日本でも扱いやすいサイズ感と、クーペを思わせるエレガントなデザイン、そして手触りや発色のいいレザーを用いたシックなインテリア。ラグジュアリーSUVのなかでも、マセラティ「グレカーレ」はユニークな存在だ。しかもハンドルを握れば、心が浮き立つようなドライブフィールを味わわせてくれる。連載「NAVIGOETHE」とは……
ウィットに富んだクルマ
クルマの面白いところは、便利な道具として進化したのではない点にある。20世紀初頭、生まれたばかりのクルマは、貴族や富裕層の遊び道具として、「より速く、より遠くへ」という性能が磨かれた。だから今も、マセラティの2本柱はスポーツカーとGT(グランドツアラー)なのだ。
「グレカーレ」のハンドルを握ると、黎明期のクルマの伝統を継承していることを強く感じる。同社のSUV第1弾だった「レヴァンテ」が、はるか彼方を目指すGT的な使い方が似合ったのに対し、グレカーレはスポーツカー的なキャラが色濃い。アクセルやハンドルを操作すると、打てば響くように、小気味よくレスポンスしてくれるのだ。
レスポンスがいいだけではない。例えばアクセルを踏むと俊敏に加速するのはもちろん、高まる音や伸びやかなエンジンのフィーリングなどで、心を震わせてくれる。「もうちょっと回すと、天国へ連れて行くよ」と誘ってくる。
ハンドル操作に対する反応もしかり。テクノロジーの進化によって、思ったとおりのラインをトレースしてくれるだけでなく、「今、タイヤがテンパっているから、これ以上ハンドルを切らないでね」というようなメッセージも送ってくれるのだ。
運転とは、クルマとの対話だとされる。マセラティ グレカーレは実に饒舌で、ドライバーの語りかけに対して、ウィットに富んだ切り返しをしてくれる。だから、楽しい会話になる。
なぜ、こんなクルマがつくれるのか。ひとつは、やんごとなき人々を楽しませてきたノウハウがあるだろう。もうひとつ、栄枯盛衰を味わってきたことも、クルマに深みを与えている。
F1王者にまで輝いた戦前から戦後にかけての栄光。理想主義的に開発とレースにお金を注ぎこんで財政難に陥った1960年代からの苦難。そして21世紀に入ってからの鮮やかな復活と躍進。酸いも甘いも噛み分けているから、ウィットに富んだ会話ができるのだ。
MASERATI GRECALE
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