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2020.05.21

時代というものは、いつも次の時代への布石だ。ドリアン助川【ゲーテの名言㉒】

世界的文豪、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。作家のドリアン助川さんは言う。ゲーテの言葉は「太陽のように道を照らし、月のように名無き者を慰める」と。雑誌『ゲーテ』2010年5月号に掲載した、今こそ読みたいゲーテの名言を再録する。

人間は、なんと知ることの早く、おこなうことの遅い生き物だろう!

――『ゲーテ格言集』より

私たちの正体は大脳だ。だから、知ることをなによりも欲する。それゆえに、この言葉が指摘するような現象が起きてしまう。

あるいは知ることの多く、おこなうことの少ない生き物だと言い換えられるかもしれない。ゲーテがこの言葉を記したイタリア彷徨から二百年余り、大脳はついにネットを生み出し、ネットと接続された。世界は瞬時に拡充し、そしてゲーテが言った通り、個々の腰が重くなり始めた。

モスクワでのライブ中継をニューヨークの友人と同時にチェックしながら、PCで会話。たしかにそれが可能な時代だ。知ることは限りなく増殖している。一方で、実際に足を運ぶ旅人や留学生は減少している。海を越える物語が売れ線からはずれた。行ったこともない国への妄想と批判がネット上で渦巻き、実際の旅を志す者たちをリア充と称して揶揄する向きも現われた。

もちろん、ネットが世界をつないだことの功は数え切れないほどある。しかし、知ったつもりの空気が蔓延し、PCの前から一歩も動かない人々が増えたのも事実だ。時代が違うと言ってしまえばそれまでだが、ゲーテは歩くことで人を知り得た。異国に接して知の花を咲かせた。しかしあるいはゲーテもこの時代に生まれていれば、ハッカーのごとくネットの向こうに世界を見出そうとしたかもしれない。そのあたりはなんとも言えない。

ひとつ確実なのは、時代は、いつも次の時代への布石だという点だ。生まれ出た形態はすべて変化を迫られる。ならばネットによって知ることのビッグ・バンを得たこの時代は、次のなにへつながろうとしているのか?

水の流れが高きから低きへの原理に貫かれているように、次の時代への足がかりはこの時代にあっても足りないものだろう。科学技術の進歩は止まらないが、それによって、システムが代行する現場すべてから人が駆逐されるようになった。世界的には人口が増えつつあるのに、労働力を必要とされる現場は減少している。どの国でも失業率がアップし続けているのは、PCによって統括できる場なら、もう人はいらないということの表われなのだ。

この揺り返しは必ずくる。PCを駆使しながらも、実際に歩き、人と会い、笑い、抱擁できる者。こうしたタフな人物が次を築いていく。自分なりの新時代の旅とはなにか。イメージできるなら、それは行動に移した方がいい。

――雑誌『ゲーテ』2010年5月号より

Durian Sukegawa
1962年東京都生まれ。作家、道化師。大学卒業後、放送作家などを経て’94年、バンド「叫ぶ詩人の会」でデビュー。’99年、バンド解散後に渡米し2002年に帰国後、詩や小説を執筆。’15年、著書『あん』が河瀬直美監督によって映画化され大ヒット。『メキシコ人はなぜハゲないし、死なないのか』『ピンザの島』『新宿の猫』『水辺のブッダ』など著書多数。昨年より明治学院大学国際学部教授に就任。

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