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2021.04.02

軽量化を実現した”武豊モデル”で川田騎手も騎乗!【武豊アブミプロジェクト10】

ジョッキーにとって、騎乗時に足を踏みかける「アブミ」は極めて重要な仕事道具。しかし、武豊曰く「30年前から何も変わってないし、俺もそんなに気にしたことなかった……」。それが2019年秋、ゴルフクラブブランド「MUQU(ムク)」のアンバサダーとして名古屋の工場を訪れた際に、ふと閃いた! 「そんなに気にしたことはなかったとはいえ、どこかで気にはなっていた。何とかならないかな?」と。現在、右足甲骨折からの復活を目指すレジェンドジョッキーの競馬人生を懸けた一大プロジェクトを「ゲーテ」が独占でお届け。第10回は、武豊のアルミタイプのアブミを使用した川田将雅騎手の感想とは?【ついに実戦勝利!「競馬を通じ”ウマ”社会のためにできること」#9】

武豊のアルミ製が完成!

2020年夏にシーズン2の連載を開始するも、一向にコロナ禍の社会情勢は改善されず、withコロナにおける手探り取材を慎重に筆者は進めていた。しかし、アブミ製造においてもサプライチェーンが平時ではなく、原材料の調達に時間を要するなど様々な影響を及ぼしていた。また、コロナ禍による取材規制により本プロジェクトに関する写真撮影さえもままならない状況だった。

それでも、もちろんアブミ製作は続けており、いよいよ他のジョッキーにも行き渡る「数」が完成。続いて、当初の計画通り、ステンレス製の基本形状は同じまま、素材をアルミに変えたタイプを作っていた。

武豊:「ステンレスは150g弱から裏を削って125gぐらいでしょ? アルミだと95g前後とかだから、夏場など斤量を気にする馬に乗る時なんかは俺も使いたいしね」

素材をアルミ製に変え、軽量化を目的とした開発は順調に進んでいった。

筆者:「年内にギリギリ間に合えば、有馬記念が楽しみですね(笑)」
武豊:「まあ(笑)。気長に待つわぁ。アルミにしたら強度がどうの? って言ってたし、どこか太くしなきゃダメなんだろうし、でも安全担保は絶対だしね」

その通りである。第三者機関による破壊検査の合否によっては、製造が大幅に遅れる場合もある。

アルマイト加工にて、マットな黒に仕上げたアルミ製アブミ。

アルミの1円玉と比べると質感が違うのが分かる。

図面はメーカーの企業秘密ゆえに詳細は出せないが、アーチと踏み板の結合部分と、革紐を通す箇所に強度不足が指摘され、設計手直しを行った。その後、急いで金型を作り、なんとか完成。2020年12月中旬に京都にある武豊邸に届けられた。

武豊:「見た! いいね(笑)。色もマットな黒でカッコイイし、とにかく軽いね!」
筆者:「製品化した状態で測ると90gを切ってますから、日本製のクオリティでこの軽さは、正直、世界で勝負出来ると思います(笑)!」
武豊:「さっそく年内に、まだ大きい(G1)レースがあるから試せたら試すわぁ! でも、コレ(川田)将雅も早く見たいんじゃないかな?」

同時進行で川田騎手のアブミも作っていた!

武豊アブミ製造を手掛けるエムエス製作所(愛知県清須市)では スタージョッキーのひとり、川田騎手のこだわり抜いた形状モデルにも同時に着手していた。

ここで少し、川田騎手の「こだわり」をおさらいすると、こうだ。(#4#5連載参照)
1.踏み板に角度をつけて欲しい(武豊騎手とは騎乗フォームが違い、馬の追い方も違うため)。
2.ソールの引っ掛かりが重要(足裏が滑らない感覚が安心感につながる。今のモデルもそれだけの理由で使っている)。
3.踏み板の形状は、足の親指側にボリュームが欲しい(騎乗時の重心配分が異なる)。
4.色は黒で絶対にお願いします!
この中で、武豊も非常に興味深く開発過程を見守っていたのが「踏み板の角度」である。

武豊:「将雅の角度のヤツ、あれ面白いね。そんな発想は俺にはなかったけど、ロジックを聞くと”なるほど”と思えるし、外人や日本の若い騎手なんかでも、将雅タイプの乗り方も多いしね」

コロナ禍ゆえに、川田騎手とメーカー技術者が会ってミーティングはできない。万が一、「川田騎手にコロナを感染させてはいけない」との判断であったが、これが実に難航した……。

筆者:「川田さん、どうしましょ? 正直なところ、JRAも馬主さんも競馬場に入れない厳戒態勢で、トレセンも規制がかかっていて」
川田:「自宅に木馬があるので、どこかの段階で、必要なら来てもらえば僕は大丈夫ですよ」
筆者:「ありがとうございます! 最終確認や、細かい部分など、どうしてもという場合はお邪魔しますね。でも、できるだけリモートで行える進行はやっていきます」

2020年10月。やっと川田騎手へ向けたヒアリングシートが完成し、資料をメールで添付した。
「不慣れだ」と本人は謙遜するも、PDFに手直し図面を書いてくれるなど、アスリートらしからぬ(笑)実力を発揮し、すぐにリモートでのミーティングを開催。しかし、細かな部分が、やはり詰め切れない、もどかしいリモート開発であった。

リモートの難しさが露呈した

2020年12月。こだわりの最初のポイントである「踏み板の角度」のサンプルができ上がった。川田騎手が要望したのは、3タイプ「5度」「10度」「15度」である。

3タイプの角度をつけた樹脂製のアブミ。

踏板の突起の高さを変え、レースブーツでの引っ掛かり具合をテスト。

川田:「(自宅に)届きました! でも(笑)乗ったらすぐに割れちゃいました……。スミマセン。瞬間接着剤ですぐに着けたんですが(笑)正直、よく分からないです」
筆者:「えっ? ゴメンなさい。メーカーからは体重を乗せる程度なら大丈夫って聞いていたんですが……。じゃあ、今度は金属でちゃんと木馬で試せるように作ります。またお時間が……」
川田:「時間は大丈夫ですよ! ホントに。そんなに気にしなくていいですよ、みんな初めての事ですし、初めての形状に取り組んでいるんですから。急いで妥協しちゃうより、この先の何十年も使うモノですからちゃんと作りましょ!」

この川田騎手のフレーズ、そのまま開発メーカー(エムエス製作所)に伝え、筆者含め、メーカー担当者も安堵するとともに、川田騎手の本気度と懐の深さを感じ取るも、甘えてはいけない。「世界で初めての製品設計だから」という言い訳は通用しない。

踏板の突起形状、配列など、滑り性能を客観的にテストする。

川田:「ところで(武)豊さんのアルミって、どーなりました? もうでき上がりました? 黒の色だけでも確認したいんです」
筆者:「確かに……。武さんのアルミ製は先週完成したんですが、まだ武さん用しかないかも知れませんが、メーカーに言うか、武さんに私が言うかして、競馬場に送ります!」

と、ここで先程の武豊騎手の一言、「コレ、将雅が早く見たいんじゃない?」に繋がる。

筆者:「実は、川田騎手が武さんのアルミ製を見たいって言うんです」
武豊:「おっ! 良いよ! 週末ちょうど将雅と一緒(同じ競馬場)だから、今日送っても間に合わないかも知れないし、俺が手持ちで持っていくわぁ」
筆者:「ありがとうございます! 川田騎手に”武さんが持参してくれる”って言っておきます!」

筆者:「川田さん良かったです! 武さんが週末に手持ちで持参してくれます!」
川田:「良くないです(笑)。(武)豊さんが持ってくるなんてダメです(笑)。僕が今から(京都の)豊さんの家に取りに行きますから!」
筆者:「まぁ、そりゃ気を遣うのは分かるけど(笑)。良いじゃん、それが武豊って人よ……」
川田:「……。……」

川田騎手は計画段階から興味を示し、昨年上旬には武豊とアブミ談義を繰り広げていた。

有馬記念で使用!?

武豊騎手が川田騎手に持参した週末とは、有馬記念の週だった。
金曜日から騎手が隔離される調整ルームで渡すのかな? と思っていたのだが。調整ルームに入ると、通信手段となる機器は全て預け、外部との連絡や接触は禁止されており、筆者はその状況を知らされていなかった。

日曜日のメインレース「有馬記念」のパドックで目がテンになった! 騎乗前の馬具を見ると、武豊のアルミ製アブミが、川田が騎乗するオーソリティ号に装着されているのではないか!!

後に判明する川田騎手の一言はこうだ。

「(黒い)色もそうですが、木馬で試したらサイズ感とか、とにかく馬の当たり感がすっごく良くて。そのまま有馬で使っちゃいました!」

【一流騎手を魅了するMade in Japanの底力 #11】

Yutaka Take
1969年京都府生まれ。17歳で騎手デビュー。以来18度の年間最多勝、地方海外含め100勝以上のG1制覇、通算4000勝達成など、数々の伝説的な最多記録を持つ。2005年には、ディープインパクトとのコンビで皐月賞、日本ダービー、菊花賞を制し、史上2例目となる無敗での牡馬3冠を達成。50歳を迎えた2019年も、フェブラリーステークス、菊花賞を制覇。昭和・平成・令和と3元号同一G1制覇を達成した。父は元ジョッキーで調教師も務めた故・武邦彦。弟は元ジョッキーで、現調教師の武幸四郎。

Santos Kobayashi
1972年生まれ。アスリートメディアクリエイション代表。大学卒業後、ゴルフ雑誌『ALBA』の編集記者になり『GOLF TODAY』を経て独立。その後、スポーツジャーナリストとして活動し、ゴルフ系週刊誌、月刊誌、スポーツ新聞などに連載・書籍の執筆活動をしながら、映像メディアは、TV朝日の全米OP、全英OPなど海外中継メインに携わる。現在は、スポーツ案件のスタートアッププロデューサー・プランナーをメイン活動に、PXG(JMC Golf)の日本地区の立ち上げ、MUQUゴルフのブランディングプランナーを歴任。

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