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2020.03.16

トレセンでも話題沸騰! リーディングジョッキーと議論【武豊アブミプロジェクト5】

ジョッキーにとって、騎乗時に足を踏みかける「アブミ」は極めて重要な仕事道具。しかし、武豊曰く「30年前から何も変わってないし、俺もそんなに気にしたことなかった……」。それが昨秋、 ゴルフクラブブランド「MUQU(ムク)」のアンバサダーとして名古屋の工場を訪れた際に、ふと閃いた! 「そんなに気にしたことはなかったとはいえ、どこかで気にはなっていた。何とかならないかな?」と。30年のジョッキー人生を懸けた一大プロジェクトをゲーテWEBが独占でお届け。第5回は、トレセン内で話題のアブミ、武豊が試したさまざまな素材。【困難が待ち受ける製造方法。完成を待ち望む競馬界 #4】

武豊自ら「調教場所」やトレセン内部を案内してくれた。

武豊自ら「調教場所」やトレセン内部を案内してくれた。

「なんか凄いことになってるね(笑)」

第一人者の武豊が30年のジョッキー人生を懸けた計画とあって、 昨年にこのアブミプロジェクトが始動してから、競馬関係者から筆者に直接問い合わせをいただくということが多々ある。武豊本人とも、電話で話す機会が多くなった。

武豊:「なんか……。凄いことになってるね(笑)、今トレセン終わって、(競馬)記者から『アブミ作ってるんですね!』とか、調教師さんや厩舎関係者から『俺らも作れるの?』って……。で、ところで今どーなってんの?(笑)」

筆者のミスである。まさか、この『アブミプロジェクト』に競馬関係者からこれほど興味を持ってもらえるとは思っていなかった故に、ちょっとした騒動になってしまった。

小林:「スミマセン……トレセン内も巻き込んでしまって」

武豊:「いや、いいんだけど(笑)。でも、やっぱり関係者は興味津々だったし、みんなどんなアブミなの? って、(初めての日本製を)待ってる感じだったね」

武豊が『動く』意味、その影響力・拡散力を改めて目の当たりにした。

「トレセンに行く」

製造現場(MS製作所)はと言うと、昨年の12月に試作品を試してもらい、一応のOKはもらったものの、宿題として細部の微調整を頼まれていた。可能性を探るべく、様々な素材で、重さや耐久を試している段階であった。

小林:「今度、トレセンに行きます!」

思わず言ってしまった……。

武豊:「おっ? 来る?」

筆者が競馬ジャーナリストなら、日課としてトレセン取材も行うのだが、ゴルフがメインのスポーツジャーナリスト・プランナーの口から「トレセンに行きます」という意外なフレーズに反応した武豊。

小林:「今、特別に、MUQUアイアンと同じ製法で削ってくれてたり、樹脂で形成したり、いろいろな角度から試しているので、今度トレセンに持ち込むので、そしたら武さんにも試してもらえるし、関係者の方にもお見せできますし……。どうですか?」

武豊:「いいね……試したい! 形状はこの前のまま? 少し手直しした形?」

小林:「打ち合わせの100gで、というベースがあって、でも、微調整で踏む面積を広くしたことで、ちょっと重量が出ちゃいます。強度検査を考えると、負荷がかかる部分はおとせないですし」

MUQUアイアンと同じ製法で削る=1つの金型を作る、と同じ意味を持つ。想像以上に様々な人を巻き込んでいる反響に、「究極のアブミ」を1セットだけ作ることに、快く引き受けてくれた。そのコストは、計り知れないが、町工場の意地でもある!

形状の完成形を見てもらうため、樹脂で形成した試作品。

形状の完成形を見てもらうため、樹脂で形成した試作品。

競馬界の「声」をプレッシャーに感じつつ、製造メーカーの副社長・迫田邦裕氏にすぐ電話した。

小林:「今度、トレセンに行くことになりました。なので、また急ですが、技術者の方も一緒に行って、関係者の要望というか、競馬界のニーズがどこにあるのか? を探りましょう!! わたしもそうですが、迫田さん(循環器内科の医師でもある)も競馬界の人じゃないので、まずは3人で勉強しに行く感じでしょうか……ね」

迫田:「分かりました! 行きましょう・・・でも緊張しますね(笑)」

「一つの街がそこにあった」

2月某日、栗東トレーニングセンターを訪れた3人。出迎えてくれたのは、時田馬具の浅田卓氏である。以前に、武さんから「この人に電話してみて」と言われていた人だ。挨拶もそこそこに、浅田さんの車に乗り換えて、栗東トレセンに潜入。2,000頭を超える競走馬と、約1,500名の関係者が暮らす『街』がそこにあった。

 調教スタンドと呼ばれる建物。追い切り風景や取材など、この場所で行われていると知った

調教スタンドと呼ばれる建物。追い切り風景や取材など、この場所で行われていると知った

浅田:「(武)豊さん、朝の調教終わった頃なので、もう大丈夫かと」

3人にとっては、初めて足を踏み入れる場所であり、広大な敷地に勝手が分からない。浅田さんの案内についていくと、調教を見渡すスタンドのような建物に案内された。何やら……テレビで見覚えのある騎手達が談笑している、その中に武豊がいた。

武豊:「おっ! ようこそトレセンに(笑)」

小林:「大丈夫ですか? この中って入っていい場所なんですか?」

武豊:「大丈夫、大丈夫。俺、武豊やで(笑)」

場は一気に和んだ。

今回、特別に削り出したスペシャルアブミ。迫田副社長の手から武豊へ渡った。

武豊:「いいですね! MUQUアイアンと同じ。使うのがもったいないぐらい美しい……」

小林:「まっ、これはMS製作所さんの心意気なので、実際に使用されるか、飾っておくかは、武さんにお任せします(笑)」

MUQUアンバサダー武豊に向けた、製造現場からの粋な計らいにレジェンドジョッキーも喜びを隠せない。

武豊:「来週使っちゃおっかなぁ……(笑)」

小林:「ダメです……。来週は(笑)。まだ1セットだけですし、もう少しだけ待ってもらえれば、同じのが30個できますし、強度検査の結果もちゃんと出てきますから……」

調教で履いていたブーツ(いわゆる一般の人が想像する革のブーツ)を脱ぎ、レースで使用する自身のブーツに履き替える武豊。

武豊:「サイズもいい! この前(中京競馬場での試作品)よりフィットする。親指の当たり感もないし、アブミに余っている箇所がないもんね」

オーダーメイドだから実現できた形であり、乗り方(重心バランスや追い方など)と足の乗せ方に合わせた形状である。日本メーカーと日本人技術者ならではの迅速なリレーションだ。

武豊:「どう、将雅(ゆうが)? この感じ……」

時田馬具の浅田さんに筆者から「明日よろしくお願いします」と電話した際の出来事。

浅田:「実は川田ジョッキーが興味を持っていらして、明日、時間があれば話を聞きたい、と」

テーブルにアブミを広げ、技術者と武豊が打ち合わせしている様子を見て、川田将雅も参加した。川田ジョッキーとは2016年にマカヒキに乗って日本ダービーを制するなど、押しも押されぬトップジョッキーであり、今年もリーディング(騎手の勝ち星ランキング)でトップを走っている(3月16日現在)。

川田:「初めまして! 川田です」

筆者はデビュー2年目の彼に食事の席でお会いし、その後、何度か東京で席を共にするも、約10年振りである。思い出した様子で笑顔で驚き、早速アブミ談義に入った。

武豊:「どう、将雅? この感じ……」

川田:「……。なるほど、ここ削ったんですか。記事(連載1回目、2回目)になってたアーチの部分ってどう変えたんですか?」

武豊:「この部分をさ……」

川田:「なるほど」

武豊:「将雅が今使っているのってカーボンのヤツ? あれ、太くない? 痛いでしょ……」

川田:「太いですし痛いです、でも、僕は乗り方が豊さんと少し違うので、ここ(足を乗せる部分)の引っ掛かりが、一番良いのが黒いカーボンのヤツなんですよね」

川田も売られている一通りのアブミを試したそうだ。その中で「靴底が一番滑らない事」に主眼を置き、形状などに多少の違和感を覚えつつもこれまで愛用してきた。トップジョッキー2人の会話が続く、実に興味深く面白い。

川田:「僕なら、このアーチの部分をもっと狭くして、足がズレないように後ろまでイボをつけたいですね」

武豊:「そっか。将雅はカカト落として乗るもんね。俺は平行っていうか、親指で掴むように乗るけど、(将雅の乗り方だと)足裏が引っ掛かった方がいいって事か!」

記事を見て川田ジョッキーも「アブミ作り」に興味を示し、武豊とアブミ談義を。

記事を見て川田ジョッキーも「アブミ作り」に興味を示し、武豊とアブミ談義を。

足を乗せる部分の引っかかり具合を試す武豊

足を乗せる部分の引っかかり具合を試す武豊

乗り方の違い、重心の取り方の違いで、ここまでアブミの着眼点が変わるものか……と、正直驚いた。川田はこうも言っていた。

川田:「海外で乗った時に思ったんですが、むこうはボコボコしてて、アブミが滑る感じがあったんですよ。日本だと(平らだから)大丈夫なんですけどね」

一見しただけで、芝の下の地面の事まで分からないし、芝質や硬さが違うとは耳にしたことあるが、実際にレースで乗った者にしか分からない、足裏の感覚である。

川田:「いいな~(笑)、僕も作りたいなぁ」

小林:「ありがとう! でも、ちょっと待って。(武)豊さんのをまず完成させないといけないし、製造現場がまだ少し混乱してるから……」

3月のG2金鯱賞(中京競馬場開催)でのモデリング(オーダー)を希望していたが、製造フローが確定するまで少し待ってもらうことになった。

【弟・武幸四郎が語った「ジョッキーアブミ」と「調教アブミ」の違い #6】

Yutaka Take
1969年京都府生まれ。17歳で騎手デビュー。以来18度の年間最多勝、地方海外含め100勝以上のG1制覇、通算4000勝達成など、数々の伝説的な最多記録を持つ。2005年には、ディープインパクトとのコンビで皐月賞、日本ダービー、菊花賞を制し、史上2例目となる無敗での牡馬3冠を達成。50歳を迎えた2019年も、フェブラリーステークス、菊花賞を制覇。昭和・平成・令和と3元号同一G1制覇を達成した。 父は元ジョッキーで調教師も務めた故・武邦彦。弟は元ジョッキーで、現調教師の武幸四郎。

Santos Kobayashi
1972年生まれ。アスリートメディアクリエイション代表。大学卒業後、ゴルフ雑誌『アルバ』の編集記者になり『Golf Today』を経て独立。その後、スポーツジャーナリストとして活動し、ゴルフ系週刊誌、月刊誌、スポーツ新聞などに連載・書籍の執筆活動をしながら、映像メディアは、TV朝日の全米OP、全英OPなど海外中継メインに携わる。現在は、スポーツ案件のスタートアッププロデューサー・プランナーをメイン活動に、PXG(JMC Golf)の日本地区の立ち上げ、MUQUゴルフのブランディングプランナーを歴任。

TEXT=サントス小林

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