35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めていきなり渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と日本人含め各国人からお叱りを受けつつ、覚えたフレーズの数々。下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。「人のEnglishを笑うな」第57回!
人生初めての「ホームパーティ」で学んだ言葉
ある時、イギリス人の友人からこう言われました。
「来週友達の誕生日パーティに呼ばれてるんだけど、一緒に行かない? ホームパーティなんだって」
「ホームパーティ」。それは海外ドラマの中だけにあるものだとずっと思っていました。電飾の飾られた部屋、爆音で鳴り響く音楽、踊りながらグラスを傾ける大勢の外国人たちーー。しかも当然のことながら、パーティは全編英語で行われているわけです。そんな場所に行くなんて、英語と社交が両方下手な私にとっては考えただけで恐ろしく、断りたい一心でこう言いました。
「いや、私、その友達に会ったことないし。知らない人が家に行ったら悪いよ」
その時、友人の言ったひと言がこれです。
“Not at all - the more the merrier”
“Not at all”は「そんなことないよ」ということでしょう。“the more the merrier”は、耳慣れないフレーズで、この時はそもそも聞き取れなかったのですが、実はこういう意味でした。
the more the merrier = 多ければ多いほど楽しい
この場合は「人が多ければ多いほど楽しいよ」という意味で、直接パーティの主役と会ったことがなくても、参加するのは一向にかまわないのだ、ということです。
この表現は「The+比較級+名詞(+動詞),+The+比較級+名詞(+動詞)」で「〜するほど〜だ」となる言い方を、短くしたフレーズだそうです。この場合は“The more people there are, the merrier it is.”のような文章を短くしていると考えられます。
また“merrier”は「楽しい」とか「幸せ」という意味の“merry”という形容詞の比較級です(「メリークリスマス」の「メリー」です)。
この“the more the merrier”は意識してみると、実はいたるところで、使われています。
私が実際に遭遇した例だと、「日曜日にみんなで美術館行くんだけど来る? ルームメイトや家族も誘っていいよ“the more the merrier”だから」とか、スカイプでの語学レッスン中に、教師のルームメイトが酔っ払って突如参加し、“the more the merrier”と叫ぶなどなどです。ロンドンという、オープンマインドな人が多く住む地域だからこそ、よく聞いたのかもしれません。
“the more the merrier”と言われてしまっては、もう「行きたくない」とは言えず、人生初の「ホームパーティ」に参加することを決めました。せめてお土産くらいはちゃんとしたものをと、日本食材店で日本酒の「久保田」を購入し持参しました。しかし誰とも話せない手持ち無沙汰から、結局それをほぼ一人で飲み干す結果となってしまいました。
この「The+比較級+The+比較級」は実は日常で、かなり便利に使えます。
例えばオフィスで「いつまでに書類出せばいいですか?」と聞かれたら。
“The sooner the better(早ければ早いほどいい)”
これはつまりは日本語でいう「なる早で」でしょう。
「予算、どれくらいまで押さえた方がいいんですか?」
“The cheaper the better(安ければ安いほどいい)”
「コーヒー、アイスにしますか?ホットにしますか?」
“The hotter the better(熱ければ熱いほどいい)”
この場合は「熱々でお願いします」という意味になるでしょう。フレーズも短く言いやすいので、ぜひ普段の生活で使ってみてください。
ひと言付け加えるだけで、デキる風になるフレーズ!?
語学学校に入ったばかりの頃、上級レベルのクラスにいる人たちがとても眩しく映り、当時、すでに35歳を超えていながら、流暢にしゃべる年下の生徒たちを「憧れの先輩」を見つめる高校生のような気分で眺めていました。
時にはレベルに関係なく参加できるレッスンもあり、それは上級者の勉強法を見ることができるチャンスでもありました。そのレッスンの中で、教師が聞きました。
“Do you have any questions?(質問はありますか?)”
授業についていくだけでギリギリだった私は、とりあえず質問がない場合は、ただ首を横にふるだけでした。しかし上級レベルの生徒がこう言いました。
“None so far.”
「ソーファー」ってなんだろう、すごく遠いってこと? それともソファ? と私は授業と関係ない他の生徒の受け答えだけで、混乱してしまいました。
so far = ここまでは
という意味の表現で、この場合は「いいえ、ここまでは(質問はありません)」ということです。ただ首を振るか、言葉を発してもせいぜい“No”だけだった私にとっては目から鱗でした。そして、その生徒がすごくカッコよく見えてなりませんでした。
以来、私はなんでもかんでも“so far”をつけるようになってしまいました。先日は、ある人の仕事ぶりを褒めたくこんな風に言ってしまいました。
I think he"s done a great job so far.(ここまでは、彼はいい仕事をしていると思うよ)
この場合は“so far”がついたことによって「ここまではね」という痛烈な皮肉になってしまっていたのです。気に入ったフレーズを乱用する癖を、この時少し反省しました。
MOMOKO YASUI
ロンドン在住編集・ライター。1983年生まれ。男性ライフスタイル誌、美術誌、映画誌で計13年の編集職を経て2018年渡英。英語のプレスリリースを読むのに膨大な時間がかかって現在、仕事が非効率。