連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。今回は『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』を取り上げる。
成功者だけが知らない!?あなたがのし上がれた本当の理由
暑かった日々も遠くなり、秋の風情ですね。皆様、ご存知でした? よく使われる「女心と秋の空」。これ、女性本来の移り気に加え、女性の感情の起伏の激しさをも意味するそうです。時にはそんな女性に振り回されるのも……嫌いじゃない(笑)……滝藤です。
『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』のジェシカ・チャステインは、まさにそんな女性でした。彼女が演じるアナは、一見ニューヨークの上流階級で、金髪の貞淑な妻ながら、夫のアベルが経営するオイル会社にトラブルが起きると、隠し持っていた裏の表情を炸裂させる。そう、この人、実はブルックリンのギャングの親分の娘。肝が据わっているんです。
冒頭、アベルが全財産を懸け、ユダヤ人の土地を買収する賭けにでる。「(取引の場で)馬鹿なことをしないでね」とアナが促すと、「全財産賭けるんだから、これ以上馬鹿なことがあるか」とアベル。こういう何気ない会話がカッコよくて、一気に作品に惹(ひ)きつけられてしまう。
時代は1981年。ニューヨークは荒れ、警察は機能していない。アベルのオイル会社のトラックが輸送中に襲われ、検事に助けを求めても、逆にアベルを告訴すると脅す。移民から一代で成り上がるには大変な時代。サクセスストーリーはスター俳優が演じると「どうせ、なんとかなるんでしょ」と思ってしまいますよね。僕が言うのもおこがましいですが、オスカー・アイザックの微妙な知名度だからこそ、物語の不安定さを助長して実に面白い。
しかし、このアベルという男は、見ていてイライラするほど融通が利かない、正義感の強い男。絶体絶命のなか、アナが夫に放つ「ここまでの成功は自分の努力と幸運と魅力のおかげと思っているの?」のひと言にゾッとしました。「あれ? 僕も人に媚びずやってきたつもりだけど、実は裏で誰かが面倒な仕事をしてくれているのかしら?」と問い詰められている気分に(汗)。
ゲーテ読者の皆様も、知らずに誰かに尻拭いをさせていないですか? この作品を見て我が身を振り返ってみて下さい。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!