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2018.09.21

食べログフォロワー数日本一・川井 潤の 「違和感の多い料理店」vol.9

過去に広告代理店のマーケティング部門に在籍し、さまざまな食のプロジェクト(伝説のテレビ番組「料理の鉄人」のブレーンも!)を担当。現在は日本一の食べログフォロワー数を誇る、食に精通した筆者が、昨今のレストランや食のあり方に感じる違和感、そして変化のあれこれを綴るシリーズ。

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経営権と料理人と

最近経営と料理現場が分かれているケースが小さな店でも増えているようだ。

マネジメントと現場の分離独立。フランスやアメリカなどを代表とした大箱レストラン経営や日本の多店舗展開店やフランチャイズ店ではこの方式は当たり前だが、80万店を超える日本の飲食店のうち家族経営の多い食堂では料理人もしくは身内が経営するプレイングマネジャー方式が主流で、町中華や田舎の食堂はそのパターンが多い。

だが最近、都心にある店や高額レストラン系はさすがに個人経営とは行かず従業員を数名雇って、賃貸料や人件費のやり繰り、人材確保、食材選定・仕入れ、店の衛生管理、内部コンプライアンス(内部での窃盗や材料の横流し)問題、SNS時代の広報対策、キャッシュフロー状況把握など色んなところに目配せしながら運営しなければいけない状態にある。つまりは料理だけ作れれば商売できるどんぶり勘定時代ではなく、多面的に対応できるちゃんとした経営、組織が必要となっている。

日本商工会議所の「人手不足等への対応に関する調査」(2017年実施)結果によると「宿泊・飲食業」業界は他の業種よりも人材問題は深刻で、8割超の所で人材不足だと答えている。人材募集広告をかけてもなかなか集まらず、かえって広告コストだけがかかることも多い。さらには仕方なく少し質の悪い人でも雇用せざるを得なくなり、その結果さまざまな問題も起きてくる。

店舗経営者と話していると、先ほども書いた内部での窃盗事件や材料の横流し、キックバックの横行は昔から違和感なくほぼどこの店でも出てくる話で世間一般とは確実に違和感のある世界がそこにある。

さる有名な蕎麦店の話。数年前に信用していた従業員にお金を持ち逃げされ、結局その時納められれなかった税金が膨らんで、今もずっとご主人が背負っている状態が続いている。いくら人気店になって稼いでも、そんな輩がひとりいれば、店どころか人生までも暗転する。

となるとちゃんとしたマネジメントのできる組織、会社は重要な意味がある。そうした方が従業員も質の高い人間が集まりやすくなる。会社経営、組織運営を考える中でお金(資本や貸付)も必要となり、銀行借り入れだけでなく、ついついお金を持つ人たちから資金提供を受けるとともに経営に参加させたりする事になる。だがここでまた別の問題が出てくる。店の将来像には興味なく利益だけが欲しい資本家経営者も出てくるし、食べるという行為はみんながする行為なので、飲食に興味を持って妙に現場に口出しをする経営者も出てくる。

飲食ビジネスのことがある程度分かっていればまだ良いが、全くの飲食業素人が経営に口をはさみ始めると不幸が始まる。自分の店を持ちたい、というのも成り上がりのオーナーの願望にあることはよく分かる。「ワタシの店……」というワンフレーズを言いたい、それだけなら良いが儲けばかりに目のいく経営者やオーナーと組むと料理人の不幸が始まる。

今人気のイタリアンというかフュージョン料理店も来春に値段を倍にするという。今でもそれなりの値段はするし、その倍となると普通の人にはハードルが高い。この値上げもオーナーの意向だとか。料理人ご本人は今の値段のままでやりたいのだそう。マネジメントと現場の分離独立、言葉はキレイだが分離ではなく分裂に近いかも。今後どうなる事やら……それでも客はついていくのか……。見ものではある。

東京から電車で小一時間かかる場所にできたお寿司屋さん。寿司の腕前も良く、場所も海の近くなのだから地の魚を出せば良いのに築地から取り寄せたネタで東京の高級寿司店並みの金額をとる。だったら、東京在住の僕らは交通費もかかるし東京の寿司屋で食べるわぁ、と思うが、現地在住のオーナーが築地のネタを自分が食べたいからとそう言う仕入れの仕組みになってしまったよう。

それならオーナーのプライベート空間にして東京から客を呼ぶことを潔く諦めれば良いのに、客も入れたい、築地ネタだとこの値段になる、地元住民にはとてもじゃないけど出せない値段、ならば東京から客を呼ばざるを得ない、地元のネタが食べられず、その値段なら東京で食べるとなり全く中途半端な存在の店になる。これも別の意味でオーナーの欲求と客ニーズのギャップがビジネスにマッチしていない。

80年代バブルの時はアパレル系がレストランにチカラを入れて展開した。アルファ・キュービックの経営していたイタリアン「エル・トゥーラ」、ビギの経営していた「イ・ピゼッリ」(後に郷ひろみが二谷友里恵にプロポーズした店としても有名になる)など。ただこの頃はアパレルが手を出すだけあって料理の味もさることながら、よりオシャレな空間での過ごし方等のライフスタイル(ちょっとこの言葉は最近恥ずかしいかも)提案になっていて、僕らも背伸びしてちょっとオシャレして出掛けたモノである。オシャレして行くところにアパレル産業が参入した意味があったのだと思う。

ただ、あの頃と違ってどうも最近は味が全面に立ってワクワクするセンス(経営も店の雰囲気も)の店は少なくなった気がする。あの頃はこぞって空間も含めて時代の先端を行っている店に行くという意味合いもあり、入るのにドキドキすることも楽しみだったが今はそれも少なくなった。美味である事こそ重要で、そこに会員制やら紹介制やら高額化で入りにくい仕組みを作り、行ける貴方こそが選ばれているという演出をして、その事が気持ち良いと思う人をターゲットに動いている時代のような気がする。これも徐々に食べる側が気づき冷め始めて来ているとは思うが……。

空間でワクワクさせられることも少なくなったが、最近行ったところで言えば日比谷「鮨 なんば」、フレンチの「オマージュ」、「オード」などの食器へのこだわりは眼を見張る。銀座「盡」の食器、調度品へのこだわり、大阪「本湖月」の季節によって変える年代物の漆塗りのお椀や器など、さりげないモノへのこだわりも、面白い。ただ、ステキではあるがワクワク感とはちょっと違う。もっとも若い世代向けの店ではないからそういう本質、本物追求が受けるのかもしれない。

最近のアパレル系はこうした空間やものすごいこだわりをウリにするようなレストランではなく、パンやカフェなどの日常的に使う店展開が多く、空間にそれほどウェイトをかけていない。これなら若い人に普通に受ける店で背伸びする必要もない。

ジャーナル スタンダード、スピック&スパン、イエナ、などのファッションブランドを展開する「ベイクルーズ」はロブスターロールの「LUKE’S」、パン屋さん「ブール アンジュ(BOUL’ANGE)」(それ以前は「ゴンドラン シェリエ」も運営していた)等を展開。そしてジャーナルスタンダードと言う1ブランドを冠に使う「J.S. BURGERS CAFE 」も東京大阪など10店舗で展開、さらには「J.S. PANCAKE CAFE 」まで横展開している。ベイクルーズのホームページには「あらゆる生活シーンに楽しさや喜び、驚きや感動を提供していきたい―」とある。だからアパレルがコアビジネスなのではなく食も等身大ビジネスのひとつなのだろう。

ローリーズファームやグローバルワークなどのブランドを展開する「アダストリア」はアパレルブランドのひとつ「niko and…」ブランドを使って「niko and… COFFEE(ニコ アンド…コーヒー)」を原宿の旗艦店で運営している。そこで提供しているものは無添加の「相馬パン(浜松拠点)」を使ったサンドイッチやコーヒー。かつてのアパレルレストランは生活スタイルそのものを企業として世の中に提案していたが、むしろ最近はスタイル提案というより無添加の健康志向のパンを使って自社ブランドイメージ作りに内向きに表現しているのかもしれない。

あのバブル期の頃のアパレル企業が消費者に背伸びさせるように運営していたレストランとは狙いが違うようだ。経営方針がレストラン形態や食べ物構成そのものに影響する面白い事例である。

そして経営側が料理そのものへの理解、愛情が客よりも深くないと良い回転にならないケースもある。

博多で人気の焼鳥店「K」のフランチャイズ店が東京にも複数店舗出ている。僕自身、福岡へ行くと毎度訪ねるほど好きな店だが、東京にもあるのなら行ってみようと訪ねてみると、どうも味が違う。1本あたりの値段も倍近く高い。博多では一回の注文で10本、20本は当たり前にオーダーするし、ペロリと食べられるのだが東京では思うように串が進まない。仕込みの手間は変わらないようだが、温め直すための焼きが足りないのか、値段が高いから潜在的にスイスイ現地のように食べられないのか……。周りの友人達も同様の意見で、見た目は同じだがあのコダワリの味になっていないと異口同音に言う。

あの串焼きの本質に本当には迫っていないという事なのだろう……。ファンが多いだけにそこをハズすとかえって大きく失望させることになる。東京の店も満席続きで繁盛しているようだが、こうした本来の博多串焼きのファンの本音は聞こえていないのかもしれない。

多分こうした本質的なコダワリに経営側が気づかないと売上は例え今は順調だとしても、以前からの多くのファンの満足度は上がっておらず、だんだんこうした評判が色んな人の耳に入ることになる。ネットで簡単に情報が共有できてしまう時代でもあるし。商品へのリスペクトだったり、メニュー発案者へのリスペクトと愛情と探究心あれば本質に迫れると思うのだが、商売、利益に走ると本質から乖離してしまう。

経営者が料理や料理人、店そのものへの愛情を持たず、利益に走るとどうしても良い方向に行かなくなる。商売に対する冷静なる計算も必要だが人対人をベースとした商売が基本の飲食業なので、料理や料理人、はたまた顧客に対しての愛情や情熱がレストラン運営には相当重要なファクターになると思う。

こうした気持ちを持った上でビジネスの世界ではもはや古いくらいの仕組み、料理業界ではほとんど見たこともない「PDCA=Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)」の仕組みを一度試しに回してみることも価値ある事かもしれない。

vol.10に続く

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