世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベターの愛弟子・吉田洋一郎による、最新ゴルフレッスンコラム15回目。顧客の多くが国内外のエグゼクティブ、有名企業の経営者という吉田コーチが、スコアも所作も洗練させるための"技術"と"知識"を伝授する。
「力を抜いてください」では脱力できない理由
アマチュアはある程度の腕前になっても、ドライバーでバランスを崩す人が一定数いる。アイアンではラインを出したり、着弾するまでピタッと止まっていられるのに、ドライバーは飛ばしたいという意識から力みが出てしまうようだ。
プロの「ここ一番」のショットのように、普段のスイングを崩さずにヘッドスピードを上げられるなら問題ない。しかしアマチュアが力を入れようとすると、グリッププレッシャーが強くなったり、スイングアークが大きくなったりして、正しいクラブ軌道から逸脱してしまうような動きになる。
これは普段から足や尻、胴回りといったスイングに必要な筋肉を動かせておらず、手や腕でクラブをコントロールしようとしているためだ。
このような傾向のあるアマチュアは「力を抜いてください」とアドバイスされたことがあるだろう。しかし、そもそも脱力するというのは非常に難しいことだし、ただ力を抜くだけでは腕を速く振ることができずに飛ばなくなるということもある。
単純に今まで頼っていた手や腕の力を抜いて出力を下げるだけでは、飛距離が落ちるだけで根本的な解決にはならない。パフォーマンスを上げるためには、手や腕に頼っていた出力の仕方を変える必要がある。下半身やクラブヘッドを効率的に使い新たな出力の仕方を覚える必要があるのだ。それらをエンジンとし、腕や手をハンドルとするシステムができることで、手や腕に「力を入れる必要のない」状態にすることが大事になる。
本来動かしたいクラブヘッド、足や尻、胴回りの筋肉はとても意識しづらい。しかし、意識をそれらに持っていくだけで手や腕の意識が薄れ徐々に力も抜けてくる。
練習ではクラブヘッドや下半身を意識しながら、手や腕は30%の力感にしてフィニッシュまでゆっくり振ってほしい。慣れてきたら上半身の力感はそのままにして徐々に他のエンジン部分の出力を高めてみる。今までの力感からすると物足りない感じがするかもしれないが、手や腕が脱力されて「振られている」状態を感じることができるだろう。
最大飛距離ではなく平均飛距離を考えれば脱力思考になる
下半身やクラブヘッドが主役となった適切に脱力できたスイングが身につけば、むしろ以前よりも飛距離が伸びる。しかし、ゴルファーはどうしても手や腕に力を込めて思い切り振らないと飛ばないし、コントロールができないのではないかという疑念が捨てきれない。そのメンタルブロックを外すために敢えて一度飛距離を落としてみるのもいいだろう。
実際、最初は脱力したスイングをコースで試すと飛距離が落ちる場合が多い。しかし飛距離が落ちたとしても最大でも15ヤード程度だ。力みが減ったことで再現性は高くなるし、スイングのバランスを崩したことによるミスショットの減少という得られるメリットのほうが大きい。スコアを出すという観点では、飛距離が多少落ちてもミスショットが減ったほうが、圧倒的にスコアへの影響度が高い。特にミスショットがOBになるほど曲がったり、林の中や傾斜地からのリカバリーに慣れていないアマチュアは、いかに平らな場所から打つかのほうが重要になる。必要なのは一発の最大飛距離ではなく、1ラウンドの平均飛距離なのだ。
仮に1ラウンドでパー3を除いた14個のホールにおいてドライバーを使った場合を考えてみよう。飛距離を抑えてミスが無いプレーと、飛距離を求めてハーフで1回ずつOBしてしまった場合、前者のほうが平均飛距離が長くなる。
■飛距離を抑えた場合
215(ヤード)×14(回)=3,010(ヤード)
■最大飛距離を求めた場合
230(ヤード)×12(回)=2,760(ヤード)
前者は平均飛距離が215ヤードだが後者は197ヤードとなる(OBした2回は0ヤードとなるため)。
数字遊びのように感じるかもしれないが、ミスショットで方向性を失うことはこれほど何も生み出さない損失だと思ってもらうとよい。
手や腕に力を込めて思い切り振らないほうが良い結果が出るという「成功体験」を得られれば、余計な力みが抜けて飛ばそうとしなくなる。そこに下半身やクラブヘッドの動きを加えられれば飛距離も増すことになる。安定した飛距離と方向性を生み出すために効率的な方法で脱力することが、アマチュアのドライバーショット成功のカギとなるのだ。