男性ホルモンの減少に伴い、体や心に不調をきたす男性更年期障害。どんな症状が出たら更年期を疑うべきなのか、Dクリニックにて男性更年期と男性妊活外来を担当する、順天堂大学教授の辻村晃先生にレクチャーしてもらう。「40代から知っておきたい「男の更年期障害」とは」はこちら
こんな症状が出たら要注意! 男性更年期障害チェックリスト
まずは、下記のチェックリストを確認して欲しい。
□性欲が減退し、セックスの喜びも低下した
□朝立ちの回数が減ってきた
□筋力が弱くなってきたと感じる
□太りやすくなり、お腹が出てきた
□寝つけない、早く目が覚めるなどの睡眠障害がある
□やる気が低下、気分が沈む日が増えた
□すでに燃え尽きたという感じがする
□突然の発汗やほてりがある
以上の8項目について、4個以上当てはまる人は男性更年期障害の可能性が!
テストステロンの減少が中年太りを誘発
男性ホルモンの数値が低下すると、心身にさまざまな不調が生じる。それを総称するのが、男性更年期障害だ。
「男性ホルモンにはいくつか種類がありますが、約95%を占めるのが、テストステロンというホルモン。男性ホルモン=テストステロンと捉えても良いでしょう。つまり、テストステロンが減少することで、そのホルモンが担っている働きが衰え、心身に不都合が起こってしまうのです」と言うのは、男性更年期外来の担当医として、多くの男性の悩みに寄り添ってきた順天堂大学教授の辻村先生。
具体的な症状をみていこう。まずは、体に関する不調について。真っ先にイメージするのは、勃起障害や性欲の減退、射精障害など男性力に関わるものだろう。ところが、それ以外にも、ミドルエイジの男性を悩ませる“あの症状”も、テストステロン減少が関係しているのだとか!
「まずお伝えしたいのが、テストステロン減少と“中年太り”との関係。テストステロンには脂肪を抑える役割があるので、減少すれば、当然太りやすくなります。とくに内臓脂肪が増えやすくなるため、おなか回りが目立ってくるんですよ」
しかも、テストステロンには筋肉をつくる働きもある。つまり、テストステロンの数値が下がれば筋肉量が減り、筋肉量が減れば基礎代謝も低くなり、体重増加が加速することに。メタボに悩む男性が中年期以降に増えるのは、こうした理由からだ。
「胸の筋肉が落ち、おなかがポッコリ出てくるというのは、その典型ですね。もちろん、中年以降に太ってしまうのは、忙しくて運動不足になりがちという理由もあると思います。とはいえ、テストステロンと肥満との因果関係は、研究データからも明らか。また、テストステロンは血管の状態や血行にも関わっていて、この数値が下がると、動脈硬化が起こりやすいという研究結果もあります」
こうした症状が進行してしまうと、メタボリック症候群(内臓肥満に加え、高血圧、高血糖、脂質異常症の3つのうち2つ以上みられる状態)や、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症といった重大案件につながってしまうケースも。
「また、テストステロンには骨をつくる働きもあるんですよ。骨粗しょう症は女性に多い疾病だと思われがちですが、男性も、テストステロン減少によって骨密度が低下し、ちょっとしたことで骨が折れるなどリスクが高まってしまいます。骨の衰えは自覚しにくいので、40代~50代になったら、骨密度の検査を受けることをおすすめします」
その他、女性の場合と同様、突然のほてりや発汗、だるさ、疲れが抜けないといった症状も見受けられるという。
「どんな症状が表れるかは人によって異なり、医師でも、『こういう人はこんな症状が出る』と予測するのは難しいですね」
鬱やパニック障害を引き起こす可能性も
メンタル面で目立つのが、気分が落ち込む、やる気が出ない、憂鬱になる、気持ちが塞ぐといったネガティブな感情に支配されてしまうこと。
「テストステロンには、気持ちを前向きに、アクティブにする働きがあるため、不足すると、こうした症状が起こるのでしょう。一方で、ちょっとしたことでイライラしたり、怒りっぽくなったりする人もいます。いずれにしても、精神のバランスがうまくとれていない状態にあるのは間違いありません」
どちらの症状が出るかは人それぞれだが、家族や仲間から「以前よりイライラしやすくなっている」「ちょっとしたことで落ち込むようになった」など、“変化”を指摘されたら要注意。更年期障害の可能性がある。
「とくにネガティブな精神状態は、そのまま放っておくと危険。不安で夜眠れないと訴える患者さんも少なくないですし、鬱やパニック障害を引き起こす場合もありますから。年を取れば誰にでも起こる症状だなどと甘く考えず、一度診察を受けてほしいですね」
また、テストステロンは認知力や集中力を司っているため、減少すれば、そうした力もダウン。中年期以降、記憶力の衰えや集中力の低下を自覚する人も多いことだろう。その裏には、“テストステロンの分泌数値の低下”という原因もあるようだ。
重大な病気につながる可能性もある男性更年期障害。最終回は、その対処法について、辻村先生に教えてもらおう。
<監修>辻村晃 先生
兵庫医科大学卒業。日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医、日本生殖医学会 生殖医療専門医。国立病院機構大阪医療センター勤務後、ニューヨーク大学に留学。大阪大学医学部泌尿器科准教授などを経て、順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科教授に就任。生殖医学や性機能障害のエキスパートとして、Dクリニック東京の男性更年期と男性妊活外来を担当。