宇宙開発の鍵はロボットにあり!
テレビドラマにもなった池井戸潤の名作『下町ロケット』の舞台、東京都大田区。昔ながらの町工場が並ぶ一角に、宇宙用汎用型作業ロボットを手がけるギタイが入ったビルがある。1階が作業場でその上にオフィス。決して大きな会社ではない。だが、ここには今、世界中のクライアントから受けきれないほどのオファーが殺到している。
「この20年ほどで宇宙への輸送の問題は解決しつつあります。ではその次に必要なのは何かと考えると、人間のかわりに宇宙で作業するロボット。現在、宇宙飛行士の作業を時給換算すると約1400万円といわれています。これをロボットが担えるならば、コストは大幅に下がる。近い将来、月や火星、宇宙コロニーなどの開発が進んだ時、人類が行くより先にソーラーパネルや通信アンテナなど、安心して生活できる環境を整えるためのロボットが絶対に必要になります。大げさかもしれませんが、人類の未来のためにも実現しなければならないと思っています」
中ノ瀬 翔CEOがギタイを創業したのは2016年。ロボットを仕事にした決意の裏には、かつての苦い経験があった。
「22歳の時、病気だった親が亡くなりました。その最期に仕事で立ち会うことすらできなかったんです。自分の分身がいて仕事を替わってくれたら……その思いがロボットの開発につながりました」
ロボット×宇宙は〝地獄のベンチャー〞
悩んだのは、どんな分野のロボットをつくるか。災害救助、遠隔医療、さらには宇宙。マーケットを徹底的に研究し、技術的な実現性、採算性、参入障壁などを考慮した結果、宇宙に行きついた。SF映画などでは人間とコミュニケーションして自由自在に動くロボットが登場する。それが宇宙で活躍するシーンも珍しくない。だが、現実のロボットはまだそんな段階には達していないという。
「スタートしてからわかったんですが、ロボット×宇宙は、"地獄のベンチャー"。実は、複数の作業を自律的に行う汎用型ロボットというのは、まだ地上ですらうまくいっていません。しかも作業する場所が宇宙空間となると、温度や放射線量、真空など環境の問題があり、さらに難しい。だから宇宙ロボットを手がける企業は、世界でもまれなんです。実現するには、ひたすらつくり、実験し、壊し、改良し続けるしかない。そのための環境を整えるために内製化にこだわりました」
作業場には、多くの工作機器と製作過程のロボットが並び、学生のように見える若者たちがそれらに向き合っていた。
「宇宙ロボットをつくるうえで、一番重要なのは、自分とパッションを共有できる優秀な技術者を探すことでした。ひたすらググりまくって、これだと思った人間を3日がかりで口説きました。ロボット業界では知られた人物だったので、その伝手で優秀な人材を集めていきました。今では大企業なら何倍も給料をもらえる能力のあるメンバーが約20人揃い、彼らに憧れるインターンも続々集まっています。技術面は彼らを信頼してまかせ、僕は経営と営業を頑張っています」
注目度は高いが、会社自体はまだ黒字になっていない。
「宇宙は儲からない、儲からなくてもいいという風潮がありますが、それは嫌なんです。お金や時間の投資対効果はよくありません。でもやるからには稼げる会社にしたい。’40年、宇宙で1万台のロボットが作業する時代になれば、うちの出番になります」
『GITAI(ギタイ)』HISTORY
2016年 月にギタイ設立。9月にSkyland Venturesより1500万円の資金調達を実施
2017年 ANRI、500 Startups Japanより合計約1.4億円の資金調達を実施
2018年 JAXAと共同研究契約締結
2019年 Spiral Ventures、DBJ Capital、J-Power、500 Startups Japanより約4.4億円の資金調達を実施
2021年 スパークス・イノベーション・フォー・フューチャー、大和企業投資、第一生命保険、エプソンクロスインベストメント/グローバル・ブレインより約18億円の資金調達を実施
2021年 7月に経済産業省より宇宙船外汎用作業ロボットアーム・ハンド技術開発を受託。8月にスペースX 社のロケットによってギタイの宇宙用ロボットアーム「S1」をISSに輸送
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