鮨を間に職人と経営者のふたつの才能が高めあう
国内外に400以上の店舗を展開するメガネチェーンOWNDAYS代表取締役の田中修治氏。「普段飲み会や会食は少ないほうだと思います」と語る田中氏が、唯一、これまで何人もの大切な人を連れていったという場所が、鮨「秦野よしき」だ。
「大事なお客さんを連れていくこともあるし、家族と行くこともある。上品ですが、肩肘を張りすぎない雰囲気が気に入っています。とにかくご主人の雰囲気が好きなんです」と田中氏。
店主である秦野芳樹氏は、田中氏と初めて話した時の印象を今でも覚えているという。
「肩書も知らぬまま、いただいた予約時間の短縮をお願いする電話をしたんです。怒って当たり前なのに、快く応じてくれて優しさを感じました」
それ以来、田中氏は月に1度のペースで5年以上通い続け、ベストセラーになった自伝的著書『破天荒フェニックス オンデーズ再生物語』にも、この店を「本物の鮓(すし)」という言葉とともに田中氏が海外進出の決意を語った場として登場させている。
田中氏が「どのネタも絶品」という鮨は、「酸と脂」をコンセプトに、米酢のみを使ったシャリとネタの脂の一体感を表現。
「シャリに新鮮なネタがのれば、それで鮨。でもそれ以上の、もっと先の味を目指したいんです」と秦野氏。今、田中氏に食べさせたい一品を聞けば「あんこの握り」と即答する。「一度出して、ダメ出しを受けました。酢飯と甘みのバランスを改良したので、次回は『うん』と言わせたいですね(笑)」
カウンター越しに田中氏と交わすのは、経営論や将来の展望、息子を持つ親としての理想論までさまざま。互いに悩みを打ち明けることもあるという。
「以前、店の空気感をどう醸成するか悩んだ時、修治さんがさらりと『そのままでいい。やりたいようにやれば、お客様はついてくる』と、言ってくれました。それを聞いて悩むよりは自分らしく前進すべきと、思うようになりました」と秦野氏。田中氏の言葉に背中を押され、1貫から頼める高級立ち食い鮨という新たなコンセプトの店のオープンを決断。今後は店舗数を増やし、職人の育成にも力をいれたいと意気込む。
「修治さんに握るのは気合が入ります。味のよし悪しも言ってくれますし、自分自身が店主として芯が通っているかを試されている場でもありますから」
田中氏が心を許し最高の鮨を味わうこの場所は、客と鮨職人として、そして経営者の先輩・後輩として、カウンターを挟み、ふたつの才能が時を楽しみながら、互いに高めあう特別な場所に違いない。
AZABUJUBAN HATANO YOSHIKI
住所:東京都港区麻布十番2-8-6 ラベイユ麻布十番B2
TEL:03-6809-4250
営業時間:18:00~、20:30~(2部制)
定休日:日曜、祝日の月曜
席数:カウンター8席、個室カウンター4席
おまかせ¥27,500~
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Shuji Tanaka
1977年埼玉県生まれ。20代から起業家として企業再生案件を手がけ、2008年に破綻寸前のOWNDAYSを買い取る。現在は国内外で400以上の店舗を展開。著書に『大きな嘘の木の下で ~僕がOWNDAYSを経営しながら考えていた10のウソ』がある。