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2024.10.05

家政婦にその日出たゴミを全て持ち帰らせる家主。その意外な結末とは

57歳で家を飛び出し家政婦に! 派遣された家々では驚きの出来事が…!?  当時87歳だった「家政婦 金さん」こと石川金さんによる衝撃の実話エピソードをご紹介。書籍『家政婦 金さんのドラマみたいな体験日記』より、一部を抜粋してお届けします。

「ゴミは持って帰ってちょうだいね」

そのお家には立派なお庭があり、落ち葉もたくさんあったので、今日のお仕事はお庭のお掃除がメインでした。

黒いゴミ袋に落ち葉を詰め、台所の野菜くずなども入れ、まとめてゴミ箱に捨てようと探したのですが、それらしきものがどこにも見当たりません。

エサを探す熊のようにゴミ袋を持ってうろうろしていると、ちょうど奥様が来られたので、

「すみません、ゴミ箱はどこでしょうか。これを捨てたいのですが」

と聞くと、

あら、うちにはゴミ箱ないのよ

えっ!? 奥様、今なんて?

「ゴミは全部、その日の家政婦さんが持って帰ることになってるのよ。会の人に聞いてないの? 今日はあなたが持って帰ってちょうだいね

ええ? キャンプならそれは常識ですけれども、わたくし今日バーベキューもしていないのですが……。

「バスと電車で帰りますので……ちょっと無理です」

「いつも家政婦さんは必ず持ち帰っているのよ。だからゴミ箱も置いてないの。うちも困っちゃうから、とにかくお願いね。はいもう帰っていいですから、ご苦労様!」

と取り付く島もない奥様に、私も仕方なく、

「はい、わかりました……。失礼いたします」

まあ中身は軽いし、黒いからもしかして大きめのバッグに見えないかしらとエレガントかつ早足で歩きつつ、バス停にたどり着きました。バスは幸い2~3人の乗客が前の方に乗っているだけ。私は一番後ろの奥に座りました。

次の都電も空いてはいましたが、それだけに目立っていたような気がします。「これ、ゴミに見えるけどゴミではありません」というような雰囲気を醸し出すよう頑張りました。大変に疲れました。

ゴミに見えないよう工夫した結果…

さて、明日からはどうしたものか。考えた末に思い出したのが、上京する時、布団を包んで送った大きな唐草模様の風呂敷です。風呂敷なんだから、これに包めば持ち運んでいてもおかしくないでしょう。よく見るとオシャレな気もしてきたし……シャネルに似たような柄なかったかしら。

次の日、お庭に出てみると落ち葉も昨日ほどではありません。昼食で出た野菜くずを骨が折れんばかりにしぼりながら、このくらいなら風呂敷を使わなくてもいけそうねと、ホッとしていると奥様が大きな段ボール3箱を抱えて登場されました。

これいらないから始末してね

段ボール3箱。ハサミとカッターでなんとか小さくしたものの、かなりの量です。ゴミ袋に詰めて風呂敷で包んで持ってみましたが、何せ段ボール。曲がるものかと主張が強く、手で持って提げてみると、足に当たって歩きづらい形と大きさになってしまいました。

仕方がないので背負って、お家を出ました。暗い坂道を上っていると、

「おばさん、おばさん」

と若者が自転車を引きながら近づいてきます。

「よかったらその荷物、この荷台に載せましょうか? 僕も同じ方向なので」

なんという優しい子でしょう。

「ご親切にありがとうございます。でもそこのバス停までですから」

嬉しい気持ちで乗ったバスも電車も空いていて、多少視線は感じましたが特に問題ありませんでした。寮の最寄り駅を出て歩いていると後ろから声がします。

「おばあちゃん、おばあちゃん」

おばあちゃんって私……? と振り向くと、自転車を引いた、今度はおまわりさんです。

「おばあちゃん、荷物大変だね。中身は重いの?」

「いえ段ボールの切りくずですから軽いです。中を見せた方がいいですか?」

「いやいや大丈夫、でも暗いし坂道だから、家まで送りますよ」

「ありがとうございます。家はすぐそこですから大丈夫です」

そしてまた一人で歩き出しましたが、こんな大きな荷物を背負って、腰も少し曲げてうつむきながら歩いているから、不審なおばあちゃんに見えるのかしら……しかしあの若者は「おばさん」って言ってくれたのに……まあお巡りさんは若者じゃないからちょっと目が悪くなっているのかもね……それにしても……。

こうして毎日ゴミを持ち帰るのは大変すぎると感じ、このお家のお仕事は辞めさせてもらいたいと思いました。でもなんて言おう。今までの人はみんなゴミを持ち帰っていたと言うし、いつもたくさんゴミが出るわけじゃないって説得されるかもしれません。

次の朝、早めに事務所のドアを開けました。会長さんに、

「あの……すみません、今行ってるお家のことなんですけど」

すると、

「そのお家なんだけど、実はさっき、先方から電話があってね」

「え?」

お断りしますって」

「え? 私を? 何か失礼でも?」

昨夜ゆうべね、あの家のご主人が、金さんが帰るところを車の中から見かけたらしいの。それが、『家政婦のおばさんが大きな風呂敷包みを背負って勝手口から出ていったけど、何か家のものを持ち出したんじゃないか』って奥様に言ったんだって」

「ええ!? 中身はゴミですよ。あのお家の」

「そうなんだってねえ。こっちはちゃんとやってるのに失礼千万な話よ。金さん、とんだ迷惑だったわね」

「いえまあ、でも辞められてよかったです」

「それにしても風呂敷って……そんなにゴミが出たの?」

「そうなんです、だからお布団を包んできた、こーんな大きな唐草模様の風呂敷で包んで、こうして背負ってヨボヨボ帰ってきました」

昨夜の再現をやって見せると、

「そりゃ今どき、そんな人いたら怪しいと思われるわよー」

事務所中のみんなで笑って、私は普通のおばさんに戻ったのでした。

この記事は幻冬舎plusからの転載です。
連載:家政婦 金さんのドラマみたいな体験日記
石川金,小栗左多里

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