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2020.11.04

デザイナー森田恭通「予算が限られていても仕事を諦めない。考え抜けば新たなチャンスがある」

「予算がない」という相談から始まる仕事が時々ある。だからといって、そこで諦めたりすべきではない。と森田恭通氏は言う。頭にある予算の組み立て方をゼロにし、一点集中で使うなど、アイデアを駆使してチャンスを狙う。お金の相乗効果より、お金×アイデアこそ勝ちだ。

森田恭通さん

限られた予算を楽しむことで、新しい方向性が見えてくる

バブル期であれ、コロナ禍であれ、商売をきちんと考える人ほど、予算はシビアに設定されるもの。借りられるお金の限界がある場合もあれば、資金が潤沢でも、ビジネスの採算を考えると予算は限らざるを得ない場合もある。そこをしっかり考えないと、商売でなく趣味になってしまいます。僕は「予算がない」と聞いて、そこにクライアントの理由と想いがあり、僕も納得できれば諦めません。なぜか。僕が諦めたらクライアントを失望させるし、引き受けた以上どんな仕事でも全力でやりきる努力をするだけだからです。

ではどう予算を組み立てるのか。例えば、内装の施工を進めるうえでも建材費だけでなくさまざまなお金がかかります。まずは消防法や建築法を守ってつくるただの箱、いわゆるスペースでいくらかかるかを算出。それをベースにアイデアを駆使し、全体のバランスを考えます。その際に厳しい予算をクリアする鍵は、「どこにお金を使うのか」。インテリアの場合、ひとつはアイラインと呼ばれる位置にあります。例えば床は掃除がしやすく、清潔が保てる素材で天井も一般的な塗装。でもアイラインという、目に留まりやすい位置には「デザインを施す」「マテリアルで印象づける」など予算をかける。するとインパクトが出て、記憶に残りやすくなります。

また「アイデアで勝負」する場合もあります。都内某所にある紹介制のバーをつくった際、限界まで予算をやりくりし、残すは壁面。オーナーさんは「地味なりにも華やかに」と希望。でも素材に凝る予算も、工賃も残っていない。そこで用意したのが10万個の画鋲(がびょう)です。素材が真鍮の画鋲を、隙間なくびっしりさすことで、驚くほどのニュアンスと華やかさが生まれました。さらに開店後、来店客が壁に画鋲をさすのがイベント化し、役者やミュージシャン、経営者まで、皆さん嬉々(きき)として画鋲を壁にさしてくださっています。

また担々麺が有名な希須林 赤坂では「木の素材感がほしい」というご要望でしたが、木材で装飾するには厳しい状況でした。「できれば、本物の木材を使いたい。どうしよう。担々麺はすりゴマを使うよな、そうだ、すりこぎだ」と、トンチさながらの閃(ひらめ)きで、すりこぎを欄間さながら並べ、間接照明をいれたところ、お店とも結びつきのある印象的な装飾となりました。

希須林 赤坂

ひとつの仕事を考える際、お金×お金で二乗になるより、お金×アイデアのほうが、より実り多き結果が生まれると思います。ではそのアイデアをどう考えるか。それはつくる側が、まずはそのプロジェクトのストーリーを知ることです。「きっかけ」「こんな想いが詰まっている」「素材にこだわりがある」という背景を知る。そして既成概念にある予算組みを一度リセットする。当たり前のように使っていたものを使わずに考えることで、手間や時間はかかるけれど、今までとは違う方向性が見えてきます。そして何より諦めないことが大事です。

しばらくは、どんな業種も予算が厳しい。でも予算とは、今までのやり方でつくられたものがベースです。新しいやり方を考え、しかもそれをネガティブに捉えるのではなく、楽しむ。そこから今まで見えなかった方向性やアイデアが出てくるのではないか。そう思うのです。

Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける傍ら、2015年よりパリでの写真展を継続して開催。11月からオンラインサロン「森田商考
会議所」をスタート。月に1度、ゲストを招いて対談予定。詳細はhttps://salondemorita.com/

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連載
森田恭通/経営とは美の集積である。

デザイナーとして、多くの経営者の経営展望や理念、彼らの求める機能やニーズに応えてきた森田恭通氏。そのなかに見えたのは、経営者こそが持つ、オリジナリティ溢れるセンスと美学だという。「経営」と「美」の関係性、その先にあるものとは。

TEXT=今井 恵

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