35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と日本人含め各国人からお叱りを受けつつ、覚えたフレーズの数々。下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。「人のEnglishを笑うな」第58回!
「それわかるわ〜」は会話を盛り上げる、最高のあいづち!
ロックダウンが始まる少し前の3月前半、ロンドンでもスーパーの一部商品が買い占められていたことがありました。
「いやぁ、卵が全然買えなくてさ。スーパー3軒回ったけど見つけられなかった」
当時、そうイギリス人の友人に話したところ、彼女はこう言いました。
Tell me about it!
Tell=話す、ですから直訳して「それについて話して」と言っているのかと思いました。しかし彼女は、特に私の話を待つこともせず、「あたしも探してるんだけど全然なくてさ、早朝に行けばあるって店員が言ってたけど〜」と自分の話を始めました。「“Tell me”と言っておいて、自分が話すんだ。おしゃべりな人だな」と思ってしまいましたが、実はそうではありませんでした。
Tell me about it =わかるわ〜
“Tell me about it”は、このような場合「その話に共感している」「同じような体験をしている」ことを表すフレーズとして使われるのだそうです。最近の日本語で言うなら、同意を示す時に使う「それな」も近いかもしれません。
「わかるわ〜」と言われて嫌な気分になる人はいませんので、会話が盛り上がる、とっても使えるフレーズなのです。
また、たいてい“Tell me about it(わかるわ〜)”と言ったあとは、続けて自分の経験を話す場合が多く、この友人が人の話を聞かないタイプ、というわけでは決してなかったのです。
Why don’t you〜? は別に怒ってない
この“Tell me about it”と同じように、実は直訳とは別の意味を持っていて、そうとは知らず誤解してしまった、というフレーズはたくさんあります。
例えば渡英当時、ホテルでスタッフに部屋を案内していただいたきこう言われた時のことです。
Why don’t you come in the room?
直訳すると「なぜ部屋に入らないのか?」ですから、「モタモタしてないで、さっさと入ってよ」と怒られたのかと思い、「なんてこわいホテルなのか」と震えました。
もちろん“Why don’t you〜?”で「〜しませんか」という表現ですから、スタッフは怒っていたわけではなく「お部屋に入りませんか?」「お部屋へどうぞ」と言ってくれただけなのです。
このように、英語力が低いがために、相手のことを誤解してしまうことはよくあり、だからこそスピーキングが苦手でも面倒くさがらず「今のどういう意味ですか?」「怒っているの?」などとたくさん質問をして、相手のことを知っていかないといけないのだと、実感しています。
「会社の犬」は、英語でも「犬」!
圧倒的に増えたおうち時間を使って、最近はオンラインで日本語教師を始めました。先日は「犬」という漢字をイギリス人生徒と勉強しました。その際うっかり、「奴隷」という意味あいで「会社の犬」というフレーズを使ってしまいました。こんなネガティブな言葉を、日本語学習をはじめたばかりの方が覚える必要はないと思うのですが、そのイギリス人生徒は案外すぐに意味を理解してくれました。
なぜなら、英語でも同じように言うからだそうです。
lapdog =(誰かの)犬
本来は小さな愛玩犬のことをいうのだそうです。“lap”とは、「膝の上」というような意味があるので、(「ラップトップPC」の「ラップ」です)、まさに人の膝の上に座っているような小さな犬のイメージです。この“lapdog(ラップドッグ)”という単語が、そのまま日本語でいう「誰かの犬」というフレーズで使えるようで、ケンブリッジの英英辞典にもこのような例文がありました。
Opposition parties accuse the newspaper"s editor of being a government lapdog.(野党は、その新聞の記者が、政府の犬であると非難した)
この例文はつまり、新聞記者が実は「政府の犬」で、政府の都合の悪いことを報道しなかったということでしょう。
また、“lapdog”ほど一般的な言い方ではないそうですが、同じように「誰かの犬」のことを、“Poodle(プードル)”というのだそうです。
The council is being made a poodle of central government.(議会は中央政府の犬にされてしまった)
「人に従順に従う」「飼い慣らされた」というイメージからか、英語も日本語もこのような表現に「犬」を使っているのでしょう。英語と日本語の共通点をみつけると、一気にその単語を覚えやすくなりますが、「覚えたからといって、英語でも日本語でも使うのは控えた方がいいフレーズだろう」ということで生徒さんとお互い納得しました。
MOMOKO YASUI
ロンドン在住編集・ライター。1983年生まれ。男性ライフスタイル誌、美術誌、映画誌で計13年の編集職を経て2018年渡英。英語のプレスリリースを読むのに膨大な時間がかかって現在、仕事が非効率。