ドイツの最も小さなクルマメーカーが仕立てる“自動車グルメ”のための高性能車がBMWアルピナだ。なかでも最高出力621psを誇るフラッグシップモデルがこの4ドアボディを持つB8グラン・クーペ。源流となるのは1982年に登場し、かつて“世界一美しいクーペ”と称されたE24型B7Sターボクーペだ。今回は、BMWアルピナのB8グラン・クーペを紹介する。連載「NAVIGOETHE」とは……
乗らずして語れないアルピナ生粋の妙味
ドイツで一番小さい自動車メーカーといえば、BMWアルピナ。年間生産台数はわずかに2000台前後。今やフェラーリやベントレーだって年産1万台を超えるこの時代にあって、敢えて大幅な増産体制を敷くことなく、1965年の創業以来コツコツとクルマを組み上げてきた。
エンブレムに目を凝らせば、左側にキャブレターのエアファンネルが、右側にクランクシャフトが配置されている。BMWをベースにオリジナルのレシピによって高性能車をつくりあげてきたその象徴といえるのだ。
今回の試乗車はBMW8シリーズのLCI(ライフサイクルインパルス)、いわゆるマイナーチェンジに伴いアップデートされたモデル。エクステリアでは、ドアを開けると光り輝くアイコニック グローつきのキドニー グリルと、新デザインのエアインテークを採用。加えてインテリアのコントロールディスプレイは従来の10.25インチから12.3インチへと大型化された。
パワートレインは、最高出力621ps、最大トルク800Nmを発生する4.4ℓV型8気筒ビ・ターボエンジンを搭載。
ちなみによく比較の俎上(そじょう)に上がるBMWのトラックマシンことMモデル、M8コンペティション グラン・クーペは、最高出力625ps、最大トルク750Nmを発揮。Mモデルはブラックアウトしたフロントグリルなど随所にレーシーなパーツを鏤(まと)め、パワー重視に仕立てられている。
一方でB8グラン・クーペは、スポーティさとエレガントさを両立させた佇まいで、トルク重視のパフォーマンスと快適性を併せ持つ。グランドツアラーという位置づけだ。
エンジン始動時のサウンドは重厚感がありつつもボリュームとしては至って紳士的なもの。走らせるとアクセル開度に伴いトルクが溢れ、シフトチェンジも極めてスムーズだ。ダウンサイジングと電動化が進むなか、質感に乏しい4気筒エンジンや躍動感のないモーターを搭載したクルマに乗る機会も増えてきたが、改めてどこまででも走っていけそうなアルピナ仕込みのV8エンジンにはほれぼれする。
ドライブモードは、BMW譲りのコンフォート、スポーツ、スポーツ・プラスなどがあるが、なんといってもアルピナ独自の上質な乗り心地をかなえる「コンフォート・プラス」がこのクルマにはよく似合うのだ。加えて、サスペンションがしっかりと伸縮している感触があって、とてもエアボリュームの少ない21インチの大径タイヤを装着しているとは思えないほど滑らかにひた走る。控えめであることを是とするBMWアルピナには、その道のツウにはわかる滋味深い味わいがあるのだ。
ところで長年続いたBMWとアルピナの蜜な協力関係は2025年12月末日をもって終了する。今後、BMWがアルピナブランドを取得し、BMWの高級サブブランドのひとつになる。
すなわち現アルピナ社がこれまで約60年にわたって培ってきたエンジニアリングやノウハウが注ぎこまれた、南ドイツのブッフローエ工場のマイスターの手によってクルマがつくられるのは、残すところ3年弱。生粋のBMWアルピナ、世に送り出されるのに残された時間は、わずかしかないのだ。
<SPEC>
アルピナ
B8グラン・クーペ
ボディサイズ:5090×1930×1430㎜
ホイールベース:3025㎜
車重:2140kg
駆動方式:4WD
最高出力:621ps/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm/2000-5000rpm
価格:¥26,400,000
問い合わせ
ニコル・オートモビルズ TEL:0120-866-250
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