連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。今回は『はなちゃんのみそ汁』を取り上げる。
「24時間仕事バカ!」こそ考えるべき“病と家族”
今回紹介する映画を僕は何度観たことでしょう。でも、観飽きません。なぜなら僕が出演しているからです(笑)。
“なんて可愛い奴なんだ”と微笑ましく思う方もいるでしょうが、この連載が2年目に突入するボーナスとして、編集部にやっと自分の出演作を語ることを許されました、滝藤です。
今作は、「愛する女性に病が発覚した時どうするか」という男性にとって身につまされる題材。とはいえ「何度も観られる映画に」という監督の思いから、とてもポップに描かれています。
物語は、声楽を学ぶ20代の千恵が、僕演じる30代の新聞記者・信吾と恋に落ちるところから始まります。でも、交際早々、彼女の乳がんが発覚……。
千恵役の広末涼子さんの芝居には感服しました。丁寧にディテールを積み重ね、繊細で奥ゆかしく、終始目が離せない。
千恵の父親役の平泉成さんは、現場入りした朝から娘を案じる父親そのもので。僕と向き合うシーンで、病気の大変さ、子供ができない気兼ね、娘が家庭を持つことへの安堵感など、複雑な感情が絡み合い、顎(あご)をガタガタと痙攣(けいれん)させ話していらした。その表情を見ていたら、たまらなくなって、溢(あふ)れ出る涙を抑えるのに必死でした。ほかに赤井英和さん、高畑淳子さんら、大先輩の芝居がシーンの責任を完璧に果たしていて素晴らしい! 俳優としての在り方を教えられた稀有な現場でした。
モデルとなった安武信吾さんの口癖は「俺はロックンローラーやけん」。お会いした時「信吾役、僕でいいんですか?」とお聞きしたら「滝藤さんしかおらんですよ!」と熱く語っておられましたが、実は福山雅治さんにやってもらいたかったそうです(笑)。そんな安武さんの「結婚の時、病気や子供ができないことはまったく気にならなかった」と、言い切るその表情が眩(まぶ)しかった。
映画では、家族で食卓を囲む大切さも描いています。多忙なゲーテ読者の皆様も、せめて年末年始はそんな時間を過ごせるようにと勝手ながら案じているしだいです。あぁ、まだまだ語りたいことがある……。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!