今、チェックしておきたい音楽をゲーテが紹介。今回は、ブルース・スプリングスティーンの『オンリー・ザ・ストロング・サヴァイヴ』。
「ただ歌うだけのアルバムを作りたかった」
スプリングスティーンの思いによりレコーディングされた本アルバム。コモドアーズ、テンプテーションズ、アレサ・フランクリン、シュープリームスなど、1960〜70年代のスウィートソウルミュージックを中心にカバーしている。コロナ禍のロックダウンのなか自宅スタジオにこもり、好きなナンバーを歌いまくったことから生まれたそうだ。
小気味よいギターのカッティング、華やかなホーンセクション、ゴスペルのクワイアのようなコーラス……。ところがこのアルバム、それほど“黒っぽさ”を感じない。スプリングスティーンがどんなにソウルミュージックやレジェンドたちをリスペクトしても、この人が歌う限りロックに聴こえてしまう。プロデューサーのロン・アニエッロは、ソウルフルにオケを仕上げる。黒く、黒くサウンドを作ろうとして、最後の歌入れでがらりとロックに塗り替えられる。
ただし、そこがこの『オンリー・ザ・ストロング・サヴァイヴ』の最大の魅力のひとつではないか。何を歌ってもロックにしてしまうスプリングスティーンだからこそのパワー、暑苦しいほど熱量の高い歌いまわしを体験することができる。
Kazunori Kodate
音楽ライター。『新書で入門 ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(ともに新潮新書)、『25人の偉大なジャズメンが語る名言・名盤・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。