さまざまな職種のアート関係者が集まって開催するバザール。なかなか手に入りにくいもの、お得なお値段で買えちゃうものがあります。今回、僕も店を出しますが、出品予定物から1点お見せしましょう。■連載「アートというお買い物」とは
美術を取り巻く人々によるバザールが開催
アート関係者によるバザール開催のお知らせ。この渋谷ヒカリエで行われるのは3回目となる。出店者は有名ギャラリー、コレクター、展示施工の会社スタッフ、建築家、キュレーター、美術ライター、フォトグラファー、修復士、展覧会広報スタッフとまさにさまざまな立場で美術を取り巻く人々。今回ちょっとユニークな店としては、親がアート関係で働く子どもたちによる出店というものも。さて、どんなものが出てくるか。
僕も前回行ってみた。買ったのは、新品のカーボン三脚(半額で手に入れた)、アジアのある画家のドローイング(数千円)、某ギャラリーが某アーティストの展覧会用に作った展示台。これはしっかりとした作りだし、そのアーティストの作品に似てる(数千円)、某有名アーティストの食玩、本、雑誌……などなど。
今回は出店者側にまわることにした。何を売ろうかなと思って、部屋の中をごそごそ。年末の大掃除を兼ねられればいいのだけど、こんなものもあったのかー、とか、これはいただいたものだから売るわけにはいかないなー、とか、それでも欲しい人の手元にあった方がモノも次の持ち主も幸せだろうから、破格で売るならいいかなー、とかやっていて、時間はかかるし、片付くどころか、むしろ散らかってきた。
僕が出品するのは主に古本とか、雑誌とか、ポスターとかが中心になる予定。でも、たとえばこんなものも売ろうかなというのがこれ。クリスト&ジャンヌ=クロードのサイン入りポストカード。
1995年、14日間だけ、ドイツ、ベルリンのライヒスターク(旧ドイツ帝国議会議事堂、ドイツ国国会議事堂)がアーティストのクリスト&ジャンヌ=クロードによって布で包まれた。この歴史的建造物はかつてナチ党が一党独裁体制を確立した場所でもある。
クリスト&ジャンヌ=クロードが歴史的建造物を包むという作品で最近、耳に新しいのは2021年、パリの凱旋門を包んだこと。これはなんと1961年に構想され、クリスト(2020年没)、ジャンヌ=クロード(2009年没)の没後に実現したプロジェクトになった。
その凱旋門のプロジェクトはコロナ禍の真っ只中だったのでそうそう簡単に見に行くことは叶わなかったのだが、東京・六本木のデザインサイト21_21で「クリストとジャンヌ=クロード "包まれた凱旋門"」という展覧会で詳細が伝えられた。
あ、そういえば一度だけ、クリストとジャンヌ=クロードにインタビューしたことがあった。2008年、雑誌『ブルータス』の現代美術特集。東京のパレスホテルに滞在中の彼らに話を聞いた。アブダビのプロジェクトのことなどを話してくれた。ジャンヌ=クロードもまだ元気で、インタビューのあと、写真撮影のため、ホテル近くのお堀のあたりを彼らと僕たちスタッフで歩いた。彼ら2人は仲良く手を繋いでいた。
それはさておき、こちらベルリンのライヒスタークは1971年に構想され、1995年に実現したのだった。クリスト&ジャンヌ=クロードは生年月日が共に1935年6月13日でこのとき60歳だった。実現直後の記者会見でマイクを握ったジャンヌ=クロードがこう話し始めた。「となりのメガネがクリストで、こちらの赤毛がジャンヌ=クロードです」。
このベルリンのライヒスタークのプロジェクトをまとめたドキュメンタリー本がドイツの出版社TASCHENから出ている。およそ480ページ。
本の中ではクリストが現場のスタッフにまじってロープを引っ張っている様子の写真も載っている。
クリスト&ジャンヌ=クロードはプロジェクトに際して、美術館や政府、地方公共団体や企業などからの寄付をいっさい受ける事なく、プランを描いたドローイングやコラージュ作品などを売ることで、その費用を賄う方針を通してきた。このポストカードはプロジェクトのあとのものなので、引き続き、費用の穴埋めのために売られたのか、次のプロジェクトの資金に充てられたのかはよく知らないのだが。
そのときのこのポストカード、僕はあるギャラリー兼ショップで2点買った。値札にあるように1点1万円だったのだな。バザールに出すとなると、常識的には市中価格の半分が目安かな。となると、5,000円で売ろうか。でも、美術品的なものだからな。価値が上がってるかもしれないし、彼ら2人とも亡くなってるし。ちょっと高くしてもいい? あるアート通販サイトを見たら、なんと4万円だった。なので、バザールでは2万円でどうです? さらにメルカリにも出品されているのを発見した。100万円だって。いくらなんでもそれは無理でしょう。クリスト&ジャンヌ=クロードゆかりのものだといっても、印刷物にサインしてるだけだし。
こんな感じで、出品物をかき集めて、バザールに参加します。会場でお会いしましょう。クレジットカードやPayPayが使えない出品者も多いので、現金を持って行きましょう。会場の渋谷ヒカリエの中にもATMありますけど。
よろしくお願いします。
Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。
■連載「アートというお買い物」とは
美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。