CAR

2022.03.02

美食家によるスーパーカー晩餐会! マクラーレンの“おいしい”理由をあれこれ放談

“スーパーカー美食家”が都内の某フレンチレストランに集結。生粋のスーパーカー世代にして、スーパーカーに異常なまでの情熱を傾けてきた自動車ジャーナリスト3名が最新マクラーレンのおいしさの秘密を語り合う。

午後六時のスーパーカー鼎談

――そもそもマクラーレンとはどんな存在ですか?

西川 50年以上の歴史を誇る世界最高峰のレーシングチームと、そのロードカーブランド。以上!

山崎 俺にとってはインテリジェンス。それらの歴史を活かすことでこの10年、ものすごく成長したスーパーカーだな。大谷さんは?

大谷 同じく。サイエンスに裏付けされてるブランドですよね。モータースポーツとかF1(フォーミュラーワン)って、ロマンだけじゃ勝てない。サイエンスという裏付けがないと、やはり速いクルマはつくれませんから。それを今乗ってきたマクラーレン 720Sやマクラーレン GTのロードカーであらためて再認識しました。

西川 上方向に開閉するディヘドラルドアもそうだし、いまだ2ドアクーペにこだわりを持ち、流行りのSUVをつくらないと宣言している武闘派スーパーカーブランドもほぼマクラーレンだけやね。

山崎 闘牛を皮切りに、跳ね馬もドル箱のスーパーSUVを送りだすという時勢にあって、そう、マクラーレンは希少な存在だよ。

大谷 僕は本国のマクラーレン責任者にダイレクトに聞いたことがあります。「SUVつくるんですか?」って聞いたら、つくらないと。「なんでわざわざ、自分達が得意じゃないことをやらないといけないんだ」と。ミッドシップ2シーター以外は必要ないって。

山崎 なるほど。ミッドシップで4座はありえるんじゃないの?

大谷 それはあるかもしれません、SUVはないよって話ですね(笑)。

スーパーカー世代の自動車ジャーナリスト3兄弟。今宵はマクラーレンをメインディシュに乾杯!?

――マクラーレンのアイデンティティとは

大谷 まずは「パフォーマンスがいい」ってとこじゃないですか?

西川 そうそう。それに「ギミックがない!」――これに尽きる。そういう意味ですごくピュアなブランドやね。

山崎 「走るために」「機能のために」……それ以外のものは捨ててると言ってもいい。ちなみにマクラーレンのクルマでは「コンフォート」という一番柔らかなドライブモードでしか走った記憶がないんだけど、おふたりは?

西川 僕もそう、ほとんどコンフォートモードやね。変えなくても十分楽しくて。

大谷 クルマによっては、もうちょっとマシンとの“共鳴周波数”というか、グルーヴ感を上げたくて、スポーツモードやらトラックモードやらを使いたい! って思うクルマもあるんだけれど、マクラーレンの場合はそういう気持ちにならない。もともと設定されている共鳴周波数が高いんだと思う。だからコンフォートモードのまま、目を三角にして走っても問題ない。

西川 マクラーレンのクルマって、例えば日本のロードスターの人馬一体とは違って、ドライバーの手足と腰がクルマにつながっているかのような一体感があるんだけど、それがコンフォートモードにおいても実現できている。

マクラーレンに乗ると終始ニンマリになる、モータージャーナリスト山崎元裕。

大谷 はい、分かります。だからマクラーレンはコンフォートモードでも気分よく正確無比に走れる。

西川 大抵のクルマはコンフォートモードに入れた瞬間、違うキャラクラーのクルマになるからね。

山崎 でも、マクラーレンの場合はある意味変わらないから、運転中は「スポーツモード、必要ないかも……」なんて思っちゃうのよ。そしてマクラーレンは、数あるスーパースポーツのなかでも特に快適。乗り心地はいいし、コントロールはしやすいしで。

西川 山崎さん、せやねん。

大谷 例えば数学の問題があって、「ヤバい! 解くのに3日かかるかも……」と思っても、実際は30分で解けちゃったみたいな(笑)。それって問題が簡単なわけじゃなく、手に持ってるペンがものすごく頭の良いペンなんですよ。そんなスラスラ走る快適なペンを、マクラーレンがつくってくれてる――というニュアンスのクルマ。

「おいしいマクラーレン GT、いただきます」とは自動車ライターの西川 淳。

――スーパーカーの歴史のなかで、マクラーレンが世に与えた衝撃とは?

山崎 マクラーレン F1が1990年代に出たってこと自体がすごいよね。

西川 まったく空気読んでへんよね(笑)。妥協が一切ないというか。スーパーカーって、ある程度遊んだり妥協しないと、商品としては成り立たないものなんですよ。だからマクラーレン F1なんて商品としてはまったく成り立ってない。でも、それを差し引いても未だマクラーレン F1は僕にとっては「世界一のスーパーカー」なんです。あれを超えるスーパーカーは出ていないと思う。

山崎 ここに来る前にマクラーレン 720Sとマクラーレン GTに乗ってきたけど、マクラーレンがロードカーに本格参入した第1段モデルと言えるMP4-12Cが出てからまだ12年くらいしか経ってないんだよね。

大谷 正確に言うと、日本でデリバリーが始まったのが2011年。発表が2010年だったかな。

西川 クルマは基本的に正常進化してる、ずっと。やっぱりMP4-12Cは、スーパーカーに乗り心地改革をもたらして、世界は驚いたわけよ。

山崎 スーパーカー界に衝撃とサプライズを与えたのがマクラーレンだった。

モータージャーナリスト大谷達也「マクラーレン 720Sのストイックさが大好きなんですよ」

西川 なんでこんなに乗り心地がええのって! 初めて乗ったときにね。にもかかわらずサーキットに行くと、いきなり全開にできる。乗ったこともないクルマなのに。

山崎 600馬力の後輪駆動。そんなクルマは今までなかった。いわゆるスーパーカーってミッドシップ2シーター、マルチシリンダーエンジンで500馬力以上、みたいなクルマは存在しなかったから。

西川 その後じゃない? スーパーカーの乗り心地が劇的に良くなって、サーキットをまともに走れるようになったのは。あえて言えばホンダ NSXが90年代にやろうとしたんだけど、続かなかったよね。もったいないことをした。そんなマクラーレンの衝撃から実はずっと正常進化を続けていて。もちろん毎回、新型モデルに乗るたびに驚かされるんだけど、いい意味で色気を見せないというか。マクラーレン GTくらいかな、余裕が出てきたのって。それまでは一心不乱にあのMP4-12Cでつくりあげた世界観をどんどん進化させている。

大谷 モデルによってカタチの大小があるんですよ。でも、MP4-12Cでつくられたカタチはずっと一緒。アルティメットとかそういう世界限定のはさておき、基本的にはカタチは変わらないっていう。それがマクラーレン。

山崎 MP4-12C発表からまだ12年ほど。これってすごいことだよ。

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――マクラーレン、その“おいしさ”の秘密

大谷 マクラーレン 720Sはどうでしたか? マクラーレンGTも含めて。

山崎 俺はどちらかというとマクラーレン GTのほうが、性に合ってるかなって。コンフォートモードとか最高だし(笑)。

西川 僕もマクラーレン GTやね。試乗して戻ってきたときに、「あれれ、そういやスポーツモードに一度もしてへん」みたいな。忘れていて、慌てて試すみたいな。それくらい、なんかフィーリングが合うのよ。マクラーレン GTとそのコンフォートモードが気持ちいい。

大谷 僕だけが違うんですが、いつもマクラーレン 720Sがいいなって思って、言ってるんですよ。僕は前後左右の各ダンパーを油圧で接続したPCC(プロアクティブ・シャシー・コントロール)が好きなんですけど、マクラーレン 720Sの落ち着き方が好みで。センサーが増えて、より高精度になった。確かに乗り心地の部分で言ったらマクラーレン GTのほうが好きなんですけど、マクラーレン 720Sのフラットライドな乗り味、鋭い走りが本当に自分には刺さっていて。でもGTが嫌いってことじゃない。

西川 マクラーレンは走りがとにかく、おいしい。

大谷 ライバルスーパーカーと比べると、それぞれのブランドに「違う味」と「魅力」がありますよね。そのうえで言えば、マクラーレンが一番ピュアですね。ドライビングというものに対して最もピュアでおいしい。

西川 運転する人にとっては、これ以上ない料理やな。

大谷 妙なソースは付いてなくて、純粋な最上のお肉だけがドンッ! みたいなね。

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西川 そういう意味ではかなりストイックやな。

大谷 はい、ストイックですよ。実は体育会系。

山崎 乗ってるオーナーもストイックな印象。ここにいる3人は、実はマクラーレンに向いてない(笑)。あ、大谷さんは違うか。

西川 運転すること自体が好きな人にとっては最高のクルマだよね。逆に言うと、運転しない人にはマクラーレンの魅力って、正直よくわからないんじゃないかと思う。これ見よがしな感じもないし。

山崎 僕たちみたいな運転好きがマクラーレンに乗ると、もう30秒くらいでニンマリしちゃう。あまりにも走りが良すぎて。海外の国際試乗会でよく大谷さんと他のクルマを同乗試乗したりするんだよ。そうすると、つまんねークルマだなという時があってだよ……。

大谷 あー、覚えてます(笑)。その時は山崎さんは終始すごい暗い顔してましたね。ところがその直後に、マクラーレンを乗りに行ったら、もうずっとニコニコドライブしているわけですよ。

山崎 笑っちゃうんだよね。機嫌良くなっちゃって。だって走るのが楽しいんだもん。

次回、新型プラグインハイブリッド(PHV)スーパーカー「マクラーレン アルトゥーラ」について言いたい放題。後編に続く。

McLaren Automotive

西川 淳
1965年生まれ。京都在住の自動車ライター。ハイパーカーからスーパースポーツ、ラグジュアリー、クラシックカーまで造詣が深い。 株式会社リクルートに入社後「カーセンサー」の編集者となり、「関東版」の副編集長を務めた後、フリーランスに。

山崎元裕
1963年生まれ。中学生の頃にスーパーカーブームの洗礼を受け、以来スーパーカー超王とあだ名がつくほど、スーパースポーツカーが好物。世界各国のオートサロンを飛び回る日々だったが、最近は渡航制限で自制中。

大谷達也
1961年生まれ。電機メーカーの研究所で7年間エンジニアとして勤務したのち、老舗自動車誌の編集部へと転職。以来、20年間にわたって自動車メディアの最前線で情報発信を続ける。2010年より自動車評論家に。日本モータースポーツ記者会会長。

TEXT=伊達軍曹

PHOTOGRAPH=デレック槇島(StudioMAKISHIMA)

COOPERATION=オーベルジュ・ド・リル トーキョー

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