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2024.09.22

ロッテ吉井監督「チーム力を高めるときに"きずな"は必要ない」

現・千葉ロッテマリーンズ監督の吉井理人が就任1年目だった2023年に、監督とは何かを考え、実践し、失敗し、学び、さらに考えるという果てしないループから体得した、指導者としてのあり方。選手が主体的に勝手に成長していくための環境を整え、すべての関係者がチームの勝利に貢献できる心理的安全性の高い「機嫌のいいチーム」をつくることこそが重要だと、吉井氏は説く。プロ野球の世界とビジネスの世界に共通する、「強い組織」に必要なリーダーの姿とは。『機嫌のいいチームをつくる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、一部を抜粋・再編集して紹介する。【その他の記事はコチラ】

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Unsplash / raphael-schaller ※画像はイメージ

変えるべき文化、残すべき文化

組織におけるチーム力には、組織が営々と積み重ねてきた文化も影響している。

マリーンズにピッチングコーチとしてはじめて入ったとき、選手たちがコーチ陣や監督の顔色をうかがいながらプレーをしているように感じた。この書かれざるルールがあると、主体性は絶対に育たない。絶対になくさなければならない文化だと考えた。

さらに、マリーンズは調子に乗ったときには爆発的な力が出るが、乗らないときはとことん沈む。相手が弱いとき、自分たちの調子がすこぶる良いときは、とことん前に行く。今日はダメだと思ったら、無抵抗で終わってしまう。自分たちで何とかしようという気持ちは持っているかもしれないが、それがあまり伝わってこない。そんな第一印象だった。

こうした組織の文化の変革を担うのも、監督の仕事だ。

監督の目や言葉は重いので、監督の責任で変えたほうがいい。監督の任期は限定されているが、1年もあれば組織の文化を変えることは可能だ。富士山にたとえると、7合目から8合目までは登ることができる。

ただ、文化を急激に変えることはできても、それを定着させるには時間がかかる。監督としての私の役割は、変革の種をまき、芽を出させ、水をやり、すくすくと成長させていくことだ。その芽がゆるぎない大木となるには、もう少し時間がかかる。

ただし、チーム力を高めるときによく言われる「チームのきずな」は必要ない。少なくとも、私がチームを構築するうえでは考えていない。

そのひとつの例として、優勝旅行に選手が参加しないケースが挙げられる。

私も、優勝旅行には「行きたくない派」である。面倒くさいし、球場以外でチームメンバーに会わなくてもいいと考えている。性格的にも、私はひとりを好む。寂しがり屋のくせにひとりが好きという面倒な性格なので、野球以外の集団行動は苦手だ。

人によって感じ方は異なるが、私は野球(本業)以外のつながりや、個人的に濃密なつながりなど、ウェットで情緒的なものはチーム力に必要ないと思っている。

かつて、企業内の一体感を高めるために社員旅行や運動会が盛んに行われた。しかし個の時代へ移行するにつれて、その文化は衰退した。ところが、昨今その風潮が戻りつつあるという話を聞いた。一体感やチーム力を高めるための施策だろうが、社員の親睦を深める程度で終わっているように見える。

チームメイトと呼ぶぐらいなので、チームのきずなという考え方はあるのだろう。もちろん、きずなから何かが生まれることもあるとは思う。しかし、一緒に戦っているのだから、戦場以外で会わなくてもいい。あえて優勝旅行や決起集会は必要ないと思う。

レベルの高い選手ほど、社会人力も高い

メジャーで投げていたころ、ニューヨーク・ヤンキースのローテーションピッチャーに話を聞いたことがある。ヤンキースでは、あるカード(通常は3連戦)の初戦に投げる投手は、2戦目、3戦目に投げる先発ピッチャーが楽に投げられるような配球をしながら抑えなければならないそうだ。当時の私からすれば、そこまで難しい要求をされるなんて、さすがはメジャーリーグを代表する球団だと感嘆した。

日本にも、同じようなことを言う投手がいる。しかし、数は少ない。相当にレベルが高くなければ、そんな芸当はできない。チームにとっては、レベルの高い選手がいたほうがチーム力は上がる。レベルの高い選手ほど社会人力も高い傾向があるので、チーム力にとっては別の意味でプラスになる。

その顕著な例が、WBC日本代表チームにおけるダルビッシュ選手のような存在だ。

現場で見ていて感じたのは、ダルビッシュ選手がチームの「文化」をつくり、チームのレベルを上げたという実感だ。もしダルビッシュ選手が「嫌な先輩」だった場合、チームにマイナスの影響を与えてしまっていただろう。その存在感の大きさゆえ、ほかの選手を委縮させていたかもしれない。

チーム力を高めるほどの影響力を持った選手を育てるのも監督の仕事だ。ある選手がチームに影響をもたらすように仕向けていく。本人には、絶大な信頼を持っていることを伝える。育てるとはいえ、実際には、機会を与えることしかできない。

本音を言えば、監督がやらなければならない仕事かどうか、悩ましい。ただ、プロフェッショナルの集団とはいえ、若い選手が多いプロ野球の場合は、パフォーマンスと同時に人間性や社会人力も身につけてもらわなければならない。そのための手段として、人格者でもある選手を育成するのは、監督の役割なのだろう。

プロ野球は、スポーツチームとして勝敗という結果が問われるだけでなく、サービス業の一面も持っている。ファンあってのプロ野球だ。

人間として著しく問題がある選手はファンからも応援してもらえない。

現役時代の素行が必ずしも褒められたものではなかった私が言うのもどうかと思うが、現代では必須の素養である。

TEXT=吉井理人

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