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2025.12.27

思わず足を止める「日本酒1円」の看板。人を動かす"仕掛け”の力とは

「仕掛け」とは、人の行動を促したり、行動を変化させたりするために考案されたしくみのこと。こうしたしくみを体系的に捉え、学問として発展させたものが「仕掛学」です。「仕掛学」という世界初の学問分野を築き上げた著者が、街中で見つけた「これぞ」という仕掛け47種を楽しく解説した新書『なぜ人は穴があると覗いてしまうのか 人を“その気”にさせる仕掛学入門』より、一部を再編集してご紹介します。

仕掛のタネの分類と評価基準

今から紹介するのは、私が街で見つけた仕掛けのタネの一部です。

仕掛けサークルに照らし合わせながら見てみましょう。仕掛けの要件を満たし、ほぼ仕掛けとして成立しているものもあれば、もうひと息で仕掛けになりそうなものもあります。仕掛けのタネをたくさん集めておくことで仕掛けのセンスを養い、新しいアイデアに応用することができます。

ここでは、仕掛けのタネを仕掛けスコアの計算法を用いて評価しています。

まず、仕掛けを評価するためにFAD要件[公平性(F)、誘引性(A)、目的の二重性(D)]にユーモア(H)を加えた4つのポイントでスコアリングを行います。

・公平性(F):倫理的に問題がなければ1点、問題がある場合は0点(必要条件)

・誘引性(A):どれだけ人の注意や興味をひくか(0~3点)

・目的の二重性(D):表と裏の目的がどれだけ巧みに両立しているか(0~3点)

・ユーモア(H):思わず反応してしまうような面白さや意外性があるか(0~3点)

最終的なスコアは次の式で計算します。

仕掛けスコア=F×(A+D+H)

公平性(F)は必要条件です。公平性が欠けている場合、どれほど魅力的で面白い仕掛けであってもスコアは0点となります。

仕掛けスコアが7点以上であれば、仕掛けの要素がバランスよくそろった優れた仕掛けとみなされ、合格ラインとなります。

5~6点は何らかの要素が弱いため改善の余地がありますが、仕掛けのタネとしての可能性はじゅうぶんにあります。

1~4点は要素の欠落が目立ち、抜本的な再設計が求められる状態です。

0は公平性が欠如しており、そもそも仕掛けとして成立していないことを意味します。

楽しませながら儲ける極意

大阪・てんにある立ち飲み屋さんの看板です。1円はインパクトがあり、思わず足を止めてしまいます。

1円で商売をやっていけるのかと思われるでしょうが、非常に戦略的なアイデアなのです。こちらのオーナー曰く「1円にすれば、ここを通る人は面白がって写真に撮ったりつぶやいたりしてSNSに投稿してくれる」。つまりみんなが広告塔となり、勝手に宣伝してもらえるといいます。

実際にSNSで話題になり、テレビにとり上げられて知名度が一気にアップしました。人々を楽しませながら、広告費を一切かけずに宣伝ができ、お客さんも損しないし、お店も注目されて儲かる。Win-Winです。

ほかにも「立ち飲み屋やのに座れます」と関西弁で書かれたコピーも目をひきます。文字だけの看板なのにメリハリが利いていて、熱量が高いディープなエリアです。

言葉足らずの表現が謎を生む

「敷金礼金なし あります」

どっちやねん! とつぶやきながら撮影した一枚です。

ピンク色の文字が一文字ずつ一枚の紙にプリントされ、並べて貼りつけられているので、遠目からもとても目立つのです。パッと目に飛び込むよい掲示だと思います。しかし、何を言っているのかわかりません。

敷金礼金が「なし」なのか「あり」なのか。

近づいてみると、貼り紙の下に大きなパネルが二枚あり、たくさんの物件情報が載っています。「敷金礼金なし」と「あります」の間は一角(紙一枚ぶん)空いているので、左のパネルが「なし」物件コーナー、右のパネルが「あり」物件コーナーなのかもしれません。もしくは「敷金礼金なし」の物件が「あります」という意味かもしれません。

いずれにせよ、言葉足らずの表現が、かえって人の興味をひく逆説的な掲示です。

事件性の高い風景

散歩中に遭遇しハッと息をのみました。なかなかに事件性を感じる風景です。

近づけばマネキンだとはっきりわかるので少し安堵するのですが、それにしてもなぜここにマネキンが横たわっているのかは謎のままです。

人は人体のシルエットに敏感に反応します。マネキンのパーツだけで、人体の形であることが瞬時にわかってしまいます。

服をまとっていないマネキンは不気味です。首や腕が欠けた人体の形に加え、道ばたに横たわっていることで心理的なインパクトが大きく、ドキッとさせられます。

このマネキンは誰によってここに置かれたのか。そして最終的に誰かが片づけたのか。写真を撮ったあともずっと気になっています。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:なぜ人は穴があると覗いてしまうのか
松村真宏

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