「ドラマを見るだけでサムスンの歴史がわかる」ともいわれる大ヒット韓国ドラマが日本に上陸。ビジネスパーソンとしてはキャッチアップしておきたい。連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
2022年韓国最高視聴率ドラマ『財閥家の末息子~Reborn Rich~』
ドコモの映像配信サービス「dTV」がリニューアルし、新たな映像配信メディア「Lemino(レミノ)」を2023年4月12日よりスタートさせた。
独占配信やオリジナル作品を含む「韓流・アジア」「アニメ」「国内ドラマ」「邦画」「音楽・ライブ」「エンタメ」などのジャンルを中心とした約180,000本のコンテンツが用意されているなか、そのラインナップから目を引くタイトルがあった。
韓国ドラマ『財閥家の末息子~Reborn Rich~』(以下、『財閥家の末息子』)がそれだ。
2022年11〜12月まで韓国のケーブル局・JTBCで放送された『財閥家の末息子』(全16話)は、2022年に韓国で放送されたすべてのドラマのなかで最高視聴率を記録した大ヒット作である。
初回は視聴率6.058%でスタートしたが、たった8話で2022年のもう1つの大ヒット作『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の最高視聴率(最終回17.534%)を追い抜き19.449%を記録。第11話では“夢の視聴率”と呼ばれる20%を超え、最終回では26.948%という記録を打ち立てた。
ドラマを見るだけでサムスンの歴史がわかる
なぜ、『財閥家の末息子』は大ヒットしたか。その理由はさまざまだが、ひとつはドラマが描いている「財閥家」が実在する韓国最大財閥サムスンをモチーフにしていたからだろう。
劇中では「スニャン」と名を変えていたが、実力派俳優イ・ソンミンが演じたスニャン会長のチン・ヤンチョルは、誰がどう見てもサムスンの創業者イ・ビョンチョル(李秉喆)を想起させた。
メガネを着用して慶尚道地方の方言を使う見かけもそうだが、精米所から事業をスタートさせたことや、自動車分野では失敗を経験するエピソードなどは、イ・ビョンチョルの自伝をそのままなぞるかのようだ。家系図など細かい設定は異なるが、随所にサムスン家の逸話が散りばめられている。韓国では放送当時、「ドラマを見るだけでサムスンの歴史がわかる」という反応も少なくなかったほどだ。
もっとも、『財閥家の末息子』は経済ドラマでも立身出世物語でもない。そのタイトルではピンと来ないかもしれないが、このドラマのジャンルは最近韓国ドラマで主流になりつつあるいわゆる“転生もの”だ。
主演はソン・ジュンギ。彼が扮する主人公ユン・ヒョンウは、韓国を代表する財閥グループ・スニャンに忠誠する秘書だったが、会社からあっけなく切り捨てられ、出張先の海外で口封じのために殺害された。
ところが目を覚ますと、時は韓国がソウル五輪を翌年に控え、民主化へと突き進む激動の1987年。スニャンの創業者であるチン・ヤンチョルの孫チン・ドジュン(当時10歳)の体にヒョンウの魂が乗り移ったことから、物語が動き出す。
自分の殺害を指示した人物がいるスニャン財閥一家の末息子に転生して二度目の人生を歩むことになったヒョンウ。二度目の人生だからこそ、これから起きる大事件や出来事を詳しく予見できることはもちろん、職業柄スニャン一族の裏事情にも詳しかった彼は、“勘のいい孫”として次第にチン・ヤンチョルのお気に入りの孫となる。
例えば、1987年に実施された大統領選挙ではチン会長にどの候補に裏金を渡せばいいかアドバイスしたり、同年11月に起きた大韓航空機爆破事件ではチン会長の生命さえを助けたりといった感じだ。
ただ、ドジュンは出来の良い孫でもお人好しでもない。その内面では自分=ヒョンウを死に追いやった者たちへの復讐心を燃やしている。
韓国の史実が巧妙に入り混じったストーリー展開と善人ヅラをして財閥一族を徐々に追い詰めていく主人公の無双ファンタジー。
これらの要素が絶妙に融合した物語を、豪華キャストたちが迫真の熱演で見せたこともありながら、「人生をリセットしたい」「人生を一発逆転させたい」という誰もが一度は抱くであろう人間の欲望を、ヒョンウが代わりに満たしてくれたことこそが、『財閥家の末息子』大ヒットの理由なのかもしれない。
いずれにしても、歴史とファンタジーと復讐が入り混じる人間ドラマ。韓国の財閥ファミリーを覗き見るような感覚を味わいたいというビジネスパーソンなら、『財閥家の末息子』は一見の価値ありの作品だ。
『財閥家の末息子~Reborn Rich~』
ソン・ジュンギとイ・ソンミンの名演技が反響を呼び、2022年韓国最高視聴率を記録した話題作。全16話。
2022年/韓国
出演:ソン・ジュンギ、イ・ソンミン、シン・ヒョンビン、ユン・ジェムン、キム・ジョンナン、チョ・ハンチョル、ソ・ジェヒ、キム・シンロク、キム・ヨンジェ、チョン・ヘヨン
■著者・李ハナ
韓国・釜山(プサン)で生まれ育ち、独学で日本語を勉強し現在に至る。『スポーツソウル日本版』の芸能班デスクなどを務め、2015年から日本語原稿で韓国エンタメの最新トレンドと底力を多数紹介。著書に『韓国ドラマで楽しくおぼえる! 役立つ韓国語読本』(共著作・双葉社)。
■連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」とは……
ドラマ『愛の不時着』、映画『パラサイト』、音楽ではBTSの世界的活躍など、韓国エンタメの評価は高い。かつて「韓流」といえば女性層への影響力が強い印象だったが、今やビジネスパーソンもこの動向を見逃してはならない。本連載「ビジネスパーソンのための韓タメ最前線」では、仕事でもプライベートでも使える韓国エンタメ情報を紹介する。