出てきます。そこには山崎さんのお名前もありました。山崎さん自身、モデルケースとしてみていた女性宇宙飛行士はいましたか。

エンドロ-ルにもあったキャサリン・コールマンさんですね。コールマンさんは旦那さんが他の州で働いていたので、訓練中は、息子さんをワンオペで育てていました。私もその時は、夫が日本と現地を行ったり来たりで同じような状況だったので、訓練中に励ましあっていた仲なんです。

――ヨーロッパでは身体に障害を持つ宇宙飛行士を募集しています。日本での宇宙飛行士の現状はどのようなものでしょうか。

障害のある宇宙飛行士の育成は、さすがヨーロッパだなと思いました。日本はまだそこまでいっていませんが、今までの募集要項にあった理系大学のみを、文系や短大まで広げる検討をしているんです。

――とはいえ、数式の知識は必要ですよね。

数式にもいろいろなレベルがありますから。中学生レベルの四則演算や基礎知識があれば、訓練の内容を学んでいけると思います。エンジニアや数式に強い専門家はきちんといるので、すべての人に高度な数学の知識は必要ないんです。宇宙飛行士に大切なのは役割分担であり、知識や技術はお互いの専門分野を活かしてチームで補い合えることだと思います。

約束の宇宙

――山崎さんは娘さんからの発想を得て、重力のない宇宙空間で色付きのシャボン玉が作れるか実験されました。また宇宙に行けたら、どんな挑戦をしたいですか。

船外活動をやりたいですね。前回は訓練したものの、実践できなかったので。もっと長く滞在できるなら、植物や動物を育ててみたいです。映画『ドリーム』に出てきた宇宙飛行士のジョン・グレンさんは77歳で再び宇宙に行きましたが、実際には50代で引退する人が多い。今後はもっといろんな人が宇宙に行けるように枠を広げていけたらなと思っています。

――大切な人が一生の夢を叶えるチャンスに恵まれた時、パートナーとしてどのようにあるべきか、アドバイスをいただけますか。

この映画はサラの状況だけでなく、周囲の人達がしっかりと描かれているのが好きな点です。サラの別れた旦那さんも娘のサポートをしてくれていたりと、よき理解者でもある。男性も女性も、一人だけで訓練して、子育てをして、家事をして……というのは物理的にできません。宇宙飛行士は訓練中の評価基準に〈自己管理〉の項目があるんです。自分のことは自分でしっかりマネージメントする。そこには、困った時に早めに周囲にヘルプを言えるという要素も入っています。男性も女性も、その助けにきちんと耳を傾け合える、そんな社会であったら嬉しいです。

Naoko Yamazaki
1970年千葉県生まれ。’96年に東京大学大学院航空宇宙工学専攻修士課程修了。’99年にJAXA宇宙飛行士候補者に選ばれ、2010年にスペースシャトル搭乗。国際宇宙ステーション(ISS)組立補給ミッションに従事した。現在は内閣府の宇宙政策委員会委員、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事、女子美術大学客員教授などを務める。

『約束の宇宙(そら)』公開記念! 宇宙飛行士・山崎直子特別インタビュー【前編】はこちら

約束の宇宙
『約束の宇宙(そら)』
幼少期からの夢である宇宙に行くため、ひとり親として娘を育てながら日々訓練に励んでいたフランス人宇宙飛行士のサラ。そんなある日、サラは“Proxima(プロキシマ)”と名付けられたミッションのクルーに選ばれる。宇宙に旅立つまでわずか2ヵ月。過酷な訓練に挑むサラに、娘から「打ち上げ前に、2人でロケットを見たい」とお願いされ――。劇中の音楽は坂本龍一が手がけている。
2019/フランス
監督:アリス・ウィンクール
出演:エヴァ・グリーン、マット・ディロン、ザンドラ・ヒュラー
配給:ツイン
TOHO シネマズ シャンテほか全国公開中

TEXT=金原由佳

PHOTOGRAPH=©︎Carole BETHUEL ©︎DHARAMSALA & DARIUS FILMS

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