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2021.09.14

トヨタとスバルが手を組んで完成させた「トヨタ86」と「スバルBRZ」とは?

歴史ある名車の”今”と”昔”、自動車ブランド最新事情、いま手に入れるべきこだわりのクルマ、名作映画を彩る名車etc……。本連載「クルマの教養」では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から、ためになる知識を伝授する!

国産スポーツカー冬の時代を打ち破ったタッグ


かつて多くのクルマ好きの視線は、スポーツカーに注がれていた。そのため、国内自動車メーカーは、エントリーからハイエンドまで様々なスポーツカーを用意。しかし、ミニバンやエコカーブームの陰で、スポーツカーの需要は縮小。さらに2000年10月に施行された新たな排ガス規制が引き金となり、多くの国産スポーツカーが生産を終了してしまった。もちろん、技術的な解決が可能なものもあったと見られるが、改善に掛かる費用を当時のスポーツカーの販売台数で、ペイすることが難しいという現実もあった。このため、2000年代は、国産スポーツカー冬の時代と言えた。そんな悲観的なムードを打ち破ったのが、2012年に登場した初代トヨタ86とスバルBRZだ。トヨタとスバルが手を組むことで、販売台数が限られるスポーツカーに新型車を送り出すことを成功させた。

現実的な価格と維持費の低減、扱いやすいサイズとパワー、何よりもドライバーが操る面白さがある後輪駆動車であることにこだわり、幅広い世代をターゲットとした身近なスポーツカーが目指された。その原点となったのが、トヨタが1983年に発売した最後の後輪駆動のスポーツカー「カローラレビン/スプリンタートレノ」だ。軽量コンパクトで身近な存在として、多くの人に愛された一台で、若い頃に、このクルマで腕を磨いたと語るレーサーも多い。その愛称である「ハチロク」を、新型車の名として与えた。これは、同車の形式名称「AE86」だったことに由来する。一方スバルは、スバル車に使われる水平対向エンジンを搭載した究極の後輪駆動車を意味する「BRZ」と名付けた。当時のAE86をリアルに知る世代や国産スポーツカーに憧れた40代以上を中心にオーナーを集め、時を経て、そのクルマたちがセカンドオーナーの手に渡る過程で、若いユーザーも拡大。再び国産スポーツカーの存在を世の中に意識させることができた。

発売より9年目となる2021年に、トヨタ86とスバルBRZは第2世代へと進化。7月後半に先行してスバルBRZが発売され、今秋には、トヨタ86も新型へとシフト。新型は名称をトヨタのスポーツカーシリーズのひとつであることを示す「GR86」へと名称を改める。第2世代もトヨタとスバルの共同開発車となるため、引き続き、開発と生産はスバルが担当。このため、基本的なメカニズムは共通とするが、一部の部品を変更することでそれぞれの独自のキャラクターを与えている。

ヤンチャな顔のGR86と落ち着いた顔のBRZ

ビジュアル面の違いは、意外と少なく、エンブレム類とフロントバンパー程度。それでも、一目で違いを感じるほどの2台の印象は異なる。一言でいえば、力強くややヤンチャな顔のGR86シャープで落ち着いた顔のBRZといったところだ。


ただリヤスタイルは共通なので、瞬時に見分けるにはエンブレムに注視しなくてはならない。まさに2台は、双子なのだ。初代と比べ、2代目は、よりグラマラススタイルに。これには、スポーツカーらしい見た目の迫力を増すことと空力特性の向上にある。デザインを工夫することで、エアロパーツを取り付けたのと同等の効果が得られるスタイルに仕上げ、基本性能を高めているのだ。空力向上のデザインが分かり易く反映されているのが、ドア下の張り出しと、尻上がりとなるトランクだ。ちなみに、フロントバンパーデザインも空気特性を意識したもので、その違いが走りの差にも繋がっているというから徹底されている。


初代同様に2+2となるキャビンのポイントは、質感の向上だ。運転席まわりは運転に集中できるシンプルなデザインだが、操作系や配置も見直すことで、快適性を向上。フロントシートもより肉厚なデザインとなり、快適性も高めている。後席は広々とはいえないが、実用的なサイズを確保している。様々な車両情報が集約されるメーターパネルは、デジタル化され、エンジン始動時にアニメーションが表示される。この演出はGR86とBRZで異なるのも遊び心があって面白い。

エンジンは、新開発の2.4L水平対向4気筒エンジンを搭載。最高出力235ps/7000rpm。最大トルク250Nm/3700rpmを発揮。トランスミッションは、6速MTと6速ATの選択が可能。新型の目玉となるのが、新ATでスポーツドライビングを楽しめる変速制御を取り入れた。日常は普通のオートマだが、スポーツ走行を楽しむ際は、MTのように最適な変速を自動的に行ってくれる。誰にもフレンドリーなスポーツカーを目指した開発者たちの心遣いがしっかりと感じられるところだ。またGR86とBRZの差別化の為に、足回りの設定などが変更されているという。この足回りの違いには、なんと豊田自動車の社長である豊田章男氏の鶴の一声があったという。実は、GR86とBRZの足回りは同じ設定となる予定であった。しかし、優れたドライビングテクニックを持ち、トヨタやレクサスの車両開発時の走りの確認も行っている豊田社長が、ダメ出しをおこなったのだ。それはBRZの味付けに不満があったわけではなく、86がよりGR86に生まれ変わるためには、差別化されたキャラクターが相応しいと考えたのだろう。そこで開発終了目前にありながら、更なる走りの練り直しが図られたのだ。それだけ豊田社長も思い入れの強い一台なのである。

早速、プロトタイプの2台を乗り比べてみたが、見た目も中身も基本的な部分は同じGR86とBRZだが、乗り味は明確に異なる。常に安定したドライビングを意識したBRZに対して、GR86は後輪側を動かしやすい味付けがなされている。つまりGR86は後輪を滑らせて走るドリフトに繋げやすい設定となっているのだ。もちろん、クルマの横滑りを抑制する機能はあるので、スピンしやすいということはないが、後輪駆動車好きにはたまらない味付けといえるだろう。それではBRZが生真面目でつまらない後輪駆動車と考えるのは、早合点だ。むしろ、後輪の動きが一定なので、細やかなコントロールがし易い。だから、コントロールできる実力があれば、ドリフトも簡単に行える。やんちゃなGR86とクールなBRZは見た目だけでなく、走りでも表現されていることが実感。しかもクルマを操る楽しさはどちらも同等の魅力的があるため、GR86とBRZを比較して購入したいと考える人には悩みの種となりそうだ。

もちろん、カッコイイスタイルのクルマというだけで、GR86とBRZを選ぶのも有り。意外なことにスポーツカーだけど、走行音が静かなのだ。それでもドライバーには、臨場感あるエンジン音が届く仕組みとなっている。これはサウンドクリエーターと呼ぶ疑似エンジンを車内のスピーカーに流すもので、エンジン回転数とリンクさせることで、音でのエンジン回転数の認知やドライバーの高揚感に繋げる機能なのだ。だから、外に響くエンジン音は、車内よりずっと抑えることが出来る。またAT車では普段は車内のエンジン音を控え、スポーツモードに切り替えると、MT同様の迫力ある音が提供される仕掛けとなっている。


新型では、2.0Lから2.4Lに排気量がアップされているが、初代同様、扱いやすいサイズとパワーの軽量なスポーツカーである点はしっかりと受け継がれている。これからクルマはどんどん電動化され、新しい刺激を持つスポーツカーも続々と現れるはずだ。しかし、その流れでは、エンジンの力だけを使って走る醍醐味が味わえる時間は残りわずかとなる。今のうちに従来のクルマの価値を最大限味わえるスポーツカーに乗っておくのも一興ではないだろうか。BRZで308万円からという価格は、そんな体験の対価としてはリーズナブルだと思う。

TEXT=大音安弘

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