俳優・滝藤賢一による本誌連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。約6年にわたり続いている人気コラムにて、これまで紹介した映画の数々を編集部がテーマごとにピックアップ。この年末年始に、あなたの人生と共鳴する一本をご提案! 今回は、家族愛編
『ビューティフル・ボーイ』
最愛の息子を絶対に救えないとわかった時、父親としてどう生きるのか……。
4人の子供を持ちながら、滝藤はいまだにどういう父親であるべきか日々、右往左往しています。私の父親は放任主義で、中学時代にウルフカットにしようが高校で金髪にしようが一度も怒らない人でした。嬉しいような寂しいような。今となっては、それがよかったと感謝しておりますが、自分が親となると話は別。特にこういう映画を観ると考えさせられます。
実話を基にしたこの『ビューティフル・ボーイ』。運動も成績も優秀で、6つの名門大学に合格した輝かしい息子がドラッグに手を染め、抜けだせなくなっていく。父親役は、本連載の1回目『フォックスキャッチャー』で主役を演じたスティーヴ・カレル。どこにでもいる、息子をこよなく愛する父親。息子を更生施設に送ったり、施設から逃げだせば懸命に捜したりと甲斐甲斐しく世話をします。挙句の果てには、息子が溺れるドラッグがどんなものなのか試したり。いくら親が手塩にかけて育てても道を外してしまうこともある。正しい育て方などないのだと痛感させられました―――。
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『パパは奮闘中!』
親の心子知らず、子の心親知らず。
だからこそ、お互いが歩み寄らなければ。
今回は、「あ、私も親になって映画の見方が変わったんだなあ」と実感した作品を選んでみました。
『パパは奮闘中!』は、突然、奥さんに家を出ていかれて途方に暮れる男の話です。自分の身に置き換え、ぞっとしました。
ふたりの子供はまだ幼く、ロマン・デュリスが演じる主人公は家事がまるでダメ。急に毎日、3食作ることになったら、果たしてできるのか……。
主人公は配送部門の中間管理職。寒さの厳しい環境で、効率と速さを求められ、従業員はみな疲弊しきっている。家でも職場でも進退窮まる男ですが、それでも父親であることはやめられない。うぅ、泣ける―――。
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『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
力を合わせて暮らす家族に心が洗われます
相変わらずなんてセクシーなんでしょう。長い睫毛、滴るような瞳、髪をかき上げる仕草。見るたびに色気が増していく……。彼の名はティモシー・シャラメ君。滝藤、これまで『レディ・バード』、『ビューティフル・ボーイ』とティモシー君の出演作を紹介してきました。今、世界で最も美しい俳優じゃないかしら。私のなかでは、リヴァー・フェニックス、エドワード・ファーロング以来の美しさ。素材がいいと演技なんて二の次になりそうですが、芝居もいいからついつい溜息が出てしまいます。
今回紹介する『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は、話の展開も早く、過去と未来を行ったり来たりしまくりますが、何の迷いもなく観られてしまう。構成の巧さなのか、はたまた演出の為せる技か……。百何十年にもわたって読み続けられている古典の面白さと現代の俳優とのコラボレーションが見事に融合した作品です。
原作の『若草物語』は南北戦争中、北軍に従軍する牧師の父親を家で待つ、美しい母と4姉妹の話。小説には、作者のルイーザ・メイ・オルコットと彼女の姉妹の人生が色濃く投影されているそうです。作者の分身であるジョー役のシアーシャ・ローナンは誇り高く、文章を書くのが大好きで、型にはまるのは大嫌い。いかにも次女っぽい自由人。偏見ではありませんよ。長男の私はうらやましいのであります―――。
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『Our Friend/アワー・フレンド』
人生は小さな幸せの積み重ね。愛が詰まった1本です。
今回ご紹介する作品を観た時、何か似たような状況の映画を観たことがあるような気がしてならなかったのですが、思いだしました!私が出演した映画『はなちゃんのみそ汁』だ!
ともに実話で、妻が癌を患っていること、夫の職業が記者であること、そして幼い娘がいることが共通点。ただ、『はなちゃんのみそ汁』では、何度でも観られるハートフルな家族の物語にしたいという監督の強い思いから、癌で苦しむ姿は極力少なくなっている。しかし、今作『Our Friend』では心と身体が癌に蝕まれていく様が細かく描かれていて、観ていて辛くなるシーンも多い。自分の現実に簡単に書き換えられてしまう題材だけに時系列を変えず、ただただ病状をたどっていく闘病映画だったら、キツくて逃げたくなったかもしれないです。でも、感情が揺さぶられたのは構成の巧みさが大きい気がします。
冒頭、妻の深刻な病状を娘たちに伝えようとする夫婦の決意から始まり、過去と現在を行ったり来たりする。どんなに苦しく辛い現在があっても、次の瞬間には幸せな過去が描かれているので、心が救われる―――。
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『はなちゃんのみそ汁』
「24時間仕事バカ!」こそ考えるべき“病と家族”
今回紹介する映画を僕は何度観たことでしょう。でも、観飽きません。なぜなら僕が出演しているからです(笑)。
“なんて可愛い奴なんだ”と微笑ましく思う方もいるでしょうが、この連載が2年目に突入するボーナスとして、編集部にやっと自分の出演作を語ることを許されました、滝藤です。
今作は、「愛する女性に病が発覚した時どうするか」という男性にとって身につまされる題材。とはいえ「何度も観られる映画に」という監督の思いから、とてもポップに描かれています。
物語は、声楽を学ぶ20代の千恵が、僕演じる30代の新聞記者・信吾と恋に落ちるところから始まります。でも、交際早々、彼女の乳がんが発覚……。
千恵役の広末涼子さんの芝居には感服しました。丁寧にディテールを積み重ね、繊細で奥ゆかしく、終始目が離せない―――。
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Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。初のスタイルブック『『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』』(主婦と生活社刊)が発売中。滝藤さんが植物愛を語る『趣味の園芸』(NHK Eテレ)も放送中。