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2023.06.09

村上春樹、東野圭吾etc.韓国で人気の日本文学事情

日本文学が韓国で人気だ。吉本ばななや村上龍、江國香織、奥田英朗、東野圭吾、宮部みゆきなど、数多くの日本人作家の作品がベストセラーの常連となり、ドラマや映画など映像化された作品も多い。なかでも圧倒的な人気を誇るのが村上春樹だ。日本で村上春樹の新作が発表されれば、韓国の出版業界も沸くほど。そんな日本文学の韓国出版業界における立ち位置とは。連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……

天井まで本が並ぶピョルマダン図書館

天井まで本が並ぶピョルマダン図書館。『青春の記録』『トッケビ』などの韓国ドラマのロケ地としても有名で、映えスポットとしても人気。

韓国で圧倒的な人気を誇る村上春樹

去る2023年5月19日、早稲田大学の国際文学館(村上春樹ライブラリー)では公開セミナー「村上春樹文学に出会う」の初回が開催され、大盛況のうちに終了した。

記念すべき初回のゲストとして迎えられたのは、韓国の人気小説家&エッセイストのイム・キョンソン。エッセイ集『村上春樹のせいで』の著者として、昔から村上春樹のことを「最愛の作家」だと公言している彼女は、講演会でも“ハルキスト”らしさを思う存分発揮していた。

村上春樹といえば、韓国でも圧倒的な人気を誇る日本人作家である。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』をはじめとする全作品が翻訳出版されており、特に『ノルウェイの森』は韓国人が最も愛する外国文学作品といわれるほどだ。

K-POPグループBTSのメンバー・RMも大の村上春樹ファンとして知られている。

RMが手がけた、5thミニアルバム『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』(2017)の収録曲「Sea」は、『1Q84』に出てくる「希望のあるところには必ず試練があるものだから」という文章からインスピレーションを得た曲だ。そしてこのアルバムの発売記者会見に登壇する直前まで、RMが当時の新作だった『騎士団長殺し』を読んでいたことも話題となった。

日本では村上春樹の新作が発表されるたびに業界が沸くが、韓国もそう変わらない。

『騎士団長殺し』が発売された2017年には、版権確保をめぐる各出版社の激しい心理戦が繰り広げられた。

2013年の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の版権料は約16億ウォン(約1億6900万円)だったが、『騎士団長殺し』の場合は20〜30億ウォン(約2〜3億円)に高騰したという噂も広がり、世間では賛否両論が巻き起こったりもした。

その『騎士団長殺し』の韓国語版は先行予約販売だけで3刷30万部を突破し、発売から3週間で50万部を突破するという大フィーバーに。日本でも話題だった大ヒット小説『82年生まれ、キム・ジヨン』が韓国で50万部を突破したのは発売から14ヵ月経ってからなので、それと比べると凄まじいとしか言いようがない人気だろう。

日本文学が韓国でウケる理由

韓国の出版業界を盛り上げる日本人作家は、村上春樹だけではない。昔から根強い人気を誇る吉本ばななや村上龍、江國香織、奥田英朗などに加え、近年は東野圭吾、湊かなえ、角田光代、辻村深月、松家仁之、佐野徹夜、住野よるなどがベストセラーの常連だ。

特に東野圭吾の場合、2009年から10年間、韓国で最も売れた海外作家として名前が挙がっている(大手書店「教保文庫」の2019年調べ)。そもそも多作な作家でもあるが、特に2012年12月に翻訳出版された『ナミヤ雑貨店の奇蹟』が10年連続でベストセラーにランクイン。2018年には100万部を突破し、2020年に100刷突破、2022年には170万人が読んだ日本文学という大記録を打ち立てた。

読みやすい淡白な文体、ストーリーの多様性や吸引力、美しくきめ細かい感情描写などが日本文学の人気の秘訣だと、韓国では分析されている。それもあって、日本文学は映像コンテンツの原作としても人気だ。

2018年には村上春樹の短編小説『納屋を焼く』を原作とした映画『バーニング 劇場版』(2019年日本公開)が公開され、最近では角田光代の『紙の月』がドラマ化された。現在は『旅屋おかえり』(原田マハ)、『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(丸山正樹)のドラマ・映画化も進んでいる。

もはや韓国ではすっかりひとつのジャンルとして定着した日本文学。そこに新たなビジネスチャンスが潜んでいる可能性は無きにしもあらずだ。

■著者・李ハナ
韓国・釜山(プサン)で生まれ育ち、独学で日本語を勉強し現在に至る。『スポーツソウル日本版』の芸能班デスクなどを務め、2015年から日本語原稿で韓国エンタメの最新トレンドと底力を多数紹介。著書に『韓国ドラマで楽しくおぼえる! 役立つ韓国語読本』(共著作・双葉社)。

 
■連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
ドラマ『愛の不時着』、映画『パラサイト』、音楽ではBTSの世界的活躍など、韓国エンタメの評価は高い。かつて「韓流」といえば女性層への影響力が強い印象だったが、今やビジネスパーソンもこの動向を見逃してはならない。本連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」では、仕事でもプライベートでも使える韓国エンタメ情報を紹介する。

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TEXT=李ハナ(ピッチコミュニケーションズ)

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