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2020.12.21

小説家・田村泰次郎の孫が住む、軽井沢の“家族の歴史を感じられる家”とは? 【隠れ家特集】

祖父の面影を感じる軽井沢の森の隠れ家で趣味に没頭する

軽井沢の森の中、坂を上がると見えてくるその邸宅の入り口。傾斜地にある森に隠れるように建っているため、入り口からはその全景を想像できないが、左右に棟が分かれた2階建て構造になっている。斜面にあるため2階でも高さがあり、テラスに出れば大きな木々の枝が目の高さで揺れている。

「ここは、私の代々の家族が集まってきた場所なんです」

そう語るのはこの家のオーナーY氏。本邸宅が完成したのは2019年のことだが、もともとこの場所には、小説家・田村泰次郎の別荘があった。

玄関

入り口からはこの広々とした全体像を想像できず、訪れる人を驚かせる。玄関先にある壺は、祖父・田村泰次郎が集めた骨董品。他にも祖父から受け継いだオブジェを設計段階からどこに設置するか、設計士と相談し決め、家全体をデザインした。

『肉体の門』を執筆した田村泰次郎がここ軽井沢に別邸をもうけたのは1965年のこと。以来、夏の間は家族を集め、ここで過ごしていたという。主あるじの亡き後は、売りに出されたこともあったが、その孫であるY氏が「小さい頃過ごした思い出の場所を失いたくない」と、自ら買い取ったのだ。

古い家を残すことも考えたが、老朽化が進んでいたため、建て直しを決めた。しかし、当時の家の象徴であった天井の梁とステンドグラスは、新しい建物にも活かしたいと、リビング脇の暖炉スペースに設置した。

入り口を入ると、短い階段が。

入り口を入ると、短い階段が。半階あがると2階に。全体は3LDK+車庫+スタジオ。施工は新建築。

「この苦しみ多き世の中に、我ら暫しの時を此処に憩わん」。フランス語訳された田村泰次郎の詩が書かれている天井の梁は、今も薪の火とともにY氏の家族をあたたかく見つめ続けている。

「生まれてから毎夏、祖父の別邸で過ごしました。幼い頃は、軽井沢の自然の中を走り回り、青年になってからは『田舎なんてつまらない』と一度離れましたが、大人になって、またこの場所に帰りたいなと思うようになりました。人生の段階によって、見えてくる軽井沢は違うのですね」

バレエスタジオとジム。

バレエスタジオとジム。壁にも「バング&オルフセン」のスピーカーが設置されている。

建て替えはしたものの、当時の家の存在感を変えたくはないと、屋根の形を当時とほぼ同じに。入り口が森に隠れたような立地も手伝って一見では新しい建物が建ったとはわからないほど、しっくりと土地になじんだ。

左棟1階には奥様用のバレエスタジオと、ジム、2階からは広いテラスに出ることができ、訪れた際は連日BBQを楽しむという。なんといってもY氏のこだわりが詰まっているのは、その音響設備。リビング、バレエスタジオ、風呂場とそれぞれに「バング&オルフセン」のスピーカーを設置、配線を隠すように部屋が設計されている。

リビングには暖炉も備える。

リビングには暖炉も備える。天井の梁には祖父の詩が刻まれている。右奥は当時の家にあったステンドグラス。当時は吹き抜けの窓を飾る大きなガラスだったが、解体作業で壊れて、それを拾ってつないだ。

「朝の光を浴び、コーヒーを飲んでクラシック音楽を聴く。何ものにも代えがたい時間です」

軽井沢に別荘を建てる、という需要は拡大を続けているが、リモートワークが主流になった今、さらに膨れ上がっているという。事実Y氏も、以前よりここに通う頻度が高くなった。

緑を眺めながら入れる浴槽

緑を眺めながら入れる浴槽は、4~5人が入れる広さ。

「暖房設備も整えて、冬でも快適、一年中住めるように設計をしてもらっているので、月に数度は今後訪れるでしょう。都会では感じられないことを子供や両親とも一緒に経験できますからね」

子供たちは自然を、父と母は軽井沢の変化を楽しむ。祖父の世代から、時代を超えて愛されてきた家族の場所は、新しい世代へと、再び継がれていく。

光が燦々と差しこむリビング

光が燦々(さんさん)と差しこむリビングが、Y氏一番のお気に入りの場所。

所在地:長野県北佐久郡軽井沢町
敷地面積≒1500.94m
延べ床面積≒323.06m
設計者:石上英一郎/NEUTRAL
構造:鉄筋コンクリート、木造混構造

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=安田 誠

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