先日、世界的な科学誌『ネイチャー』に衝撃的な記事が載りました。科学研究において、日本からの論文発表数が減少していることなどから、科学のトップランナーとしての日本の地位が危ない、という記事でした。たしかに、残念ながら日本の研究者は、本来の研究以外の仕事に追われすぎています。私も、これでは創造性のある研究が生まれにくいと考えています。
Study7「日本とアメリカの研究サポート体制の違い」
科学のトップランナーたる日本の地位が危ない
医学研究の現場には、企業などとの共同研究契約書の作成、研究成果が出た時の特許申請、その成果を多くの人に知らせるための情報発信等、研究以外にもたくさんの重要な仕事があります。実験動物の世話も大切な仕事です。これらをすべて研究者がこなすとなると、研究のスピードは格段に落ちます。私はかつて、米国留学から帰国して、そうした日本の研究環境の違いに苦しみ、うつ状態になりかけました。だからこそ、研究者が研究に集中できる環境を整えたいといつも思っています。
研究者には多様な専門家のサポートが必要
私が所属しているグラッドストーン研究所をはじめ、アメリカの研究機関には特許や広報等の専門家が所属し、研究者をサポートしています。寄付募集の専門部署まであります。私たちが活動するCiRA(サイラ)は、日本の研究所では珍しく、多様な専門家を雇用しており、研究者が研究に邁進できる環境があります。私がマラソンを走り続けるのは趣味が半分ではありますが、寄付を募って、この環境を維持・発展させるためでもあります。
2018年度の実施を目指しているiPS細胞を使ったパーキンソン病の治験の準備においても、さまざまな研究サポートの専門家たちが、日々努力を重ねています。華々しい研究発表の新聞記事やTVニュースをご覧になった時は、こうした縁の下の力持ちにも思いを馳せてくださるとうれしいです。
山中伸弥の今月のひと言。
昨年に続き、第7回大阪マラソンのチャリティアンバサダーを務めつつ、チャリティランナーとして出場します。また、読者の方の声も聞いてみたいと思っていますので、この連載に関してご感想やご希望がありましたら、ips-kikin@cira.kyoto-u.ac.jp にメールでお送りください。