CAR

2022.06.09

美食家によるスーパーカー晩餐会! マクラーレンの“おいしい”理由をあれこれ放談【後編】

"スーパーカー美食家"が都内の某フレンチレストランに集結。生粋のスーパーカー世代にして、スーパーカーに異常なまでの情熱と愛情を傾けてきた自動車ジャーナリスト3名が最新マクラーレン“おいしさ”の秘密を語り合う。前編はこちら

美食家3名による午後六時のスーパーカー鼎談

――マクラーレン初の新シリーズ、未来のカタチを示したハイブリッド・スーパースポーツ「アルトゥーラ」が発表されました。みなさんの第一印象は?

西川 とても楽しみですよね。ティザームービーで聞いたところ、エンジンサウンドも凄く快音になりました。エモーショナルだし、今からもう期待大やね。

山崎 なにせ今まで良くも悪くも、上から下までV8ツインターボ一本勝負だったからなぁ。失礼、泡のグラス、おかわりください!

大谷 マクラーレンを肴にお酒が進みますね(笑)。新型のアルトゥーラは「心臓」が変わるってことですもんね。120度V6エンジン、とてもよいらしいですよ。

西川 汎用性が無いからやらなかったけど、エンジンとしては理想的な広いバンク角を持つ120度。

大谷 要は90度だとね、モジュール化できますから。だからV6はみんな90度にしてるんですよ。

山崎 うん、いろいろ使えるからね。でもアルトゥーラは120度バンクでV6にこだわった。

西川 今やスーパーカーもバッテリーを積むのが当たり前の時代。車両重量の軽さにこだわるマクラーレンがハイブリッド・スーパースポーツでどこまで「軽さ」を武器に楽しませてくれるか、が本当楽しみやね。

マクラーレン初のシリーズ生産ハイパフォーマンス・ハイブリッド・スーパーカー「アルトゥーラ」。¥29,650,000〜

山崎 アルトゥーラは1500kgを切ってくるんじゃないの? えっと、車両重量は……1498kg(DIN)だね! 新設計の3ℓV6ツインターボガソリンエンジンとEモーターを組み合わせたシステム最高出力は680ps、最大トルク720Nm。超軽量エンジニアリングが生かされているよな。

大谷 新型アルトゥーラのハイブリッド・コンポーネントの総重量は130kgで、そのうちバッテリーが88kg、Eモーターが15.4kg。車両重量1498kgという数字は、ハイブリッド・パワートレインを搭載しないスーパーカーと同等のスペックなんですよ。

山崎 いかに超軽量にこだわっているかがわかるよな。軽さこそ、マクラーレンブランドの真髄だから。

西川 で、そのマクラーレンが初代MP4-12C登場の時のように我々スーパーカー好きをあっと言わせたあの衝撃を、「重いバッテリーを積んでも、やってくれてるのか」というところがもう本当にワクワクします。それをまぁ、アルトゥーラは正常進化ということで、普通にやってくるんだろうけどさ(笑)。

――熾烈な戦いの渦中にあるスーパーカーウォーズ。マクラーレンの立ち位置は?

大谷 それでいえばマクラーレンの思想だったり、クルマづくりのカタチはずっと変わってないんですよ。MP4-12Cから一貫している。ハイブリッド・スーパーカーの新型アルトゥーラまで、その差がとてもあるわけじゃないですか。でもそれはあくまで正常進化。あえて他社との話をすれば、スーパーカーブランドがマクラーレンを含めて、ほかに跳ね馬や闘牛が3つあるとすれば、この3つはよいバランスというか、3つそれぞれに個性がある。パフォーマンス競争はするんですけれども。テリトリーが違うから面白いですよね、本当に。

西川 ただ性能に一番ストイックなのはマクラーレンだね。はっきりとしたコンセプトがあって、それがわかるスタイルだったり。他の跳ね馬や闘牛も、そんな風には見えへんからね。どっちかというと色み系。彼らも自分で言ってるけど、コレクションカーなんだよと。彼らのつくるスーパーカーはね、要するにミニカーを一台買ってください、という売り方。マクラーレンはそれをしない。今後はするかもしれへんけど。

マクラーレンの公道走行可能な歴代アルティメットモデル。すべて限定生産車で左上から「P1」、右上「セナ」、左下「スピードテイル」、右下「エルヴァ」。

山崎 コレクションカーといえば、マクラーレンはリミテッド・エディションのことを「アルティメット」と名付けてほかのモデルと区別している。マクラーレンのアルティメットはコレクションカーでもあるよな。

大谷 これまで公道走行できるロードカーとしては4台のアルティメットがある。第1号はプラグインハイブリッドの「P1」(限定375台、約1億円)で、サーキット志向の「セナ」(限定500台、約1億円)。そして最高速度403km/hに達する「スピードテイル」(限定106台、約2億4000万円)。さらにフロントガラスレスでルーフもないロードスターが「エルヴァ」(限定149台、約2億円)です。結局、アルティメットだからといって、走りをあきらめていたりとか、捨てたりとかってことはないので、ちゃんとそこにも、マクラーレンならではの走りの世界観がありますよね。

西川 レースマシンから大きく進化しているっていうのがあるじゃないですか。だから単純なコレクションカーじゃないと思っていて。もちろんコレクションではあるのだけれども、コレクタブルなクルマなんだけど。他のブランドがやっているものは、実はあまり性能にこだわってないんですよ。突出した性能にはこだわっていない。

山崎 性能もそうだし、マクラーレンのアルティメットは、何か革新的な技術ができたときに、出てくるクルマ。そういう意味で、決して趣味でコレクトするクルマではないなと個人的には思う。

西川 それはやっぱり、他のライバルたちにロードカーづくりにおいては長い歴史がもっとあるんで、さまざまなことができるっていうのもある。オマージュ的なことも然り。

大谷 でもそれって、結局人の感性に訴えかけることじゃないですか。だけど、ここには感性が、感動的じゃないって意味じゃないんだけど、あくまでもマクラーレンが訴えるのはピュアなドライビングプレジャー。

西川 そう、だからマクラーレンのアルティメットもやっぱりパフォーマンスカーなんだよなぁ。

大谷 だって一番速いクルマなわけですよ。そういうことなんですよ。他のブランドだと、特別なものが必ずしもサーキット走って速いかっていうと必ずしもそうではない。ストーリー性であったり感動で売ってたりするから。

スーパーカー世代のジャーナリスト3兄弟。左から自動車ライター西川 淳、モータージャーナリストの山崎元裕と大谷達也。

――スーパーカーといえば、最高速度は500km/hに到達しようとしています。最高速への飽くなき挑戦はまだまだ続きますか?

山崎 今後のブガッティ シロンだね。どうなるかわからんけどね。

西川 最高速の歴史を端的に紐解くと1970年代の第一次スーパーカーブームで跳ね馬と闘牛の300km/h口プロレスがあって、第二次スーパーカーブームで300km/h台が現実に。そして1990年に登場したマクラーレン F1が380km/h 以上の性能を持ってライバルを凌駕した。

大谷 初のロードゴーイングカー「マクラーレンF1」は当時、最速を誇ったV12エンジンの量産モデル。多くの点において史上最強のスーパーカーですよね。当時の新車価格は1億円、それも今や10億円以上はくだらないという金額で取引されているのも頷けます。

山崎 そこにブガッティが400km/hに挑んだ。ブガッティは500km/hもやる気でしょ。そこに存在価値があるから。

大谷 ブガッティは最高速がアイデンティティーになっているよな。

西川 もうすぐだもんね。今490km/hちょい(最高速490.484km/hを達成 )だから。

マクラーレンF1。エンジニアリングはF1マシンの設計で知られるゴードン・マーレー。627bhpの最高出力は当時、世界でもっとも出力の高いクルマとしてギネス記録に。

山崎 技術的なこととか、芸術性もあれば、歴史もあるし、レースのヘリテイジもあるわけじゃん。すごいブランドだよなーってブガッティは。そもそもマクラーレンとは比べる対象が違うんだよなぁ。

西川 でも、基本的に欲望オリエンテッドなんで。すべて。望む人がいる限り性能はどこまでも上がっていくと思う。そして、これからのスーパーカー? ハイパーカーと言ってもいいハイパフォーマンスカーは公道を走る「オンロード」とサーキット専用車「オントラック」とそれぞれ分かれていくと思う。環境は変わっていくと思うので、ロードカーはロードカーでどう進化していくのか楽しみだけど、トラックパフォーマンスはね、これからも上がっていくと思うし。その両極でやっていくんじゃないかな。だからサーキットに縁のあるブランドは強いんですよ。

大谷 はい、跳ね馬も、マクラーレンも。

西川 軸足を高くおいてね。モータースポーツのヘリテイジがあるとやっぱり使いやすいし。カスタマーも理解しやすい。「なんでそんなクルマつくっているの?」って言われたら、「だってうちはこうですもん」って過去やレースに紐付けられますから。

山崎 だから日本のメーカーみたいに、レースを途中で辞めちゃだめなんですよ。続けないとブランドは育たないんですから! 泡のグラス、おかわりをください。

大谷 山崎さんアツくなってますね!

前編【マクラーレンの"おいしい"理由をあれこれ放談】はこちら
McLaren Automotiveの公式ウェブサイトはこちら

西川 淳
1965年生まれ。京都在住の自動車ライター。ハイパーカーからスーパースポーツ、ラグジュアリー、クラシックカーまで造詣が深い。リクルートに入社後『カーセンサー』の編集者となり、「関東版」の副編集長を務めた後、フリーランスに。

山崎元裕
1963年生まれ。中学生の頃にスーパーカーブームの洗礼を受け、以来スーパーカー超王とあだ名がつくほど、スーパースポーツカーが好物。世界各国のオートサロンを飛び回る日々だったが、最近は渡航制限で自制中。

大谷達也
1961年生まれ。電機メーカーの研究所で7年間エンジニアとして勤務したのち、老舗自動車誌の編集部へと転職。以来、20年間にわたって自動車メディアの最前線で情報発信を続ける。2010年より自動車評論家に。日本モータースポーツ記者会会長。

TEXT=伊達軍曹

COOPERATION=オーベルジュ・ド・リル トーキョー

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