家具好きならば、名作の数々を所蔵する「椅子の美術館」へ足を運んでみたい。「いつか自分もプライベート空間にこんな椅子を!」との気持ちがきっと高まるはず。【特集 アートな家具】

約70点の名作椅子コレクションが揃う美術館
世界のデザイン史に残る椅子のコレクションが約70点揃い、常に十数点を公開。その多くの椅子に実際に座ることができてしまうのが、埼玉県立近代美術館だ。
名作椅子のコレクションは1982年の開館以来、続けられてきた。絵画や彫刻といった展示品に触れることはまずできないが、椅子なら来場者に座ってもらい作品を「体験」してもらえて、美術館がぐっと身近なものになるのでは……。そんな狙いをこめて、椅子の収集というユニークな方針が立てられた。長年築かれてきたコレクションの数々。近代以降の椅子デザインの歴史を振り返る充実のラインナップだ。

名作椅子はどれも人間味に溢れている
抽象絵画を立体化したかのようなヘリット・トーマス・リートフェルトの「レッド・アンド・ブルー」。機能とデザイン美を究極まで突き詰めたアルネ・ヤコブセンの「アント」。アール・ヌーヴォーを代表するチャールズ・レニー・マッキントッシュの「アーガイル」などが揃う。
日本産の名作も数多い。木材の強みを知り尽くしているからこそつくることができた柳宗理の「バタフライ・スツール」。シューズ・ショップの空間に合わせて設計されたスタイリッシュな内田繁「キサの椅子」なども。
これら名作椅子を見ていると、具体的に役立つもののなかにこそ美は宿るのだと、改めて思い知らされる。また、椅子とはなんと人間味に溢れた存在であることか、とも強く感じる。人の身体にピタリと寄り添うものゆえ常に官能性が漂うし、社会的地位や人間性を何より象徴的に表すようにも思えるのだ。どんな椅子を好むかを聞けば、その人物のありようを察することができそうである。
名作家具に関心を持つなら、一度、埼玉県立近代美術館に足を運んでみて、いつかは手に入れたい“推し”の椅子を見つけてみてほしい。美術館級の椅子を入手し、美の歴史を自身のプライベート空間に迎え入れる意欲が掻き立てられること請け合いだ。

埼玉県立近代美術館の名作椅子コレクション21選





















埼玉県立近代美術館
住所:埼玉県さいたま市浦和区常盤9-30-1
TEL:048-824-0111
名作椅子を多数収蔵する「椅子の美術館」としての顔のほか、埼玉ゆかりの作家による近代美術や、クロード・モネ「ジヴェルニーの積みわら、夕日」などをはじめ国内外の優れた美術作品も手厚くコレクション・公開している。
この記事はGOETHE 2025年4月号「総力特集:惚れ惚れする人生の相棒、アートな家具」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら