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2022.09.27

シャンパーニュの名門「クリュッグ」を率いる新社長とは?

シャンパーニュの名門クリュッグに新社長が誕生した。2022年4月から舵取りを担うのはマニュエル・レマン氏。若き新社長が描くメゾンの未来、市場の行く末とは?

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メゾンを築いた偉大な男の夢を未来永劫再現し続ける

初代ヨーゼフ・クリュッグが1843年にメゾンを興して以来、至高のシャンパーニュを造り続ける名門クリュッグ。2022年4月から新社長に就任したマニュエル・レマン氏は、ポリテクニーク(フランスの理工系最高学府)を卒業し、ボストン・コンサルティングに就職。2004年にモエ ヘネシー グループに入社という異色の経歴をもつ。クリュッグ家6代目のオリヴィエ・クリュッグ、女性シェフ・ド・カーヴのジュリー・カヴィルとともにレマン氏にインタビューした。

──これまでモエ ヘネシー グループではどのような仕事を?

もともとLVMHのワイン&スピリッツ部門における財務を担当していました。その後、モエ・エ・シャンドン、ドン ペリニヨンのプロダクション・ディレクターとして瓶詰めから出荷までのプロセスを管理。次にスペインとポルトガルの2カ国のビジネスを担当し、現職に就くまではMHCS(モエ・ヘネシー・シャンパーニュ・サーヴィス)のCEOとして、財務やサプライチェーン、QSE(品質安全環境)を監督していました。

──クリュッグの社長に任命された時はどのような気持ちに?

前任のマギー(・エンリケス氏)が推薦してくれました。とてもわくわくし、光栄なことだと思う反面、重い責任を背負うことになり、ナーバスな気分にもなりましたね。

──クリュッグ家6代目のオリヴィエ・クリュッグや、シェフ・ド・カーヴのジュリー・カヴィルとどのような関係を築いていきますか?

オリヴィエと初めて会ったのは2005年で、その後もたびたび会う機会がありました。ジュリーとは彼女がクリュッグに入社した頃から、ともに仕事をしてきました。まず互いの信頼関係を構築してしまえば、後はスムースにいくでしょう。私はオーケストラにおける指揮者のように、メゾンという楽団をまとめていくだけです。たしかに私は理工系出身なので、ジュリーをはじめ醸造スタッフが話す難しい専門用語も理解できます。それはひとつの利点ですが、シャンパーニュ造りについては現場の言葉を尊重し、私自身が口を挟むことはないでしょう。

──前任のマギーはメゾンをつねにリスペクトし、時には財務的にマイナスな判断も下しました。良い例が1万本生産し、パッケージまで用意済みの1999年のクリュッグ クロ・デュ・メニルを、「クロ・デュ・メニルとしては何かが足りない」という現場の意見を聞き入れ、直前になって出荷を見送ったことです。あなたが当時CEOだったらどうしたでしょう?

そのことはよく覚えています。私も味わってみましたが、なにが足りないのかわからず、あの決断には驚きました。しかし、初代ヨーゼフ・クリュッグの信条はノーコンプロマイズ。つまり、いっさい妥協はなし。メゾンを築いた偉大な男の夢を現在、そして未来永劫再現し続けることが私たちの役割ですから、あの決断は正しかった。もし私が当時CEOだったとしても、同じ決断をしたことでしょう。

──コロナ禍による一時的な停滞のあと、アメリカを筆頭にシャンパーニュ市場は著しい回復を遂げています。ロシアによるウクライナ侵攻など不確定要素はありますが、クリュッグとしては今後の市場をどのように見ていますか?

すごいリバウンドに驚いています。コロナによって人々は人生の儚さを知り、楽しめることは今のうちに楽しんでおこうという気持ちになったのでは? シャンパーニュの問題は需要にすぐ応じられないことです。とりわけクリュッグは熟成期間が長いので、量が足りないから、さあ、増産しましょうといっても、出荷できるまで最低7年かかります。現在、旺盛な需要に供給が追いつかず、世界中のクリュッグ・ラヴァーの方々にご迷惑をおかけしている状況。日本はクリュッグにとって最大のマーケットですから、希望に添えるよう最大限の努力をします。

──2021年はフランス中のワイン産地で史上最低の収穫量を記録することになりました。シャンパーニュには過去に収穫した年のワインを取り置くリザーヴワインというシステムがあり、クリュッグがつねに潤沢なリザーヴワインを保有していることは知っていますが、今後も遅霜、雹、不測の雨によるカビ系の病気など、気候変動に伴うリスクは増えていくでしょう。どのような対処を考えていますか?

気候変動による影響は頻繁に起きていて、今後さらに顕在化するものと考えています。短期的にはリザーヴワインで賄うことになりますが、その量には限界があります。中期的には、現在、アンボネイ村に建設中の新しいワイナリーによってリザーヴワインのキャパシティが上がり、気候変動に対応するフレキシビリティが上がるでしょう。長期的には、モエ ヘネシー グループ全体でブドウの栽培技術に関するハイエンドな調査研究センターを設立予定です。そこで遅霜対策や病害の抑制について、ソリューションを見つけていくことになります。

──CIVC(シャンパーニュ委員会)は2030年までに、シャンパーニュ地方の全ブドウ畑でサステナビリティの認証取得を目指しています。クリュッグではすでに自社畑で取得済み、またパートナーの栽培農家にも認証の取得を後押ししていると聞いています。具体的にどのような方策を取っていますか?

私自身、CIVCの委員のひとりで、「2030年では遅い、もっと早く進めるべきだ」と主張しています。パートナーの農家の皆さんに認証取得をしてもらうには、インセンティヴが必要で、金銭的な報酬に加えて、認証取得の煩雑な事務作業もお手伝いしています。また認証取得がどれだけより良い結果をもたらすのか、農家の皆さんに知っていただくことが重要です。サステナブルを実践することで生物多様性の維持に役立つこと、テロワールがより表現されたワインができることなどを丁寧に説明します。農家の皆さんは収穫量が減って、収入が減ることを心配しますが、私たちは量が減っても質の高いブドウが欲しい。だから、キロ単位ではなく面積単位で契約を結ぶこともあります。クリュッグが卓越したシャンパーニュを持続的に生み続けるには、パートナーの皆さんの協力が欠かせません。

Manuel Reman
1977年生まれ。インド人の父とフランス人の母を持ち、フランスのノルマンディー地方で育つ。エコール・ポリテクニークを卒業後、ボストン・コンサルティングを経て、2004年にモエ ヘネシー入社。今年4月、クリュッグの社長兼CEOに就任。

TEXT=柳忠之

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