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2020.08.02

ついに実戦勝利!「競馬を通じ”ウマ”社会のためにできること」【武豊アブミプロジェクト⑨】

ジョッキーにとって、騎乗時に足を踏みかける「アブミ」は極めて重要な仕事道具。しかし、武豊曰く「30年前から何も変わってないし、俺もそんなに気にしたことなかった……」。それが昨秋、ゴルフクラブブランド「MUQU(ムク)」のアンバサダーとして名古屋の工場を訪れた際に、ふと閃いた! 「そんなに気にしたことはなかったとはいえ、どこかで気にはなっていた。何とかならないかな?」と。30年のジョッキー人生を懸けた一大プロジェクトを「ゲーテ」が独占でお届け。

新アブミをつけて騎乗した函館スプリントS(GⅢ)でダイアトニックに騎乗して見事に勝利。©アフロ/日刊スポーツ

今回からついに「シーズン2」が開始! アブミ製造も決まり、若手ジョッキーなどから「僕らも買えるんですか?」と聞かれる武豊は言った。「今、こういう状況(コロナ禍)だから、何かこのアブミからできないかな……」

コロナ禍に翻弄され

前回のシーズン1連載(全8回)から数ヵ月。本来なら、初めての日本製アブミの騎乗シーンや、馬具を装着した検量室前など写真盛り沢山でお届けする予定でしたが、コロナ禍は競馬界にも及んでおり、想定していたシーンの取材は断念せざるを得なかった。

武豊がこだわり抜いたアブミは、実はGW前には完成しており、当初、3歳クラシックでの使用を模索していたが、 (説明を兼ねて会うことが必要だった) 納品に際しての接触を避けるため、使用開始が遅れてしまった。

武豊:「しょうがないよね……。早く使いたかったけど、夏競馬まで我慢しよっか」

6月中旬。立ち上げ時からプロジェクトに携わっている筆者は、製造メーカーの担当技術者とともに函館へフライトする前の武豊と久しぶりに接触。もちろん、都内ホテルで密を避け、マスク越しに本人に説明したのち、無事に納品した。

武豊:「これか(笑)、良いね! やっと手にできたわぁ……」

筆者:「手元にある資料は、負荷がかかる箇所や現在日本で売られている(海外製)アブミの破壊検査などの細かな詳細です」

技術者:「大学の研究所で、今回1つの仮説として、競走馬に乗る騎手の人(体重)の安全基準目安みたいなものを算出しました。レース中の負荷などを計算すると、7~8kn(キロニュートン)約700キロ以上だと安全です」

武豊:「この表を見ると……。俺じゃないけど、他のジョッキーが使っているモノもあるけど、7knの下もあるね」

筆者:「これは推測ですが、過去に、ここまでの強度テストや力学的にテストをしてない可能性が高いですね。素材や形状によって、強度不安箇所も違うことが今回判明しましたし、破壊検査的にもバラバラな数字ですから」

今回、武豊に渡した30セットの全てにおいてレントゲン検査を施し、「巣」が入っていたモノは検品で弾き、作り直して納品した。

武豊:「この30個はどういう数字なの?」

技術者:「ハイ、全て14kn以上は出てますし、強度的な不安は一切ありません」

武豊:「今週末(6月20日)から函館騎乗だから、そこから使おう。本当は現場で感触や使用感も見てもらいたいけど、中(競馬場)に入れないからなぁ。またすぐに電話で知らせます」

30セットのアブミを受け取り、確認をする武豊。

30セットのアブミを受け取り、確認をする武豊。

初装着2日で4勝(GⅢ1勝)と大活躍

そして、いよいよ新たなアブミを装着しての騎乗を迎えた。土曜日メインレースの函館スプリントS(GⅢ)で1番人気のダイアトニックに騎乗して見事に勝利を収めると、日曜日にはモンファボリに騎乗した新馬戦で5馬身差のレコード勝ち。2日間の騎乗で4勝を飾ったのだった。

その翌日に早速、報告の電話がきた。

武豊:「よかった! マジで良いね!」

声が弾んでいた。続けて武豊はこう言った。

武豊:「皆(他の騎手)がさ、”できたんですねアブミ”って。俺が作ってるのを知っててさ、何人かが”試したいです”って言うから渡したのよ。そしたら”どこで買えるんですか?”って……。まだ売ってないんだよね?」

筆者:「ハイ、製品化はされてませんが、金型があるから作ろうと思えば、作れます」

武豊:「じゃあ作ろっか?」

筆者:「えっ? どこが発注する形になるんですか?」

武豊:「んっ?」

武豊に説明した。知らなくても良いプライオリティだが、世に出すには必要なプロセスの説明として。世の中のモノは発注と受注があり、作るのは簡単だが、コストの問題もあり、今回の場合、「どこがアブミメーカーになるのか?」「発注主はどこになるのか?」を決めないと……。つまり事業主を決めないと事は進まないことを。

武豊:「そっか……分かった」

数分後に折り返し電話が鳴った。

武豊:「今さ、量子さん(奥様)に説明したから。すぐにコバ(筆者)に電話あるから経緯とか話してよ」

筆者:「分かりました」

新アブミを鞍に装着!

新アブミを鞍に装着!

新アブミをつけて騎乗した函館スプリントS(GⅢ)でダイアトニックに騎乗して見事に勝利。©アフロ/日刊スポーツ
「俺がヤルわぁ……」
会話の詳細はさておき、奥様にも事情説明。「この先、他の騎手にもちゃんとした馬具を使えるようになって欲しい」という武さんの思いを話した上で、彼自身が動かなかったら、今回のMade in Japanでここまで進めなかったことも付け加えた。

翌日、武さんから電話がかかってきた。昨日の奥様と筆者との電話に不備があったのだろうか?

武豊:「俺がヤルわ……」

筆者:「えっ? 武さんが?」

武豊:「だって……誰かがお金を払わないと(先に)動かないんでしょ?」

筆者:「確かにそうですが……金型など相当高いですよ!」

武豊:「まっ、お金の話はええんよ……。量子さんとも話して、ちょっと相談なんやけど、売上の何%かを、団体なのか基金か分からんけど、馬の社会に還元できたら良いなと思って。どう思う?」

筆者:「アリだと思います! 今、まさにこういう状況下(コロナ禍)でもありますし、引退馬のサンクスホースとか馬事振興とか、馬産地の何かとか」

武豊:「それを考えて欲しいんやけど……」

筆者:「ハイ、考えるのは考えますが、そうなると、アブミ事業が完全にもう商売じゃなくて、となるのですが良いんですか?」

武豊:「俺、武豊やで!(笑)」

ある意味で、想像と想定を超えていた。

結論。本来、製造原価や販管費などを除いた粗利(本来は投下資本の回収である)を計算するものだが、武は、自ら一切の資金を出して製造を動かし、その粗利相当も「寄付」をするという。

武豊:「俺のワンオフモデルが全てのジョッキーに良い(合う)、とは言えないけど、1つの基準としてでもいいし、欲しいって言う若手とかいるしさ……。やっぱり日本製のちゃんとした馬具を使って欲しいしね。あっ! ルメールも欲しいって言ってたわ(笑)」

やっと完成したアブミを手に微笑む武豊。

やっと完成したアブミを手に微笑む武豊。

「アブミ基金をサステナブルに」

緊急事態宣言の解除後も、東京の情勢は予断を許さないが、会って話し合わないといけないこともある。宿泊先のホテルにある中華の円卓に2人。その距離は3m以上あった。

武豊:「外食なんて何ヵ月振り(笑)。まっ、ホテルからは(怖くて)出られないけどさ……」

筆者が感染しても「東京都40代男性1人」とカウントされるが、武豊はそうじゃない……。JRA・競馬界そのものの「動き」を止めてしまう。それを彼は知っている。

武豊:「この前、阪神で(川田)将雅もアブミを見て、”早く作りたい”って言ってるし、調教アブミも考えないとね」

筆者:「この前、納品したステンレスの次に、少し軽量版のアルミがありましたよね?」

武豊:「それも作るよ。だから、まずはステンレスとアルミを注文して、俺とは乗り方が違う将雅のタイプも作れば、いろんなジョッキータイプに対応できると思うしね」

メモを取りながらスケジュール感を伝えていく。

武豊:「本当なら、もうすぐオリンピックだったよね……」

筆者:「基金の話ですが、馬事振興とか、馬術の人がオリンピックで使ってくれたりしたら宣伝になって、購入された一般の乗馬の人も巻き込めてサステナブルな社会になればと思いまして……」

武豊:「ジョッキーは人数が限られているけど、ゴルフのスクールじゃないけど、乗馬のスクールもあるし、アブミを通じて馬の社会が繋がって、貢献していければ良いよね。ドンドン考えていこうよ!」

コロナ禍に加えて、豪雨災害など、日本中が疲弊している。言わずもがな、この状況下で競馬が開催できている事に、何より感謝している武豊。慣れないリモート取材を受けたり、騎手会として海岸のゴミ拾いをするなど、自身を発信源にする事で、競馬の「今」を伝えてきた。

その感謝の歩みの1つとして、対価を伴う社会貢献活動と、何より持続性を持った「アブミ基金」を決めた。

誰もが、できる事ではない。

10回目に続く

アブミプロジェクト「シーズン2」は、社会情勢に最大限配慮し、不定期ですがアップしていきます。

Yutaka Take
1969年京都府生まれ。17歳で騎手デビュー。以来18度の年間最多勝、地方海外含め100勝以上のG1制覇、通算4000勝達成など、数々の伝説的な最多記録を持つ。2005年には、ディープインパクトとのコンビで皐月賞、日本ダービー、菊花賞を制し、史上2例目となる無敗での牡馬3冠を達成。50歳を迎えた2019年も、フェブラリーステークス、菊花賞を制覇。昭和・平成・令和と3元号同一G1制覇を達成した。父は元ジョッキーで調教師も務めた故・武邦彦。弟は元ジョッキーで、現調教師の武幸四郎。

Santos Kobayashi
1972年生まれ。アスリートメディアクリエイション代表。大学卒業後、ゴルフ雑誌『ALBA』の編集記者になり『GOLF TODAY』を経て独立。その後、スポーツジャーナリストとして活動し、ゴルフ系週刊誌、月刊誌、スポーツ新聞などに連載・書籍の執筆活動をしながら、映像メディアは、TV朝日の全米OP、全英OPなど海外中継メインに携わる。現在は、スポーツ案件のスタートアッププロデューサー・プランナーをメイン活動に、PXG(JMC Golf)の日本地区の立ち上げ、MUQUゴルフのブランディングプランナーを歴任。

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