サッカー選手 兼 監督 兼 投資家 兼 起業家・本田圭佑は、言葉を使うことで、自らをインスパイアし、 世界にサプライズを起こす。その脳には どんな言葉=「思考」が隠されているのだろうか。
1を10にし、10 を100に変えられるやり甲斐のある仕事
僕は今、"就職活動"の真っ只中だ(9月5日現在)。33歳のプレイヤーの移籍が簡単ではないことはわかっている。それでも僕は、悲観していない。少しでも自分が輝ける場所、新しい経験を与えてくれる場所を探し続けているし、そのプロセスだけでもワクワクする。
サッカーというのは、本当にすごいスポーツだ。言葉が通じなくとも、観ている人を感動させ、元気を与えることができる。だから、長くプレイし続けたいと思うし、監督という仕事を通してこのサッカーの魅力を多くの人に伝えたいと思っている。
カンボジア代表の監督をやることを決めたのは、去年の今ごろ、W杯が終わってメキシコのチームとの契約も終わり、今のように"就職活動"をしていた時期だった。カンボジアでもサッカーは盛んで、頑張ってサッカー選手になりたいという子供はたくさんいる。でも彼らが生まれ育った場所には、そのチャンスを得られる場所がないということを知った。
ならばそれをつくろう。自分には何ができるのか。サッカーなら教えることができるし、多少の影響力は持っているつもりだ。自分の力でカンボジアの子供たちの未来を切り開くことができると思ったら、やらないという選択肢はなかった。
もちろんサッカーをやってきたからといって、監督もすぐにできると甘く考えていたわけではない。しかも自分自身が選手としてプレイしながら、母国でも居住地でもない国の代表チームを率いるのだ。でもこの経験は必ず自分を成長させるし、カンボジアの未来のためにもなるという確信だけはあった。
1年間やってわかったのは、監督は選手より大変だということだ。監督は身体を動かさないぶん、頭を動かし続けなければならない。しかもそこには限界がないのだ。トレーニングのやりすぎは故障につながるが、脳はどんなに思考し続けても壊れることはない。
時には起きてから寝るまでひたすらチームのことを考えている。1%でも勝つ可能性を上げるために、どんな練習をし、どうやって選手のモチベーションを上げるか。勝ったらどう声をかけ、負けたらどう次に向かわせるか。新しい選手をどうやって発掘するか……マネジメントの思考は、サッカーもビジネスも変わらないように思う。
監督をやってみて、選手としての思考法も変わった。ピッチはもちろん、ピッチの外まで目を配り、他の選手の特徴を知り、コミュニケーションを図る。それがプレイに生きることもある。マネジメントは簡単ではない。勝てば選手が褒められ、負ければ監督が批判される。それでも1を10にし、10 を100に変えられるやり甲斐のある仕事だ。カンボジアという国に大きな夢と可能性を与えたい。そのためなら、僕は喜んで睡眠時間を削ることができる。