2020年秋。筆者・サントス小林とGOETHE編集部は、武豊騎手と馬主・松島正昭氏による凱旋門賞壮行会の席に偶然同席した。その際に、文豪ゲーテの人生訓と、その名を冠した雑誌のコンセプトに共感した松島オーナーが、ディープインパクト産駒(牡馬)の馬名を「ゲーテ号」とその場で命名!
雑誌と同じ名前の競走馬の成長をGOETHE取材班が追いかける連載「走れ! ゲーテ号」WEB版第6回は、ゲーテ号が父・ディープインパクトから受け継いだ血について。連載第5回『最上級の環境で育つ”良血馬”ゲーテ号の値段とはいかに?』。
馬における賢さとは
社台ファームで育成担当を務める長浜卓也氏は、今夏デビューを迎えるゲーテ号の潜在能力についてこう評する。
長浜氏:「ゲーテ君は賢いですね。非常に優秀だと思います」
では、馬における賢さとは、どういうことなのだろう?
長浜氏:「大前提として、常に一緒に過ごす人間の指示が理解できるかどうかが、その後の成長に大きく関わってきます」
競走馬とはいえ、「いつがレースなのか?」「もしかすると、自分が競走馬?」「そもそも何のために走っているの?」なる感覚が、最初からは備わっていない。生まれて数ヵ月で、母馬から離れ、馴致(じゅんち) (馬具の装着や人が乗ることに慣れる)期間があり、その後、現在のゲーテ号のように育成トレーニングに進んでいく。2歳になると、ようやく調教師の元に預けられ、生まれ故郷からトレーニングセンターへ移動する。そして本格的にレースに出るためのトレーニングをこなし、いざデビューを迎える。こうした過程において、人が求める状況を理解できる力こそが、能力を開花させるカギとなる。「賢い馬が競走馬として成長しやすい」と言われるゆえんだ。
長浜氏:「ここまでゲーテ君は、初期馴致もすべて1回でクリアしてますし、人間でいうところの物覚えが早いと言いますか、理解する能力が高いと感じています。競走馬にとっての賢さとは、例えば、重賞レースに出るとしますよね、そうすると午後3時以降がレースで、でも、朝から競馬場の雰囲気でテンションが上がったりすると、本番まで持ちません。状況を理解する能力こそが、馬の賢さですね」
武豊ジョッキーが、かつてディープインパクトに騎乗していた際に、面白い言葉を聞かせてくれたことがある。
武豊:「菊花賞の時かな。ディープは賢いから、ゴール(板)がもうわかっていて、まだ一周目なんだけど、最後の直線に入ったら、一気に加速し始めちゃって(笑)。オイオイ! まだゴールじゃないぞ、って焦って抑えたのを覚えてます。でも、ゴール板を過ぎて、まだ他の馬が走ってるから、ディープも『あれっ』って思ったのか、またちゃんと言うことを聞いてくれて……。あの時は焦りましたね。三冠がかかってたからなぁ(笑)」
ディープインパクトを父に持つゲーテ号は血筋なのか、“お坊ちゃん”と評される。父の賢い遺伝子が受け継がれているのである。長浜氏によると、ディープインパクトの仔の特徴として、(1)軽い(2)品がよい(3)皮膚が薄い、と3つを紹介してくれたが、もちろん、競走馬である以上、血筋に加えて調教で養われるスピード、基礎体力なども強さの要素となる。
「無事是名馬」という格言があるように、まずはケガなく丈夫な身体をつくってほしい。賢く育って、走れ、ゲーテ号!
<次号>
『武幸四郎厩舎に入ったゲーテ号。ゲート試験を1発合格!』に続く。