「007」のジェームズ・ボンドがこよなく愛するシャンパーニュ、ボランジェ。メゾンのフラッグシップとなる「R.D.」の2008年ヴィンテージが満を持して登場した。その魅力を今つまびらかにする。
大胆にして華麗。職人気質が紡ぎだす完全なるシャンパーニュ
「RD(アールディー)」といっても、管理栄養士の略語でもなければ、テレビアニメの主人公でもない。フランス語で「エール・デー」と発音するそれは、シャンパーニュのグランメゾンのひとつ、ボランジェが生みだすプレステージ・キュヴェの名前である。
「Récemment Dégorgé(レサマン・デゴルジェ)」の頭文字をとって「R.D.」。「最近澱抜きした」という意味を持つ。多くのメゾンがきらびやかなネーミングを与えるなか、このようにテクニカルな言葉をラグジュアリーなプレステージ・キュヴェにつけるところが、職人気質を貫くボランジェらしい。
「R.D.」が誕生したのは1967年。各メゾンが豪華なボトルに詰められたプレステージ・キュヴェを競うようにリリースしていた時代だ。ボランジェからも新たなフラッグシップの登場が期待されたが、3代目当主だった夫の死後、メゾンを率いていたマダム・リリー・ボランジェの回答は「我が社は中身で勝負」であった。
マダムはボトルのゴージャスさなど気にも留めず、セラーで寝かせていた1952年ヴィンテージを15年の熟成を経て澱抜き。これを「R.D.」の名で売りだした。偉大なシャンパーニュは澱との接触が長いほどブーケが複雑となり、テイストに深みや奥行きが増す。テクスチャーもまろやかになるため糖分を補う必要がないことから、ドザージュ(糖分添加)をごくわずかに抑えたエクストラ・ブリュットに仕上げられている。
徹底した手作業をどこまでも貫く
そもそも「R.D.」のもととなるヴィンテージ・シャンパーニュの「ラ・グラン・ダネ」それ自体が、平凡なヴィンテージとは一線を画し、プレステージ・キュヴェとして造られている。葡萄はグラン・クリュ(特級畑)とプルミエ・クリュ(一級畑)のみ。とりわけメゾンのお膝元であるアイや、モンターニュ・ド・ランス北部にあるヴェルズネのピノ・ノワールは、ボランジェらしいスタイルを実現するうえで欠かせない。果汁はすべて一番搾りという贅沢さ。
原酒はオーク樽で醸造。木の香りをつけるためではない。木目を通して微量の空気がワインと触れ合うことで、複雑なフレーヴァーが醸しだされ、長期熟成に耐え得るストラクチャーもワインに与えられるからだ。オーク樽は平均20年ほど使用したもので、その修繕のために、専任の樽職人まで置いている。
瓶内二次発酵前の瓶詰めにはコルク栓を使う。金属製の王冠が発明されて以来、どのメゾンも澱抜きまでは王冠で密栓するのが通例。しかし、ボランジェが10年かけて実験を試みたところ、5年以上の長期熟成では、王冠よりコルク栓のほうがよりフレッシュさをキープできることが判明したという。
さらに、澱を瓶口に集める動瓶や澱抜きも手作業というこだわりよう。機械化が進む現代でも、職人が1本1本チェックしながらのほうが、より高い品質を保てるとの哲学ゆえである。
そして満を持して「R.D.」の最新ヴィンテージとなる2008年が登場し、そのお披露目がパリの新たな観光スポットのオテル・ド・ラ・マリーン(旧海軍庁舎)で行われた。
2008年はシャンパーニュ通なら先刻ご承知の偉大なるヴィンテージ。天候的には決して楽な年ではなかった一方、それがかえってワインに無限のポテンシャルをもたらした。醸造責任者のドニ・ブネアは、2008年の「R.D.」を“大胆にして華麗”と表現する。
まさにその言葉どおりの素晴らしさ。まず黄金に輝くその色調に心を奪われ、柑橘やドライフルーツ、さらにヘーゼルナッツや蜂蜜など、幾層にも重なり合う複雑なフレーヴァーに陶酔。ついには口の中いっぱいに炸裂する風味と、とてつもなく長い余韻に打ちのめされる。
本質がわかる人にこそふさわしい、シャンパーニュの完成形。ワイン通を語るなら少なくとも1本、セラーに寝かせておかねばなるまい。
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