デザイナーとして、多くの経営者の経営展望や理念、彼らの求める機能やニーズに応えてきた森田恭通氏。そのなかに見えたのは、経営者こそが持つ、オリジナリティ溢れるセンスと美学だという。「経営」と「美」の関係性、その先にあるものとは?
待っているだけでは仕事はこない。不況のなかだからこそ、未来に向けて動きのある企業を見つけ、自分なりの営業をかけるべき、と森田恭通氏は言う。接点がない企業でも、つながる点はどこかに必ず存在する。その点を線でつなぎ、相手の心を摑むプレゼンをすべし!
やりたい仕事は、待つのではなく勝ち取る時代
厳しい時代を生き抜くためには、営業で新規の仕事を獲得していくことが重要です。待っていても仕事はきません。積極的に営業し、プレゼンで"やりたい仕事"を自ら勝ち取るしかないのです。
「この会社と仕事がしたい」。そう思える企業を見つけた際、信頼できる仲介者がいれば幸いですが、なかなかそう都合よくはいきません。実は僕も、いわゆる飛びこみ的なピンポン営業をやっています。接点のない相手とのアポイントを取るには、相手とつながる点を見つけ、線にすることが大切。知人、趣味や仕事仲間から点を見つけ、上手く線につなげることが、まずは第一段階なのです。
以前、フランスのリモージュを代表する磁器ブランド「ベルナルド」と仕事をできたのは、まさに点を線につなぐことができた一例といえると思います。
「メゾン・エ・オブジェ」(パリで開催される世界最大のインテリアとデザインの見本市)の会場で偶然社長の姿を見つけ、早速話しかけてみました。最初は見知らぬ東洋人に驚いた顔をした社長。でも僕にはとっておきの"点"となる知人がいたのです。フレンチの巨匠、故ジョエル・ロブションの名前を出し、日本のレストランの内装を手がけさせていただいた話をすると、急にガードが緩んだのを感じました。「一度、アトリエに遊びにおいで」という言葉をもらえればこちらのもの(笑)。万全のプレゼン資料とともにアトリエを訪ね、仕事に結びつけることができました。
第二段階ではプレゼン力が重要。せっかく門が開いたのなら、単なる挨拶だけに終わらせず、プレゼン資料を勝手に用意して持っていきます。立体的な図面まで作り、新しいプロダクトをデザインして持っていく。この時に用意するのは、未来を見据えた"半歩先"のもの。その企業に第三者が見て「これがあったら、この会社はさらに強くなる」と思う部分をデザインして持っていきます。立体的な図面やデザイン作成には、それなりに時間もお金もかかりますが、単なる企画書より「ここまで作ってきたのか」と評価され、相手の真剣度が増すからです。
スペインに本社を持つポーセリンアートの名門「リヤドロ」。ここのハンドメイド技術は素晴らしいと常々思っていましたが、どちらかというと女性的なデザインが多い。男性も部屋に飾れるデザインを提案してみてはどうか? と考え、当時のリヤドロジャパンの社長に相談しました。作ったのは、小さな花びらで象(かたど)ったスカル。薄く繊細な花びらは、リヤドロの技術だからこそ作れるものだと、スペインでプレゼンしたところ「いいじゃないですか」と好感触。2014年の作品ですが、6年経った今「また一緒にプロダクトを作らないか」という、嬉しい話をいただいています。
押し売り営業でもプレゼン資料は複数案を用意することが鉄則。そのなかには既存のイメージに寄せた案も持っていきます。それを見せ「こういう案もあるんですが、ここが僕は弱点だと思う。だからこそA案を提案します」と説明しつつ、相手に選択権を与えることも大切です。営業は数年先に答えが返ってくることもあるもの。今はそう考え、地道な努力を続けるタイミングなのかもしれません。
Yasumichi Morita
1967年生まれ。デザイナー、グラマラス代表。国内のみならず、海外へも活躍の場を広げ、2019年オープンの「東急プラザ渋谷」の商環境デザインを手がける傍ら、’15年よりパリでの写真展を継続して開催。