CAR

2022.12.01

【試乗】一度乗ったら忘れられない! フェラーリの新型スパイダー「296 GTS」

真に魅力的な男は、一度会ったら忘れられない存在となる。本誌編集長・池上雄太がイタリアで試乗したフェラーリの新型スパイダー「296 GTS」も強烈な存在感と同時に、知性と遊び心が漂っていた。それは知的冒険心を失わない、印象に残る男、そのものだ。

フェラーリ 296 GTS

新世代のフェラーリとして2021年に登場した「296 GTB」のスパイダー版、「296 GTS」。レーシングの伝統を訴えつつも優雅でもあるエクステリアは、一度会ったら忘れられない存在となる要因のひとつだった。

一度会ったら忘れられないスパイダーで、聖地マラネッロまで

仕事柄、エグゼクティブやアスリートといった方々とお会いする機会が多い。彼らのなかには、一度会ったら忘れられない存在となる人がいる。それは特別な存在感を放つと同時に、得てして会話や振る舞いに知性や遊び心が漂い、それゆえ印象深い存在となるからだと思う。実はクルマにも同様のことが。フェラーリ「296 GTS」もまさにそんな1台だった。

「296 GTS」と対面したのは、イタリア・トスカーナ州ルッカ県のティレニア海に面したマリンリゾート、フォルテ・デイ・マルミ。この地で開催された国際試乗会に、僕は参加した。

軽量コンパクトな2.9L V6ツインターボにプラグインハイブリッドシステムを組み合わせ、830cv(馬力)というレースカー並みのパフォーマンスを誇る、新世代のパワーユニットを搭載した「296 GTS」。次世代フェラーリが進むべき道を示したモデルだ。GTS(グラン・ツーリスモ・スパイダー)という車名が示すとおり、ボタン操作ひとつでオープンボディになるのもこのクルマの特徴。

フェラーリ 296 GTS

「296 GTS」に採用されたアルミ製リトラクタブル・ハード・トップは、時速45km以下ならば走行中でもわずか14秒で開閉が可能。オープン状態でも風の巻きこみはごくわずかで、快適なオープンエアドライブが楽しめる。

フォルテ・デイ・マルミからフェラーリの聖地マラネッロを目指す約250kmの試乗ルートには、歴史的なクラシックカーラリー「ミッレミリア」のコースとして知られるフータ峠も組みこまれている。これまで海外でひとりでドライブした経験がない僕にとって、さらにフェラーリであるということも相まって、緊張と興奮の試乗となった。

早速運転席に収まりスターターボタンを押すが、V6ユニットは目を覚まさない。右パドルを引きギアを1速に入れアクセルを踏むと、モーターのみでスルスルと動きだす。この静かなスタートは、住宅街に住むオーナーにとっても有り難いポイントになるだろう。

アウトストラーダに乗り時速100kmくらいまで速度を上げても、一向にエンジンはかからない。そのまま20kmほど走ると、「フォン!」という独特の咆哮(ほうこう)とともに突然エンジンが目を覚ました。始動は極めてスムーズで変な挙動はない。そのままアクセルペダルを踏みこむと、今度はV6ユニットが放つ甲高いサウンドがこれでもかと言わんばかりに僕の耳を刺激してくる。

フェラーリ 296 GTS

「296 GTS」の車名の由来である、新開発の2.9L V型 6気筒ツインターボエンジン。エンジン単体で663cvという大パワーを実現しながら、従来のV8ターボに比べ軽量コンパクトに仕上げられているのが特徴。

「我々はこのV6エンジンを“小さなV12”と呼んでいます。V型12気筒に匹敵する高周波のサウンドを目指して開発したからです」。

試乗前のブリーフィングで開発担当者はそう語っていたが、レースカー並みのパワーといい、刺激的なサウンドといい、小さなV12とは言い得て妙だと思った。

かようにアクセルペダルを踏みこめば、「296 GTS」はスーパーカーならではの牙をむくようなすごみを感じさせる。一方、エンジン始動後も、一定速度で流すなど負荷が軽い状況では、静かなモーター走行に戻る。運転していてもハイブリッドであることを意識させないスムーズな切り替え。まさに遊び心と知性を感じさせる振る舞いなのだった。

フェラーリ 296 GTS

「296 GTS」には、そのパフォーマンスを最大限愉しみたい人のためにサーキット走行に最適化した「Assetto Fiorano」というパッケージも設定。伝説的なレースカーをモチーフとする特別なカラーリングもオーダー可能。

「296 GTS」とともに外へ飛びだすことで、得られる発見がある

マラネッロまでは、時に緊張と興奮のドライブとなったが、ステアリングを握る手が汗ばむことはなく、至極快適だった。「296 GTS」は830cvのスーパーカーであることが嘘のように扱いやすく、時にその圧倒的なパフォーマンスで僕を心地よく刺激し、時に高い快適性で寄り添ってくれた。

どこまでも続く水平線を横目に延びるロングロード、表情豊かな碧い海を望む美しいマリーナ。そして、フータ峠での雄大な自然と、時折現れるクラシックな街並み。フロントスクリーン越しにそんな景色を楽しみながらのドライビング。高速道路上の他車のドライバーはどことなく退屈そうだったけれど、「296 GTS」のステアリングを握る僕の心は躍っていた。

「296 GTS」での移動は、自分に変化をもたらしてくれた。景色、匂い、言葉、音など、目まぐるしく環境が変化し、初めての地に戸惑い、五感を研ぎ澄ませるからだ。単に移動するのではなく、その行為自体をより愉しく、ラグジュアリーなものにしてくれるのが「296 GTS」なのだと思う。このスパイダーとのドライブで、僕は刺激と贅に満ちた「移動知」を体感した。

かくしてフェラーリ「296 GTS」は、聖地マラネッロヘの巡礼となる試乗を通じて、僕にとって印象深く忘れがたい存在になったのだった。

フェラーリ 296 GTS

フェラーリ 296 GTS

外観と同様、レーシングの伝統を感じさせつつもエレガントな雰囲気が漂うコクピット。随所に配されたカーボンやアルミニウムと、シートや内装にあしらわれた高級イタリアンレザーとのコントラストが美しい。

フェラーリ 296 GTS

名車として知られるフェラーリ「250LM」からインスピレーションを得てデザインされた「296 GTS」。「250LM」からのモチーフは、リアフェンダーなど特にリア周りに見られる。従来のV8ミッドシップモデルに比べボディがコンパクト化されたことも、「296 GTS」のシャープな走りの一因となっている。

FERRARI 296 GTS
ボディサイズ:全長4565×全幅1958×全高1191mm
車重:1540kg
エンジン:2.9L V6 DOHC+ターボ
トランスミッション:8速AT
エンジン最高出力:663cv(488kW)/8000rpm
エンジン最大トルク:740Nm/6250rpm
システム最高出力:830cv(610kW)/8000rpm

問い合わせ
フェラーリ・ジャパン www.ferrari.com/ja-JP

COMPOSITION=山口幸一

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