コミュニケーションが減り、人との距離感に不安を抱えている人が多い。森田恭通氏流の、出会いを無駄にせず、距離感を読む、人付き合いの秘策とは。
人との距離感は、京の花街に学ぶ
ワクチンの接種により、今までと異なる道筋が見えてきたことは、今後における大きな希望です。しかし、テレワークの浸透や外出の制限などで、人と交流する機会が明らかに減ってきました。実際、気軽な意見交換はもとより、会食もなくなり、貴重なコミュニケーションの時間が失われています。このような状況により、人との距離感や付き合い方に不安を感じている人が多いのではないでしょうか。幸い、周りの人に恵まれ、僕は仕事における人との付き合い方や距離感であまり苦労したことがありませんが、ここまで気軽に人と会えない期間が続くと、若干不安な気持ちが生まれるのも事実です。
上手な人付き合いの手本といえば、京都の花街の芸舞妓さんかもしれません。巧みな話術で相手の心を摑み、深入りはせず、さり気なく、相手の心に引っかかる言葉を置いてくる。相手の負担にはならず、適度な距離感で、しかも忘れられない存在になるという技は、お見事のひと言に尽きます。
僕に巧みな話術があるわけではないのですが、話している時に見つかる共通項はなるべく聞き逃さないようにしています。そこからコミュニティが広がり、友人関係はもちろん、ビジネスチャンスにもつながることもあるからです。
コミュニティのなかには無限の可能性が存在しています。僕の場合は仕事柄、どのエリアがいいかなど、出店に関する相談を受けることが多いのですが、各地の街の特徴を知っていることはデザインを提案するうえでも、とても大切なことだと考えています。以前は仕事で国内外を飛び回り、常に情報をアップデートしていたのですが、今はこんなご時世。自分の足で情報をブラッシュアップすることが難しい。でも幸い、各地に友人やクライアントさんがいるので、みなさんが情報を届けてくださる。本当にありがたいことです。
今後も可能な限り情報が自然と入ってくる環境と自身の情報を整えながら、芸舞妓さんさながら相手の方に何かきっかけになるものを置いていけるよう、アンテナを張っておきたいですね。
普段から情報をアップデートしておくことも重要なのですが、その一方で人との「つながり」を結ぶにはバランスが肝心だと思います。人と人をつなぐ際も同様のことが当てはまります。
過去の経験からいうと「出会いはカジュアルであるべき」が僕の持論です。堅苦しく紹介すると、お互いが構えてしまい、気持ちが上手く溶けこまないことがあります。紹介するそれぞれを見て、敢えて前もって約束せず、お互いが構える暇をつくらないように気をつけています。気負わず、その人がすっと入れる空気感をつくる。それも人を紹介する際の気遣いだと思うからです。
年齢を重ねるごとに人間関係を断捨離し、限られた人との付き合いで十分というスタイルの人もいれば、常にオープンの人もいます。それでもビジネスにおいては、新しい出会いが必要不可欠。なぜならビジネスは人に支えられ、人から生まれるからです。どのような環境でも、それぞれのいい距離感を察知し、お互いにとっていい関係を続けられることが重要ですね。
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内外で活躍し、2019年オープンの「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける。その傍ら、’15年よりパリでの写真展を継続して開催するなど、アーティストとしても活動。オンラインサロン「森田商考会議所」はこちら。