ゴルフは時にビジネスに通ずる大切なことを教えてくれ、人生の幅をも広げてくれるもの。他のスポーツでは決して味わえない奥深い魅力や醍醐味を、ゴルフ好きな業界人に教えてもらった。今回は、青山学院大学 駅伝部監督の原晋氏に話を聞いた。【特集 GOLF:MORE THAN A GAME】

青山学院大学 駅伝部監督。1967年広島県生まれ。中学から陸上を始め、学生時代から全国で活躍。卒業後は中国電力陸上競技部1期生に。ケガで引退後は営業部に配属され、10年間勤務。2004年から現職。2025年の箱根駅伝では2年連続8回目の総合優勝を飾る。
夢中になって球を追うことで新しいひらめきが生まれる
正月恒例の箱根駅伝。2年連続8度目の総合優勝に沸いたその4日前、監督の原晋氏が立っていたのは、なんとシミュレーションゴルフの打席。“常勝”を義務づけられた監督は、さぞプレッシャーと緊張で眠れない日々では……という想像はあっさり裏切られた。
「合宿中でもフリーの時間を使ってラウンドすることもありますよ。きちんとトレーニングを見て、やることをやっていれば、何したって自由。悪いことしているわけじゃないですし。でもゴルフって言うと、すぐけしからん! て言う人がいますよね。練習をサボって興じていればともかく、そうじゃない。ストレスを発散するツールであるなら、どんどんやるべき。無心になって頭を空っぽにして没頭することで、また新しいものを生みだすきっかけにもなりますから」
原氏がゴルフを始めたのは、ケガで実業団選手を引退し、営業部の一社員として働き始めた1995年頃。
「社内外で人脈を築くのに、ゴルフは本当に役立ちました。ティグラウンドに立てば、年齢も立場も関係なく同じ土俵で戦うわけですから、距離はぐっと縮まる。それも自然が豊かで開放感たっぷりの場所でしょ。会話だって弾みますよ。ラウンドを通じて上司や部下、取引先の知らなかった一面を見ることもできますしね」
また、義父がゴルフ好きということもあり、家族でプレイを楽しむなど、原氏の日常にゴルフはごく自然にあったという。だが、2004年に青山学院大学・駅伝部監督に就任すると同時に、クラブは一旦置くことになった。
「安定した正社員から3年限定で大学の嘱託職員になった。結果を出さないといけなくて。単純にゴルフどころじゃなくなっちゃったんです。でもまさか、17年間もゴルフから遠ざかるとは思わなかったです」

再びクラブを握ったのは4年前の2021年春。コロナ禍をきっかけに再開すると、ゴルフへの情熱が戻ってきた。
「ベストスコアはいまだに会社員時代に出した90。ゴルフは道具の進化が著しいスポーツだから、なんとかその恩恵を受けて90切りを目指したいけれど、難しい。陸上競技に関しては、“今の自分の実力をまずは把握して、半歩先の目標に向かってコツコツやる”というのが私の信条ですが、ゴルフに関しては別。150ヤード切ったら、全部入ると思って打っているから。ピンしか見てないんです(笑)」
陸上で培ったマネジメント力をゴルフで活かしていないとは意外である。
「唯一、メンタル面に関してだけは箱根駅伝の精神に通じるものがあるかもしれない。ほら、ゴルフは一球、一球が勝負とはいえ、結果に対してくよくよして引きずっても仕方ないもの。だったら、さっさと切り替えて前向きに次を考える、っていうのは陸上も同じですからね」
目下のお楽しみは、自らの名前を冠に掲げたゴルフコンペ「原カップ」。定期的に開催し、多彩な顔ぶれとプレイに興じている。
「新聞記者、メーカー担当者、行きつけのお好み焼き屋の大将、親交のある俳優さん、ランニングスクールの校長、それから妻。東海大学の両角監督は、ライバル大学といえど一緒にプレイをしますよ。ゴルフ場で高校生のスカウトについて、情報交換したりも。オフィシャルじゃない場だからこそ、ざっくばらんに話せることもあるんです」
ゴルフでのコミュニケーションが仕事にも相手との関係にも好循環を生む。名将はそれを身をもって知っているのだ。
ゴルフ歴|(再開して)4年
ベストスコア|90
始めたきっかけ|営業部員時代に職場の仲間に誘われたことがきっかけ。
年間ラウンド数|40回
好きなコース|東京都・東京よみうりカントリークラブ
得意なクラブ|7番アイアン
この記事はGOETHE 2025年5月号「総力特集|GOLF:MORE THAN A GAME 単なるゲームを超えるゴルフ、60通りの誘惑」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら