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2020.11.22

『メゾン カカオ』石原紳伍【前編】コロンビアのカカオに魅せられた元ラガーマンがチョコレートで世界を目指す

いま、日本のスイーツ業界で鎌倉を拠点とするチョコレートブランド『MAISON CACAO(メゾン カカオ)』が抜きんでた存在になりつつある。販売するのはチョコレートでありながら、その姿勢はライフスタイルブランドに近い。世界ブランドを目指す代表・石原紳伍さん(36)に、ユニークな経歴と仕事論を聞いた。

コロンビアの自社農園で採れたてのカカオをもつ石原紳伍さん。

グッチの隣に並ぶ日本発のチョコレート店とは?

今年の6月、横浜駅西口に新商業施設「ニュウマン横浜」が誕生した。全115店が出店する同施設には名だたるラグジュアリーブランドが揃うが、グランドフロアはその顔ともいえる場所。そこに、グッチ、ティファニー、バレンシアガ等と並ぶ唯一の国内ブランドがある。鎌倉発祥のチョコレート店『MAISON CACAO』だ。

従来だったら、ゴディバやジャン=ポール・エヴァンだったかもしれない。それが、創業5年目の一般認知度もこれからというブランドが選出された。JRを口説き落とすだけの実力と信念が『MAISON CACAO』にはあったからだ。代表の石原紳伍さんは言う。

「パリの一等地にはパリのブランドがあるのに、日本の一等地には日本のブランドがない。飛行機のビジネスクラスでもANA、JALともにフランスのチョコレートブランドを扱う。それはエールフランスなら分かるけど、海外から日本に来る人たちが多く利用する航空会社なら、日本のブランドを紹介して欲しい。表参道も海外ブランドばかり。だから、僕たちはそこに負けないようにクオリティを上げて、日本のチョコレートが世界のハイブランドに匹敵する哲学をもって展開していると発信したい。その機会が欲しいとJRさんに話したんです」

6月24日、「ニュウマン横浜」にオープンした「MAISON CACAO」。メゾンの玄関をイメージし、大きく開口した入り口がスタイリッシュだ。

かくして、『MAISON CACAO』はグッチとバレンシアガの間に堂々とオープンした。その並びに見合う美しい店構えで、天然石材による空間はジュエラーのような優雅さも醸す。

そもそも、右肩上がりで躍進中の会社であり、熱心なファンを増やしているブランドだ。昨年6月のG20大阪サミットと10月の即位の礼では各国元首への手土産に選ばれ、ANAのハワイ便ビジネスクラスでも提供されるようになった。来春までには実店舗が全国8軒に拡大し、次の夏にはいよいよパリに進出する計画もある。

2019年の即位の礼で各国元首への機内手土産に選ばれた人気商品「生ガトーショコラ」。小麦粉不使用のため滑らかな舌触りで、カカオの味が濃厚。¥2,700(税込)

そんな気鋭のショコラテリアを作った石原さんはどんな人かといえば、つい6年前まではリクルートに勤める会社員だった。パティシエの修業をしたわけでもなく、それどころかチョコレートが苦手で食べられなかったという。そして、名門出身の元ラガーマン。異色の経歴からどう人を魅了するチョコレートを生み出すようになったのか、背景を知るとブランドの哲学と美味しさの秘密がみえてきた。

看板商品となる「アロマ生チョコレート」は、これまで34もの種類を展開。¥2,160〜(税込)「純米酒 雪男」や「天使の誘惑」など酒造とのコラボレーションも好評。ともに¥2,592(税込)

敏腕経営の裏にラグビー仕込みのチーム力あり

生まれは大阪の下町で、焼肉店を営む両親の仕事を間近に見て育った。

「軒先にカウンターがあって、中にテーブル、その奥にある家に住んでいました。夜中までお客さんの笑い声が寝ているところまで聞こえてきて、常連さんにイジられたり、隣に座らせてもらったり。消費者と生産者の境目がない、いまでいうサードプレイスみたいな店でしたね。学校までの道のりは大阪の鉄工所が多いエリアで、鉄の焦げた臭いがして、物作りをしている人たちが周りにたくさんいました。飛行機が好きで夢はパイロットだったけど、どういうわけか中学でラグビー部に入部して、気づいたら大学までラグビー漬けの日々。でも、ラグビーを通して社会のシステム、組織の作り方を学んだ気がします」

中学時代は大阪代表のキャプテンを務め、高校は『スクール★ウォーズ』でもおなじみの名門・大阪工業大学附属高校に進学。その後、推薦で帝京大学に進むというラグビーエリートの道をたどる。大学時代、一学年下には日本代表の堀江翔太選手がいた。

鎌倉の『CHOCOLATE BANK』は旧東日本銀行鎌倉支店跡地をリノベーションした空間。かつて中南米でカカオは貨幣として流通していた時代もあり、元銀行を抜擢。

しかし、輝かしい成績の一方で、当時の伝統校は超体育会系であり、厳しすぎる上下関係に疑問をもっていた。そこで大学4年になり初代学生コーチに任命されると、伝統校の悪しき常識を次々と覆しチーム作りの改革を行う。

「全寮制で朝から晩までラグビー。ひとりの先輩に弟子がふたりつき、先輩のシャワーに洗濯、スパイクの管理や飲みものまで、すべて弟子がお世話するという世界でした。正直、無駄な上下関係でしたね。体育会系の伝統校はそういうところが多くて、大学に入った時にそれをなくしたかった。というのも、一年生が伸び伸びとプレーできないと強くなれないからです。強豪校はレギュラー15人に対して部員が120〜130人いて、7軍8軍まであります。

1軍が強いところは2軍や3軍が強くて、要は8軍が強くないと1軍が強くならない。8軍のメイン層は1年生と試合に出られなくなった4年生なので、まず取りかかったのは1年生がトレーニングに集中できるようにすること。彼らに掃除や洗濯をさせる弟子制度をやめました。あとは4年生を腐らせないようにコミュニケーションをとりにいく。日本一にするために学生コーチに任命されたので、決意をもってやっていましたね」

身近な学生コーチからの提案であれば選手たちも素直に話を聞きやすい。プライドを捨てて、高校時代のチームメイトがいる早稲田や慶應の練習を見に行き、チームに必要なことは何かを分析したりもした。また、監督と選手の間に入ることで意思疎通を活発にし、いつしかチームには風通しのいい環境が出来上がっていた。そのシステムが定着してから間もなく、帝京大学は前人未到の9連覇を達成する。

経営者となったいまも石原さんのチーム作りは変わっていない。

「もの作りをする時に会社とするのが好きじゃなくて、僕が言い始めたことにメンバーが加わって“チーム”になっていくイメージです。いろんな個性が集まって、会議も上下なく話し合いアイデアを出し合う。(トップとして)生産者がカカオを作る時間、加工するショコラティエ、プレゼンターとして売ってくれる人、そしてお客さんが食べる時間まで、そういう時間を繋ぐ役割でいたいと思っています」

実際に鎌倉の店舗を訪れた時、販売スタッフが軽くツッコミを入れるノリで石原さんと談笑する様子を見た。思うに、上が強すぎる会社はかしづく接客になりがちで、マニュアルも多い。ここでチョコレートを買った時は、スタッフが自由かつナチュラルに話してくれたから、楽に買い物ができた。進化した体育会系が上手く作用していることが店舗にも表れていた。

販売スタッフと談笑する石原さん。「CHOCOLATE BANK」にはカラフルなパッケージのチョコレートが並び、選ぶ時間も楽しい。

コロンビアでの風景から新たな夢が始まった

大学卒業後は日本通運に勤め、約1年後にリクルートホールディングスへ。「パイロットにはもうなれなかったけど、リクルートに入ったのは世界に向けた勉強がしたかったから」と、その頃から漠然と海外を視野に入れていた。最初の仕事はホットペッパーの広告営業だった。

「広告を通じて集客をするというより、個人店からリージョナル、ナショナルチェーンまで飲食店にはそれぞれの課題がたくさんあって、その課題解決のために広告を使って欲しい、一緒に夢を掴みましょうという感覚で営業をしていました。親が飲食業をしていたので、そういう意識が自然と生まれたのだと思います」

当時、社内全体の営業のギネスは一年で200軒だったが、石原さんは3年目で一年の新規顧客の発注1300軒を達成。その成績をかわれて契約から幹部候補生となったが、社内の私設塾で本を読み漁るうちに「世のため人のためになることをしたい」と、ある種とてもクラシックな理由で起業の意思が芽生える。

そんな時、ほぼプライベートで訪れたコロンビアへの旅がその後の人生を大きく変えた。正確には”ある風景”が分岐点だった。当時のクライアントの影響でチョコレートに興味をもち、エクアドルやベトナムなどカカオの生産地を個人で周っていた頃、コロンビア中央部にあるマニサレスという街を訪れた時のことだ。

「朝起きると街中がチョコレートの香りに包まれていました。山間の高低差がある街で、そこで見たのはカカオを積んで行き来するトラクターや、カカオを栽培する生産者たち、道端で楽しそうにチョコレートドリンクを飲む人たち。すべてが交わっているチョコレートのある日常がすごくステキで衝撃を受けたんです」

コロンビア産の良質なカカオはスーパーフードでもあり、「ローストカカオニブ」や「カカオバター」も展開。ともに¥2,160(税込)

両親の背中をみていた地元での原体験が呼び起こされるようだった。そのような感情にホットペッパーで出会った多くの飲食店からの気づきが重なる。そして、明確なひとつの目的がみえた。

「ここの風景のように、日常でチョコレートを楽しむ文化を日本で作りたい」

コロンビアで目の当たりにしたチョコレートのある豊かさを日本に伝える。この文化を日本で昇華させたい。そのためには、コロンビアで畑をもち、カカオ農家の協力や現地パートナーを得る必要があり、石原さんはそれら課題をがむしゃらに実現させていく。

5年後の成果は冒頭の通りだ。もうひとつ大きいのが、2018年に『MAISON CACAO』は海外企業で初めてコロンビア政府公認の認定マーク(コロンビアの貿易や投資促進を担う企業としての認定)を得るブランドになったこと。さらに、なんとコロンビアに学校まで建てたというのだから、ただのチョコレート会社ではない。

その詳細と人を惹きつけてやまない味わいについては後編にてお伝えする。チョコレート嫌いだったのにいまは大好物になったことにも、確かな理由があったーー。

『CHOCOLATE BANK』の金庫室内はカカオを使用したガストロノミーレストラン『ROBB(ロブ)』となっている(完全予約制)。

Shingo Ishihara
1984年大阪府生まれ。帝京大学のラグビー部で活躍し、大学4時に初代学生コーチに就任。卒業後は日本通運に勤め、その後リクルートホールディングスへ転職。企画営業、ブランドクリエイティブ、社長秘書を経験。2015年に独立し、コロンビア産カカオによるチョコレートブランド『ca ca o』(現MAISON CACAO)を創設。カカオディレクターを務める。旅と飛行機好き。3児の父。

『MAISON CACAO』ニュウマン横浜店
住所:横浜市西区南幸1-1-1 ニュウマン横浜1階
TEL:045-548-6212
営業時間:11:00~20:00(平日)、11:00~19:00(土日祝)
maisoncacao.com

TEXT=大石智子

PHOTOGRAPH=松川真介

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