35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と笑われて2年後、英語力未だ0.5であえなく帰国。だけど日本にいたって、きっともっと英語は覚えられる! 下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。英語力ゼロレッスン「人のEnglishを笑うな」第115回!
英語の中に潜む悪魔
ロンドンで語学学校の運営を手伝っていた際に、よくスタッフの方に言われた言葉があります。
Double check this document, the devil is in the details.
生徒たちの情報をまとめた書類や、明日のレッスンのプリントなどを整理している時によく言われました。前半で「この書類、ダブルチェックしてね」と言っているのはわかったので、後半は聞き流していましたが、帰国して1年以上たってふと思いだしました。“the devil is in the details”。あれは一体どういう意味だったのだろうと。
The devil is in the details. =「悪魔は細部にいる」
直訳したらこういうことになります。
調べてみると「細部こそ重要。最後まで集中しなさい」という意味で使われていて、仕事やテストで「ミスがないか確認しなさい」と注意するときに主に言われているのだそうです。
完璧な仕事をしていても、うっかり数字の桁を1桁多く書いていた、仕事相手の名前のスペルミスをしていたということがあっては、すべて台無しです。悪魔は細部にいる、とは考えてみれば納得です。
もともとは“God is in the details”という「神は細部に宿る」つまり「細部こそ重要」ということわざから、来ている言葉だそうです。
確かに、腕のたつ職人がつくった工芸品などは、細部が素晴らしく“God is in the details”と言いたくなることはあります。しかし私のように特に技術のない人間は、細部に神業を見せることはなかなかできず、逆に細かいところでミスをしてしまうので「悪魔は細部に宿る」となったのでしょう。
メールの誤字脱字、名前間違いなど、日本語ですらうっかりミスが多い私は、まさに胸に刻んでいかないとならない言葉だなぁと実感しました。
悪魔の支払いってなんのこと?
悪魔は、実は英語のフレーズの中でよく顔を出します。
先日も、政治批評が大好きなアメリカ人がこう言っていました。
We'll have the devil to pay if he gets elected president.
バイデン大統領は、次期は立候補しないと考えている人が多いですから、早くも次を考える国民は多くいるようです。あの人ではないか、とか、トランプ前大統領が再び出ると公言している、など、さまざまな情報が飛び交いますが、そんなときに、彼女が言った言葉です。
そのアメリカ人女性は、日本語が話せるのですが、興奮するとこのように母語になります。
We'll have the devil to pay if he gets elected president.
(もし彼が大統領になったら、私たちはthe devil to pay)
この“the devil to pay”のところがわかりません。
「興奮しているのはわかったけど、“the devil to pay”ってなに?」
と聞いてみると。
the devil to pay=恐ろしいことになる
ということだそうです。
主に「後から恐ろしいことになる」というようなことで、
There will be the devil to pay.
とすれば「あとの祟りがおそろしい」というようなことなのだそうです。
もし彼が大統領になったら、そのあと恐ろしいことになるぞ、と彼女は言っているのです。
そういえば、「心を鬼にする」とか日本語でも「鬼」が入ったことわざはたくさんあります。鬼は日本版の悪魔みたいなものでしょうから、どの国も恐ろしい魔物は言葉の中にたくさん使われているのでしょう。
そんなことを考えていたら、高校時代のクラスメイトのことを思い出しました。体格がよく、赤いTシャツを好んで着ていた彼のあだ名は「赤鬼」でした。あだ名に「鬼」とはついていても、ずいぶん人気者でしたから、なんとなく西洋の「悪魔」より、日本の「鬼」は親しみやすいのかもなぁと遠い昔を思い出しました。
Illustration=Norio