今、チェックしておきたい音楽をゲーテ編集部が紹介。今回はミシェル・カミロ&トマティートの『Spain Forever Again』。
切なさ、儚さ、愛がにじむ、超絶技巧のピアノとギターのデュオ
ドミニカ共和国のピアニスト、ミシェル・カミロ。スペインのギタリスト、トマティート。ふたりのデュオ・アルバム『スペイン・フォーエヴァー・アゲイン』には、切なさ、儚さ、そして旅情がにじむ。
どちらも強く激しい音楽の文化圏出身。実際、2005年に観たミシェルのショーは、超絶技巧を誇示するような演奏だった。ゲストの日本人ピアニストを叩きのめそう、支配しよう、という意気を感じた。
ところが年齢のせいか、キャリアのせいか、近年のミシェルの演奏は超絶技巧のまま、やさしさやぬくもりを増している。そのピアノが、トマティートの、あるときは激しく、ある時はとろけるようなギターと出合い、さらに人間味を帯びてきた。2017年にも彼らの演奏を体験。インタビューの機会も得た。
「楽器の音の鳴っていないスペースを大切にしよう」
それがふたりの合言葉だそうだ。このアルバムも音数少ないバラードがしみる。「アルフォンシーナと海」「アントニア」「リメンブランス」は黄昏時の景色が見えるような演奏だ。
「愛情溢れるロマンティックな演奏を意識しよう」
とも、ふたりはいつも確認し合っているという。
Kazunori Kodate
音楽ライター。近著は『不道徳ロック講座』(新潮新書)、『ジャズ・ジャイアントたちの20代録音「青の時代」を聴く』(星海社)。他に『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』(新潮新書)など多数。