アートやヒップホップに造形が深く、一方で経営者へのインタビューなど幅広い活動をするライター川岸徹は人生の「楽しみ上手」。海外ドラマや映画専任のライターではないからこそ、本能に従順に、真に心に響く、人生を潤す海外ドラマをセレクト! 2022年を力強く生きるための刺激をくれる2作品をお届けする。
クイーンズ・ギャンビット/何度でも観たいサクセスストーリー
取材先で「海外ドラマ、好きなんです」という声をよく耳にします。そんな時は「最近のおすすめは何ですか?」と質問しますが、ここ1年で最も多かった答えは、突出して『クイーンズ・ギャンビット』でした。月刊「ゲーテ」の取材ですと、サイバーエージェントの藤田晋さんとか、構成作家の白武ときおさんとか。で、みなさん、絶賛されます。悪評は限りなくゼロですね。
なぜ『クイーンズ・ギャンビット』は、これほど愛されるのでしょうか。
物語の舞台は1960年代のアメリカ・ケンタッキー州。交通事故で母親を失ったエリザベス・ハーモンはカトリック系の孤児院に引き取られます。でも、規律重視の生活になかなかなじめません。そんな中、チェスが趣味の用務員シャイベルに出会い、エリザベスはチェスの才能を開花させていきます。
冒頭の展開は、サクセスストーリーに欠かせない「不幸な境遇」。そして人生を切り拓くヒントをくれる「脇役」との出会い。超鉄板ストーリーでドラマは進んでいきます。そして、お待ちかねの「快進撃」です。
'60年代のアメリカは圧倒的な男性社会で、チェスをする女性はほとんどいません。そんな中、エリザベスはチェスの大会に出場し、勝利を収め続けます。一躍“チェスの天才少女”として名を馳せた彼女は、世界最強を誇っていたロシアのチャンピオンとの一戦に挑みます。
展開や結末はおおかたの予想通りです。でも、物語に引き込まれるし、何度でも見たくなります。結果がわかっていても、それがどうしたっていう感じです。映画『ショーシャンクの空に』を何度もリピートしてしまうのと同じですね。
この王道ストーリーを大成功に導いた立役者は、主役エリザベス・ハーモンを演じた女優のアニャ・テイラー・ジョイ。M・ナイト・シャマラン監督の映画『スプリット』などでの演技が絶賛されていますが、『クイーンズ・ギャンビット』でもやっぱり彼女はすごかった。天才がもっている別世界の人物感を、ここまで巧みに表現できるとは。突き抜けた目力に、ひれ伏すのみです。
未見でしたら、一度は『クイーンズ・ギャンビット』体験を。全7話とコンパクトなので、年末年始休みにサクっと鑑賞できます。
メイドの手帖/最低賃金でトイレを掃除したシングルマザーの物語
もう一作、女性の力強い生き様を描いたドラマ『メイドの手帖』もおすすめします。この作品は2021年10月に公開されたばかりですが、すでに名作の仲間入りという声が続々。ニューヨーク・タイムズ紙に掲載され、ベストセラーとなったステファニー・ランドの自叙伝『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』に着想を得て制作されました。
第一話から、主人公がとにかくもどかしい…。DV夫から逃れ、娘マディとの生活を築くために母親アレックスは掃除婦の仕事に就きます。でも負の連鎖はなかなか止まりません。低賃金のため家が借りられず、親権争いの裁判は不利な展開に。その結果、DV夫とは縁を断ち切ることができません。
ヘビーなストーリー展開で、「コイツだけは許せない」という人物も多々出てきます。でも、鑑賞後は「見てよかった」と思える作品。困難にめげないアレックスの姿にパワーをもらえるし、社会とのつながり方をあれこれ考えさせられます。闇の中に、光も見えます。新しい年を迎えるにあたって、一度鑑賞しておきたい作品です。