カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する連載「金を使うならカラダに使え!」。第11回のキーワードは「FGF23」。これは「過剰なリンを排泄せよ」という指令を腎臓に届ける"伝達ホルモン"で、その検査数値が腎臓の機能レベルを示している。今回は「腎臓とリン」にまつわる話の後編。自治医科大学の黒尾 誠教授と、実際にFGF23の検査を受けた堀江氏との対談をお届けする。前編はこちら。【過去の連載記事】
1日も早く保険適用になるべき
黒尾 誠教授が「寿命を決める」と語る腎臓は、血管と尿細管で構成される「ネフロン」という"フィルター構造"の集合体で、血液をろ過し原尿を作る役割をしている(原尿中の必要な成分は再吸収されて血管に戻され、残りが尿となって排出される)。我々の身体には、食事からリンを摂取するとFGF23が分泌され、過剰なリンが尿中に排出される仕組みが備わっている。しかし、過剰なリン摂取や加齢によるネフロン数の減少によって、血中や原尿中のリンが高濃度になると、リン酸カルシウムの結晶が現れて血管や尿細管を傷つけ、全身の臓器に障害を起こす一因となる。その結果、老化が加速し、慢性腎臓病や動脈硬化、心臓病などの発症にもつながる。腎臓のネフロンの数に対してリンを摂り過ぎていないかは、自由診療によるFGF23の測定で知ることができる──。
堀江貴文(以下堀江) 先生、FGF23検査の結果が出ました。
黒尾 誠(以下黒尾) FGF23の数値は45.8pg/㎖(ピコグラム・パー・ミリリットル 以下略)ですね。私たちの研究によれば、FGF23が53を超えるとリンの摂りすぎ傾向で「このままだと腎機能が低下して人工透析の確率が上がりますよ」という黄信号となります。堀江さんは正常範囲内でちょっと高め、といったところです。年齢が49歳なので、ネフロン数は20歳のころより2〜3割減っているはず。食生活は若いころと変わってないですか?
堀江 はい。食べたいものを食べてます。
黒尾 それでこの数値なら悪くないです。腎臓のネフロンの数に対してリンの摂りすぎはない、という結論になります。あとは、尿中のリンとクレアチニン(筋肉を動かした後にできる老廃物)から計算する、推定原尿中リン濃度ですが、これもそんなに高くありません。
堀江 僕は定期的な健康診断でクレアチニンも測っていて、最新の記録は3月のものです(とデータを提示)。
黒尾 問題ないですね。ネフロンの数は出生時の体重(1972年は平均3200g、現在は平均3000g )と相関性があるのですが、堀江さんは3600gとおっしゃってたので、平均値よりネフロンが多いのでしょう。
堀江 それはラッキーでした。
黒尾 ちょっとくらい異常があったほうが誌面としては面白かったかもしれませんが(笑)。
堀江 よかったです。ははは。
黒尾 45歳以上の4分の1はFGF23の値が53を超えているという研究調査もありますが、食事によるリンの摂取に気をつけることで、腎臓の機能低下や老化の加速を防ぐことができます。そして運動も大切です。加齢とともに骨量が減ってきますよね。自分の骨に蓄えられたリンが溶け出して血中に流入するので、腎臓にとって骨量減少はリン摂取と同じく「リン負荷」になります。骨密度の減少を指摘された人やFGF23が53以上の人は、骨量を減らさないための運動療法は有効だと思います。
堀江 リンを多く含む食品はどんなものですか?
黒尾 乳製品、赤身肉、小魚、ナッツ類、レバーなどですね。食品中のリン含有量はタンパク含有量に比例します。したがって、食品からのリン摂取を減らすには低タンパク食にする必要があるので、栄養不足に陥りやすく注意が必要です。タンパクを減らさずにリンを減らすには、タンパク源を動物性食品から植物性食品に切り替えるのが有効です。例えば大豆に含まれるリンは、肉に含まれるリンよりも吸収率が低いです。それと、食品添加物に含まれるリン(リン酸塩)に注意すべきです。リン酸塩は無機リンなので、ほぼ100%が体内に吸収されます。加工食品を購入する際は原材料のラベルチェックを習慣にするといいですね。
堀江 食品添加物のすべてが悪いわけではないので、知識を持つことが必要ですね。
黒尾 そのとおりです。食品添加物は私たちの食生活を安全で豊かなものにしてくれてますし、防腐剤がなければ食中毒のリスクは上がりますしね。ただ、FGF23が53を超えたら、少しずつ控える意識を持ったほうが腎臓にとってはよいでしょう。
堀江 どこでどの程度の線引きをするかは、個々のライフスタイルによりますし、食品摂取の影響などは個体差があるじゃないですか。僕が常々考えているのはパーソナライズ。今回のリンの問題もそうですけど、そろそろパーソナルケアとか予防とか、個々の体質に応じてカスタマイズしたリミットなどがリコメンデーションできるようになっていくといいなと思います。
黒尾 私もそう思っていて、目指しているのはパーソナライズドメディスン(個別化医療)。研究しているのはリンという限られた分野ですが、FGF23の値なりを見て、その人にリン制限が必要なのか、必要ならどの程度で十分なのか、何を目標に制限を調節したらいいのか、その人に効く薬がどれなのかなど、個人に応じた対応をすべきと考えています。パーソナルな対応のためには指標が必要です。FGF23は、腎機能を保つ個別化医療を可能にする指標です。腎不全による人工透析の患者さんは日本では33万人といわれていますが、個人に合わせたリンのコントロールで、腎臓の機能を長く維持できるようになれば、人工透析の患者数を減らすことができると思います。
堀江 現在は一部のクリニックでしか受けられないFGF23の検査が保険適用になって、誰も
が健康診断で数値がわかるようになるといいですね。
※この連載で紹介する医療は、研究中の医学に基づいて自由診療で行われており、現在も検証や臨床試験が続いています。
Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、アプリのプロデュース、会員制オンラインサロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。共著に『女性の「ヘルスケア」を変えれば日本の経済が変わる』ほか。
Makoto Kuroo
自治医科大学分子病態治療研究センター抗加齢医学研究部教授。東京大学医学部医学科卒業。1997年、余分なリンを腎臓から排出させる老化抑制遺伝子「クロトー」を発見。著書は発売1ヵ月で4刷・6万部のベストセラーになっている。