ミラノサローネをはじめとした海外の見本市で、その印象を聞けば、「革新的デザインと日本の伝統的なデザインのバランスが絶妙」「細部へのこだわり、素材の扱い方に日本らしさを感じる」との声が上がる。毎回世界中から訪れるバイヤーや建築家たちが絶賛する、日本の家具メーカーがあるのはご存じだろうか。それが福岡を拠点とする「Ritzwell(リッツウェル)」だ。
相反する価値をひとつの家具に昇華
座れば、上質な革素材が身体を包み込むような心地よさを感じる椅子、シンプルなデザインながら、よく見れば古来受け継ぐ日本の職人技が光るサイドボード……。リッツウェルが生み出す家具は、無駄を排した研ぎ澄まされたフォルムの中にも、不思議と人の手の温かさを感じ、懐かしさのような感覚も呼び起こす。
「創業当時よりどこの時代でもどこの国でもない、タイムレスで無国籍な家具を目指しています」と語るのは、自らがデザイナーでもあるリッツウェル宮本晋作社長だ。
「でもそれは、違う言葉で言えば“どこの要素でもなく、どこの要素でもある”ということ。モダンとクラシック、あるいは美しさと機能性、そういった相反するものが同居している、それがリッツウェルの家具なんです」
相反する価値が、均衡を保ちながら昇華していくというリッツウェルの哲学は、実際のものづくりの現場にも現れている。家具メーカーとしての生産性を確実に保持しながらも、常に大切にしているのは職人の手仕事だ。例えば椅子の背や座面をカバーリングではなく、“張り”にこだわるのもそのひとつ。
「椅子張りは、家具づくりの中でも手仕事感が如実にあらわれる部分なんです。1脚の椅子を、職人が自ら革の地を見極め、手触りを確かめながらひとつひとつ丁寧に仕上げていく。時間はかかりますが、身体に沿った微妙な立体形状を人の手で作り出す、手仕事の温かみを感じられると思います」
環境が感性を磨く、モノづくりの拠点
そんな手仕事の拠点となるのが、福岡県・糸島に1昨年完成した自社工場「糸島シーサイドファクトリー」だ。裏手に広がる海から聞こえる波の音や鳥のさえずりに囲まれ、季節になれば蛍も現れるという自然溢れる環境の中に位置するファクトリーは、その内部も“工場”あるいは“作業場”というイメージを大きく覆す。エントランスは高い天井にオブジェが飾られ、美術館のような広々とした空間の中、平均年齢が30代という若い職人たちが黙々と美しき一脚を創り上げていく。
「作る環境はすごく大事だと思うんです。職人は技術さえあればいいという意見もありますが、やはり見る目や感性がないと、良いものはできない。そのためにも、職人に刺激を与え、感性を磨ける環境を作りたかったんです」
静寂の工房に響き渡るのは、革を広げその地を確かめる音や、選んだ革を縫いあげるミシンやフレームに張り込むタッカーの音。真摯に取り組む職人と、ひとつひとつの家具の裏に秘められている職人の技を知れば、よりその家具に込められた思いを感じることができるだろう。その様子はリッツウェルのサイトや、年に数回ショールームで行われる「てしごと展」でも見ることができる。
“時の試練”を超え、人の心に馴染む家具を
そうやって丁寧に作られた椅子は実際に型崩れも少なく、時と共に確実に馴染んでいくという。「身体以上に、きっと心に馴染んでいくはずです」と語る宮本氏。
「理想の家具とは、購入した時よりも使うことでどんどん良くなっていくもの。確かに時とともに、古くなったり飽きられてしまうのがモノの運命かもしれません。でも、そういう"時の試練"に打ち勝てるデザインやモノづくりをする。それこそがリッツウェルが一番に目指すことなんです」
時を超え、国境を越え、誰とも違う、しかし誰もの心に馴染むデザインと、卓越した職人の技術が生み出すリッツウェルの家具。シートに身を預けた時、そしてふと触れた時、きっとその意思を感じることができるはずだ。
問い合わせ
リッツウェル東京 TEL:03-5772-3460 / Mail:ritzwell_prd@ritzwell.com